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【現在地】彫刻家の楽雅臣さん 子どもの頃の感動を光の器に

 彫刻家の楽雅臣さんが京都市の「ZENBI」で開催の「『光の器』樂雅臣彫刻展」で、茶道の茶わんをかたどった作品を発表した。京都で「楽茶碗」を約450年作り続けてきた楽家の次男。「子どもの頃に感動したこと」がモチーフになった。

「当初は、石が細かく砕けて有機物と混ざることで土になり、それが再び石に戻るという自然の輪廻をテーマにしていた」と話す楽雅臣さん
「当初は、石が細かく砕けて有機物と混ざることで土になり、それが再び石に戻るという自然の輪廻をテーマにしていた」と話す楽雅臣さん

 鴨川のほとりの石を細かく砕き、ゆう薬として素焼きの茶わんに施し、焼成するとガラス状になる―。幼少期に父の楽直入さんの楽焼の制作過程を見て「自然の変化に心が動かされた」という。
 学生時代から、自然における生命の循環と摂理をテーマに石の彫刻を制作してきた。近年取り組むのが「石器」シリーズ。「自然の恵みを食べることで命がつながる」と、食事の象徴として器を題材にした。
 中でも抹茶わんは思い入れが強いという。「いろいろなものがそぎ落とされ、茶道に合うようにできた器は、造形的な美しさや存在感を伴って魅力的」。まず素材に選んだのが、黒っぽい色の溶結凝灰岩。茶わん状に彫った石は焼成するとゆがみ、自然に返ったかのように見えた。「地中に埋まっていたような、時間の経過を感じられた」
 対照的なのが「光を取り入れた器」。石こうの一種のアラバスターを用いた新作は、透過した光をたたえるかのように、白っぽい茶わんの形が初々しく浮かび上がる。
 楽家は一子相伝。長男である兄が跡を継ぎ、十六代楽吉左衛門になることは決まっていた。その技術を学ぶことが許されず、「ルーツから離れようと思っていた」。しかし、制作を重ねてきた今、変化を感じている。「自然の摂理と人間の関係を表そうとした時、楽家の器を自分の中で整理して、ある種のルーツに戻ったのかもしれません」

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