テーマ : 読み応えあり

「記者書評」・村上隆著・「文化財の未来図」 「本当の復興」を求めて

 能登半島地震で文化財も大きな被害を受けた。土地固有の歴史や風土を象徴する有形・無形の文化財は、人々を結び付け、励ます復興の力になり得る存在だ。「さまざまな時代に生きた人たちの生活の痕跡が重層して残っており、その証」として文化財を位置付ける本書。甚大な被害を見ると、その意味が一層強く迫ってくる。

「文化財の未来図」
「文化財の未来図」

 著者は富山県の高岡市美術館長などを務め、文化財に半世紀以上関わってきた。本書では昨今の展覧会の国宝ブームや、歴史的建造物も破壊したウクライナ戦争などに思いを寄せつつ、日本での文化財を巡る動きを総覧。文化財という概念や文化財保護法の成り立ち、戦争・災害にさらされてきた歴史などを俯瞰(ふかん)し、保存や継承、活用の課題に対し提言する。
 日本で「文化財レスキュー」活動の契機となった阪神大震災。当時は「手探り状態」だったが、それから各地を襲った地震のたびに実施されてきた。中でも、東日本大震災をきっかけに指定文化財ではない「未指定文化財」が注目された。「写真、ランドセルから日常生活用品、鋤(すき)、鍬(くわ)などの民俗資料に至るまであらゆるものを視野に」保存の提言を試みた著者。文化財は「心のインフラ」、つまり「住民の心を支える基盤」であるからだ。
 故郷の伝統行事や、何げなくもかけがえのない日常が失われ、立ちすくむ時、どう“元の街”を取り戻していくか。「新しい道路や建物ができても、それだけだとどこも同じになる。その街らしさは歴史や文化、自然からなるもの。文化財が残らない復興は本当の復興ではありません」。本書が新聞記事から引用した岩手県の陸前高田市立博物館学芸員の言葉だ。
 政府予算の約0・1%しかない文化庁予算が、あと0・1%増えるだけで前進することは多い、と著者は指摘する。守る人、受け継ぐ人がいて、今ある文化財は残されてきた。能登半島地震の被災地でも文化財復旧の動きが始まっている。(山口晶子・共同通信記者)
 (岩波新書・1034円)

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞