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【被災自治体職員】業務増で疲弊、心のケアを 避難生活、心身不調恐れ

 能登半島地震の被災自治体職員の中には、自らも避難生活を送りながら働く人もいる上、地震対応で時間外労働が増加する傾向にある。ストレスを抱えて復旧に向け奔走するうち、慢性的な疲労が蓄積し心身の不調につながる可能性も。専門家は「頑張り過ぎるとオーバーヒートしてしまう」と危惧する。職員の心のケアなど負担を減らす取り組みが鍵となる。

避難所となっている石川県能登町立能都中で、ごみの袋を片付ける町職員の伊勢初香さん=2月
避難所となっている石川県能登町立能都中で、ごみの袋を片付ける町職員の伊勢初香さん=2月
石川県珠洲市役所で、健康管理システムのスマートフォン画面を見る市職員の石尾泰宏さん=2月
石川県珠洲市役所で、健康管理システムのスマートフォン画面を見る市職員の石尾泰宏さん=2月
避難所となっている石川県能登町立能都中で、ごみの袋を片付ける町職員の伊勢初香さん=2月
石川県珠洲市役所で、健康管理システムのスマートフォン画面を見る市職員の石尾泰宏さん=2月

 ▽車中泊
 石川県能登町立能都中では2月中旬、避難所運営を担う町職員伊勢初香さん(45)がごみの袋を片付けていた。息つく間もなく「発熱した人がいる」と相談が入る。経過観察のため別室に移る高齢者に付き添った。
 地震後1カ月は車中泊をしながら、多忙な業務に追われた。「すごく疲れた。でも疲れるのはみんな同じ。助け合いだから」。気丈に話した後、親戚宅に預けた子どものことを考え顔が曇った。「地震がなければ離れ離れにならなかったのに」
 珠洲市職員の石尾泰宏さん(45)は、発生当日から役場に泊まり、椅子に座った状態で仮眠を取りつつ被災者に対応。連続12日勤務もあった。「避難所から通う人や家族を亡くした人もいる。私たちも被災者です」。市によると、市庁舎で働く管理職を除く正規職員は1月の時間外労働が平均89時間で、過労死ラインとされる月100時間を超えた人も少なくない。
 ▽慢性疲労
 地方公務員災害補償基金によると、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被災した岩手、宮城、福島3県の自治体で、2011年3月12日以降の復旧・復興業務が原因と認定された公務災害は128件。うち心臓・脳血管疾患は2件で1人が死亡、精神疾患7件のうち3人が自殺した。
 能登の被災自治体職員の健康管理システムを開発した広島大の久保達彦教授(公衆衛生学)は「厳しい労務環境で、命懸けにも近い状態。自治体職員は道路や水道と同じようなインフラといえ、健康を守ることが重要だ」と指摘。疲労感が強く要注意の職員に適切な時期に介入する仕組みが大切とする。
 これまでの災害では、危機を乗り越えようと頑張り過ぎ、ふと気が緩んだ瞬間に体調を崩す人や仕事を辞める人もいた。別の専門家は「外部の支援者が去った時が本当の災害と言われる。今後は慢性的に疲労感が蓄積しやすくなる」と警鐘を鳴らす。
 ▽高リスク
 自治体職員への心のケアも始まっている。国境なき医師団は2月、輪島市職員約40人に現地でカウンセリングを行った。過去の災害でもケアを担った精神保健福祉士笹川真紀子さんが対面で、身体的なストレス反応がないかなどを確認。涙を流す人もおり、高リスク者が見つかった。
 過去には地震直後は気が張った状態だが、いつ終わるのか先が見えず次第に落ち込むケースもあった。「心配はこれから」と笹川さん。「被災者支援は長距離走。休みながら走り切る。『あなたのことも忘れていません』と伝える“支援者支援”も必要だ」

いい茶0

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