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【能登半島地震】防災無線、停電対策急務 東日本大震災の教訓生きず

 能登半島地震で発生した停電の影響で、被災地の多くの地域で防災行政無線が一時使えなくなっていた実態が明らかになった。東日本大震災など過去の災害でも同様のケースが相次いでいたが、教訓は生かされなかった。余震対応も含めた避難情報発信の運用が課題で、専門家は「停電の長期化を想定し、余震が来ても無線が十分に機能する体制の整備が急務だ」と訴える。

地震と津波で損壊したとみられる、石川県珠洲市の防災行政無線の屋外スピーカー=2月
地震と津波で損壊したとみられる、石川県珠洲市の防災行政無線の屋外スピーカー=2月
地震と津波で損壊したとみられる、石川県珠洲市の防災行政無線の屋外スピーカー=2月
地震と津波で損壊したとみられる、石川県珠洲市の防災行政無線の屋外スピーカー=2月
石川県珠洲市の防災無線の仕組み(イメージ)
石川県珠洲市の防災無線の仕組み(イメージ)
地震と津波で損壊したとみられる、石川県珠洲市の防災行政無線の屋外スピーカー=2月
地震と津波で損壊したとみられる、石川県珠洲市の防災行政無線の屋外スピーカー=2月
石川県珠洲市の防災無線の仕組み(イメージ)

 ▽危機感
 「もう一度大きな地震が来るかもしれない。どうにかして無線を生かすことはできないか」。1月6日、石川県の災害対策本部会議で珠洲市の泉谷満寿裕市長は危機感をあらわにした。停電長期化の影響で市内に設置された防災無線の多くが稼働停止に。同日未明には余震とみられる強い揺れが幾度も発生していた。
 珠洲市が設置する防災無線には非常用バッテリーが付いており、72時間の停電に耐えうる仕様・設計だが、今回の地震では停電の長期化で使えなくなった屋外スピーカーが続出した。
 対策には非常用発電機や大型の蓄電池盤の併設が必要で、自治体にとっては大きな費用負担となる。市の担当者は「運用コストを考慮すると、全てのスピーカーに整備するのは難しい」と説明する。
 ▽代替手段なし
 総務省消防庁が東日本大震災後、被災した太平洋沿岸の自治体を対象に行った防災無線に関するアンケート結果によると、回答のあった27市町村のうち、17市町村が防災無線を「利用できないことがあった」と答えた。
 倒壊・破損のほか、バッテリー・燃料切れを理由に挙げる自治体も多く、今後の課題として、24自治体が「非常電源確保」を挙げた。防災無線が利用できなかった際の代替手段には、消防団や職員による広報やラジオの活用などの回答がある中、2自治体は「津波後は手だてなし」だったとした。
 また、2019年に千葉県に大きな被害をもたらした台風15号の際も停電が長引いた結果、非常用電源が切れるなどし、防災無線が一時使えなくなる自治体が相次いだ。
 千葉県南房総市では、山間部に設置された中継局で自家発電機の燃料切れが発生。倒木が原因で燃料補給が難航し、復旧まで時間を要した。
 ▽太陽光に活路
 阪神大震災後の1995年3月、当時の郵政省(現総務省)は非常用発電機のない無人の屋外スピーカーなどについて、災害時に備えて、停電後のバッテリー稼働時間の目安を「約48時間」とする指針を出した。
 だが、今回の地震では珠洲市や輪島市が指針を上回る72時間の設計をしていたにもかかわらず、長時間の停電により多くの無線が稼働停止した。
 南海トラフ地震で津波被害が想定される愛媛県の沿岸自治体では夜間でも避難経路を確保できるよう、県が補助金を出し、停電に備え太陽光発電を活用した照明設備の導入が進んでいる。防災無線でもそうした技術を応用することで、停電が長期化した際も無線を生かせる可能性がある。
 愛媛大防災情報研究センターの二神透副センター長は「特に高齢者に避難を促す際、直接声で呼びかける防災無線の果たす役割は大きい」と指摘。「今回の地震を教訓に、防災無線についても、太陽光を使った非常用電源の導入など災害に強い体制の構築が求められる」と話した。

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