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患者への投与記録解読へ 戦時中に治験、9人死亡 熊本のハンセン病療養所

 国内最多の約130人が入所する国立ハンセン病療養所菊池恵楓園(熊本県合志市)で戦時中から戦後にかけて、ハンセン病患者に「虹波(こうは)」と呼ばれる薬を投与する治験が行われ、9人が死亡したことなどを記録した資料計53点が昨年末までに見つかり、解読が進んでいる。投与方法や対象者の氏名も判明。同園で虹波が患者に投与されたことは知られていたが、実態解明に期待がかかる。

取材に応じる国立ハンセン病療養所菊池恵楓園の境恵祐園長=1月、熊本県合志市
取材に応じる国立ハンセン病療養所菊池恵楓園の境恵祐園長=1月、熊本県合志市
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波研究報告」と記されている
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波研究報告」と記されている
共同通信記者に開示された1943年の報告書の複写。当時、菊池恵楓園の園長だった宮崎松記氏の名前が記されている
共同通信記者に開示された1943年の報告書の複写。当時、菊池恵楓園の園長だった宮崎松記氏の名前が記されている
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波ニ依ル治療経過中死亡シタル症例ハ9例」と、9人が死亡したことが記されている
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波ニ依ル治療経過中死亡シタル症例ハ9例」と、9人が死亡したことが記されている
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波ニ依ル治療経過中死亡シタル症例ハ9例」と、9人が死亡したことが記されている
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波ニ依ル治療経過中死亡シタル症例ハ9例」と、9人が死亡したことが記されている
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に所蔵されている「虹波」=1月、熊本県合志市
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に所蔵されている「虹波」=1月、熊本県合志市
東大の鈴木晃仁教授(本人提供)
東大の鈴木晃仁教授(本人提供)
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に所蔵されている「虹波」=1月、熊本県合志市
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に所蔵されている「虹波」=1月、熊本県合志市
取材に応じる国立ハンセン病療養所菊池恵楓園の境恵祐園長=1月、熊本県合志市
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波研究報告」と記されている
共同通信記者に開示された1943年の報告書の複写。当時、菊池恵楓園の園長だった宮崎松記氏の名前が記されている
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波ニ依ル治療経過中死亡シタル症例ハ9例」と、9人が死亡したことが記されている
共同通信記者に開示された資料の複写。「虹波ニ依ル治療経過中死亡シタル症例ハ9例」と、9人が死亡したことが記されている
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に所蔵されている「虹波」=1月、熊本県合志市
東大の鈴木晃仁教授(本人提供)
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に所蔵されている「虹波」=1月、熊本県合志市

 ▽七転八倒
 虹波は写真の感光剤を合成した薬剤で、戦時中に陸軍が兵士の肉体強化に役立つと考え、研究したという。日弁連法務研究財団の2005年の報告書はハンセン病患者への投与について、重大な副作用を伴う「まったくの人体実験」と記載。元患者の一人は「患者の命を軽視する姿勢があったのだろう」と話す。
 「ああ生き延びたかなというぐらいにきつい薬」。15年の同園入所者自治会の機関誌に、山口県出身で、虹波を投与されたことがある長州次郎さんが苦しみを語っている。
 長州さんは飲み薬として投与されたが、そのたびに胃けいれんを起こし「七転八倒のような症状を起こしていた」「モルモット代わりに研究された」と振り返る。
 過酷な体験を裏付ける資料は園内に眠っていたが、05年ごろから学芸員を中心に進めてきた資料整理の過程で20年ごろ、ノートや報告書など数点を発見。自治会の要請で22年末から精査し、23年12月までに計53点を確認した。今後、既に見つかっていたカルテと照合するなど調査を進める。
 うち5点が共同通信記者に今回開示された。宮崎松記園長(当時)の名前を記した1943年の報告書には、運動力や視力の回復など効果があったとする一方、9人が死亡したと明記。別の資料は、注射による投与から数時間後、突然の発熱や頭痛、けいれんに見舞われ「全身の血管に針を刺したような感覚」を患者が訴えたとした。
 ▽人権侵害
 園によると、当時の宮崎園長らは旧日本軍から求められ、42年に研究を開始。終戦後も研究機関の支援を受けて続き、47年まで4段階に分け、投与方法などを試行錯誤した。死亡者が出た後も続き、治験者は判明しているだけで470人に上る。
 ノートを見つけた太田明自治会副会長(80)は「軍部の命令に従わざるを得なかったのでは」と推測した。境恵祐園長(52)は「人権侵害がなかったかを明らかにしたい」と今後の検証に意欲を示す。
 東大の鈴木晃仁教授(医学史)は、当時結核の治療薬として虹波が注目されたことから「患者たちは副作用を知らず、新しい薬と聞いて投与を受けたかもしれないが、合意したとは言えない」と指摘している。
   ×   ×
 ハンセン病 ノルウェーの医師、ハンセンが発見した「らい菌」による感染症。末梢神経がまひし、知覚障害や体の一部変形などが起きる恐れがあるが、感染力は極めて弱い。国は1907年から医学的根拠がないまま隔離政策を採り、患者を療養所に強制入所させた。40年代に新薬「プロミン」による治療法が導入された後も患者は断種・中絶の強要といった人権侵害を受け、96年のらい予防法廃止まで隔離が続いた。生活基盤を失い、今も多くの元患者らが療養所内で生活している。

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