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【国際女性デーに寄せて】防災や復興に女性の力を 地域の問題はグローバル 宮城学院女子大教授 天童睦子

 年始の能登半島地震に衝撃が走った。甚大な被害を伝える報道に過去の災害を思い出す。一日も早い安寧と復興を願う。

天童睦子さん
天童睦子さん

 東日本大震災から13年、大学の講義で災害女性学を取り上げた。東北出身の学生たちは幼少期の「3・11の記憶」をたどり、女性学を学ぶことで、避難所運営の性別役割分業やドメスティックバイオレンス(DV)、性被害の問題に思い至ったとのコメントを寄せた。
 ケア責任の偏在、女性の非正規雇用の問題、意思決定者の男女比の不均衡もある。宮城県でみれば、発災後の災害対策本部等委員の9割以上は男性だった。これでは多様なニーズに対応できない。
 自然災害であっても、災害は人々に等しく影響を与えない。そこには社会的脆弱性と構造的不均衡を背景に、より弱い立場の人々が被る人為的被害がある。普段は見えにくいジェンダーの不均衡は非常時に浮き彫りになる。それは男女格差を温存した日本のもう一つの姿なのである。それゆえ、平時から人としての尊厳の保障とジェンダー平等を実現する民主的な取り組みが必要だ。
 ではどのような具体策があるだろうか。災害についていえば、女性の声を防災計画に生かすには、地方防災会議の女性委員を増やす必要がある。
 2011年、都道府県防災会議の女性委員の割合は全国平均でわずか3・6%だったが、23年には21・8%となった。最高は徳島の49・4%。被災3県は岩手15・6%、宮城26・7%、福島20・4%で、以前より増えたものの国が目標とする3割に届かない。石川も17・1%とかなり低い。
 政治や経済の領域でも、決定権のある地位に女性が一定割合就くことは、女性の権利にとって重要であるとともに、既存の規範に縛られない変革の可能性をもたらす。国、地方自治体、企業、教育機関など、それぞれの場でジェンダー平等な組織運営を具現化したい。
 国際的な女性の地位向上の経緯に目を向けると、1975年の国際女性年、それに続く国連女性の10年で掲げられたのが「平等・開発・平和」だった。まず法の下の男女平等が挙げられ、不均衡な国際政治経済関係の中で貧困に直面する国の女性から開発が提起された。紛争に脅かされる女性は平和を挙げた。今あらためて「平等・開発・平和」をいかに実現するか、挑戦が続いている。
 近年関わったW20(G20に対して女性に関する政策提言を行う組織)では、女性の経済的自立を軸に、デジタル格差や気候変動、教育と能力開発を重要課題として、熱い議論が交わされた。
 印象的だったのは、途上国の農村女性が抱える経済的意思決定へのアクセス、因習的価値の乗り越えといった課題が、東北の被災地で出会った女性の語りから浮上した葛藤や困難と重なることだ。ローカルはグローバルとつながっている。
 2015年の国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」では「より良い復興」がうたわれ「女性・若者のリーダーシップの促進」が明記された。「人間の復興」を女性・若者のエンパワーメントと関連づけ、誰も取り残さない社会への道をひらいていこう。
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 てんどう・むつこ 1957年、仙台市生まれ。東京女子大卒。早稲田大大学院教育学研究科博士後期課程修了。名城大教授を経て現職。専門は女性学、教育社会学。著書に「ゼロからはじめる女性学」「災害女性学をつくる」(共編)など。

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