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「現在地」画家の松平莉奈さん 遠回りでも、深く理解して描きたい

 刃物を手に伝説上の怪獣を見据える現代的な装いの女性、一面のひもの連なりの中で泣きながらみそ汁を食べる人―。画家の松平莉奈さんは日本画の技法を駆使し、歴史や社会と自身をつなぐ創作に挑んできた。「自分がいいと思える絵を手探りで求め続けています。深く理解して描きたいから遠回りばかりですが」

「表現する手段を持っているからこそ、深いところまで理解したいと思う」と話す松平莉奈さん
「表現する手段を持っているからこそ、深いところまで理解したいと思う」と話す松平莉奈さん

 都内で開催の個展「3つの絵手本・10歳の欲」。日本統治下の朝鮮で発行された児童向けの絵の教科書や、日本の図画教育の起点となった英国の指南本を題材に、内容や背景を掘り下げた。見えてきたのは「西洋の絵の基準を日本に移植し、植民地化した国々にさらに移植する、支配の目線」。絵を描く行為も「自分の視点で切り取るという暴力性」をはらむと考える。
 長年テーマに据えるのは「他者についての想像力」だ。韓国に留学し、言語を学んだのも「多くの情報が飛び交う社会での表現者」として相互理解の道を模索したいから。偏った目線ではなく「異文化に出合う喜び、世界を知る楽しさをどう感じられるか」と自問を続ける。
 日本画の探究も尽きない。明治以降に洋画との区別のため生まれた日本画は「成り立ちからして社会性を帯びたジャンル」。自身の特徴的モチーフであるひもには「私たちを縛り、隔てるものを打ち破りたい」と社会に対峙する意思を込める。同時に、いわゆる日本画的なものではない題材を描くことは、日本画が持つ「線や発色の魅力や強さ」を生かす可能性につながると感じている。
 描くために考え続ける。「まだまだできる表現が眠っている。とにかくたくさん描きたい。絵画に挑みたいという気持ちが強いんです」

いい茶0

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