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不登校でも「学校」に行かせるべき?③ 関係者インタビュー【賛否万論】

 不登校の子どもが増えていますが、公教育を支える学校と不登校の受け皿になりつつあるフリースクールの関係をどう考えれば良いでしょうか。小中学校の教員や教頭を経験し、早期退職してフリースクール「オルタナティブスクール しいの木」(焼津市)を開設した見崎聡さん(58)に、学校とフリースクールのそれぞれの実情と関係性について聞きました。

フリースクールで日光写真の実験に取り組む子どもたち=11月上旬、焼津市のフリースクール「オルタナティブスクール しいの木」
フリースクールで日光写真の実験に取り組む子どもたち=11月上旬、焼津市のフリースクール「オルタナティブスクール しいの木」
見崎聡さん
見崎聡さん
フリースクールで日光写真の実験に取り組む子どもたち=11月上旬、焼津市のフリースクール「オルタナティブスクール しいの木」
見崎聡さん

 (社会部・大橋弘典)

互いに補完し合える関係
元小中学校教頭でフリースクール代表 見崎聡さん

 開設したフリースクールでは、どのような活動に取り組んでいますか。
 小学校高学年が多く、焼津市内だけでなく静岡、藤枝、島田市などから通う子もいます。基本的には時間を区切らず自分がやりたいと決めたことを大切に活動していますが、子どもたちは知らないこともたくさんあり、知的好奇心を伸ばすために興味関心を持ちそうな植物や自然現象に触れ、工作などの体験活動も重視して提示しています。インターネットが普及した今、子どもはネット上の動画を見ていろいろなことを知っているという思いになっていますが、リアルな体験で面白さや不思議さを肌で感じ、疑問が湧き、自分なりの気付きを得られます。体験活動は一人一人の学びや成長の基になるため自己肯定感が高まり、子どもたちが変わっていきます。

 なぜ教員を早期退職してフリースクールを開設しようと考えたのですか。
 教務主任や主幹教諭、教頭という立場で、学校に登校できない子どもたちも学びたい気持ちを持っていると感じました。そのような子が少しでも元気に楽しく学ぶ場があればという思いが強まり、学校を補完するような施設が必要なのではないかと考えるようになりました。早期退職後2年間、各地の施設などを訪問して勉強し、フリースクールの開設に至りました。

 公立学校の実情もよく知っていると思いますが。
 学校には公的な役割があり、大きな集団でルールを基にして学ぶ良さもあります。授業でも行事でも子どもたちは集団の中で達成感を得られます。ただ、学習面で学校が児童生徒に個別対応することを考えると、1学級30~40人の中では児童生徒1人にかけられる時間はわずかです。例えば、45分間の授業で40人の学級の机間巡視(教室で子どもの机をのぞいて、それぞれの学習状況を確認する)をして1人1分ずつ回ったとしても、それだけで40分間使います。どの子にも満遍なく声をかけるのがなかなか難しく、私も学級担任時は言葉かけの偏りがないよう配慮していました。大人数を教育する難しさを感じている学級担任も多いと思います。

 フリースクールはどうですか。
 フリースクールは多くても20人程度。個に対応したそれぞれの学びができるので、大きな集団が苦手な子には適しています。複数人のスタッフがいて、1人に1日何十分間も声かけができます。だからこそ、子どもたちは笑顔に戻り、だんだんと自己肯定感が高まり、学校に行こうという気持ちが強まる子もいます。私のフリースクールの方針は、学校に戻りたければ戻ればいいし、戻らなくてもいい、子どもが選択すればいいという考え方です。学校に行きながらフリースクールに通う子もいます。フリースクールだけで囲い込まないように意識していて、学校とフリースクールは二者択一ではなく補完し合える関係だと考えます。

 フリースクールを運営して課題は感じますか。
 運営形態はさまざまで、障害のある子が通う放課後デイサービスや学習塾、通信制高校などと一体的に運営し、別施設の運営で一定の収入を得て、フリースクールや不登校の支援を行うケースもあります。ただ、フリースクール単体の場合、持続的な運営はとても難しいです。少人数教育なのでそれなりの費用がかかりますし、通常の学校のように毎年決まった子どもの数が入るわけではなく、学校に戻りたいという子どもは戻るので、収入の見通しが立ちにくい。1人でもフリースクールに通いたい子がいればスタッフをゼロにはできません。

 文部科学省は校内教育支援センターなど学校内の受け皿整備を充実させる方針ですが、不登校の子への行政支援の在り方をどう考えますか。
 いろいろと工夫をして子どもたちが学ぶ場所ができることはとても良く、支援センターができて学校へ戻ろうという子も出てくると思います。しかし、校舎や大きな集団が苦手という子どももいて、学校へ行くにはハードルが高い場合も多いです。そうした子の学校外の受け皿となるフリースクールの数は足りていません。通いやすさを考えると1中学校区に1カ所ずつぐらいあっていいのですが、運営が厳しく新たなフリースクールができないのが実情です。

 関係機関の支援を受けず孤立した不登校の子が相当数いると言われます。
 フリースクールの全国の平均的な学費は毎月3万円ですが、それでもスタッフの人件費を賄えず、多くの施設はボランティアで成り立っているのが現状です。施設の固定費や人件費を一定程度、行政が支援してもらえれば、子どもたちへのサポートも安定し、保護者の負担感もだいぶ少なくなります。ひとり親家庭など、フリースクールに通いたくても通えない子どももいるので、運営費の補助により学費を下げられれば、支援機関とつながっていない不登校の子がフリースクールに通えるようになります。他県でフリースクールに補助している自治体は、校長が出席扱いと認めていること、非営利の団体、一定の質のスタッフ配置などの基準を設けて運営を支援しています。施設補助を受けると行政がフリースクールの運営に介入し自由度が狭まると懸念する声もありますが、待ったなしで困っている子どもの学びを保障し家庭の負担を減らすためにできることは何か、いろいろな支援の仕組みを県や市町で整備することが必要だと思います。

 滋賀県東近江市長の「フリースクールは国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」という発言が物議を醸しましたが、焼津市では企業や住民から寄付が寄せられています。
 地域の団体や企業の方々が子どもたちを大切に思い、フリースクールの必要性を理解し、協力してくださることは本当にありがたいです。地元企業と虫を育てる共同プロジェクトや、地域の方による茶道や読み聞かせがあり、子どもたちはいろいろな人と触れ合う中で育っています。主任児童委員や市議会議員も見学に来てくれました。外部の人と手を取り合い、社会全体で子どもを育てていく環境ができればと考えています。そのためにも、フリースクールをオープンにして実情をよく知ってもらうことが大事になります。

 フリースクールに通う子は生き生きしています。
 そもそも「不登校」と言うとネガティブなマイナスイメージに捉えられ、学校に行かないことが悪いことだと思われがちですが、どの子も大切な一人、大切な人材です。安心して過ごしながら学べる場所で子どもたちは本来持っている元気を取り戻し、社会に出るエネルギーを蓄えていきます。まずは、マイナスイメージの払拭から始める必要があります。

 みさき・さとし 焼津市出身。焼津・小笠地区で公立小中学校の教員を29年間務めた。学年主任、教務主任、主幹教諭、小中学校教頭を経験。51歳で早期退職し、2019年にフリースクール「オルタナティブスクール しいの木」を焼津市に開設した。

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 次回も同じテーマで関係者インタビューを掲載します

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