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障害者アート展示の輪 静岡県の貸し出し事業 企業の活用増

 障害者の絵画作品を有料で貸し出し、作者を支援する静岡県の事業「まちじゅうアート」が2019年度の開始以来、レンタル数を毎年伸ばしている。企業からのレンタル申し込みが増えていて、CSR(企業の社会的責任)の実現につながる点だけでなく、芸術性そのものの評価が利用の広がりを生んでいる。

三井住友信託銀行静岡支店に飾られた絵画。「まちじゅうアート」を活用した企業による展示が増えている=8月初旬、静岡市葵区紺屋町
三井住友信託銀行静岡支店に飾られた絵画。「まちじゅうアート」を活用した企業による展示が増えている=8月初旬、静岡市葵区紺屋町

 静岡市葵区の中心街にある三井住友信託銀行静岡支店。店内に足を踏み入れると、大胆な色使いが特徴的な絵画がフロアの壁にずらりと並んでいた。7月初旬から8月初旬まで1カ月間、動物などをモチーフに障害者が描いた作品18点が飾られた。作品と作者を紹介するパネルのそばには、同支店の従業員の推薦文が添えられた。窓口で順番を待つ間、席に座ってゆったりと鑑賞する来店客の姿があった。
 同支店は絵画展を開催するにあたり、「まちじゅうアート」を活用した。県は事業初年度の19年度から、障害への理解促進や芸術振興を図ろうとPRに力を入れてきた。レンタル期間は原則3カ月以上で、複製画は作品1点に付き月額3千円、原画は月額5千円。毎月のレンタル料の30%が作者の報酬になる。
 県文化政策課によると、企業や行政機関がレンタルした作品数は19年度54点だったが、22年度には約4倍の197点まで増加。申し込み団体も19年度の9件から、22年度には48件まで拡大した。23年度は22年度をさらに上回る勢いで利用されているという。事業を受託し、作者と企業をつなぐNPO法人アートコネクトしずおかは「CSRやSDGsの機運の高まりで、企業からの問い合わせが増えている」と話す。
 社会貢献活動として今年3月に初の展示会を開いた同支店では、「待ち時間で楽しめた」「銀行っぽくない華やかな雰囲気になった」と来店客から好評だった。美術展に年間50回ほど通うという小泉健二支店長(56)は「社会貢献の前に、そもそも美術作品としてクオリティーが高い。展示をきっかけに来店する方もいて、お客との接点が増えた」と実感する。「まちじゅうアート」では現在800点以上が貸し出し可能で、同支店は今後も定期的に展示会を企画していく考えだ。
 事業を所管する県の部署は、20年度に障害者政策課から文化政策課に移った。障害者の社会参画促進という福祉性よりも、作品の芸術性に焦点を当てたいとの思いが背景にある。同課の担当者は「まちじゅうアートで芸術性に目を向け、その後も作家を応援するきっかけにしてもらえたら」と期待を込める。
 (政治部・大沼雄大)

 

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