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社説(2月12日)介護報酬改定 訪問サービスなぜ減額

 2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題とした。
 事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービス提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。
 ただ今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスは引き下げられる点だ。
 訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスである。家族にとっても、訪問介護を使うことで仕事との両立が実現できているケースは少なくない。
 介護職員の平均賃金は全産業平均より月約7万円低い。22年には介護の仕事を辞める人が働き始める人を上回る「離職超過」に陥り、多くの事業者が人材確保に頭を痛めている。職員の処遇改善は妥当な措置だろう。
 訪問介護の担い手となるホームヘルパーも人手不足が続き、有効求人倍率は約15倍に上る。平均年齢は50代半ばと高齢化。ヘルパー不足による倒産や事業の休廃止も増えている。基本報酬を引き下げるとこうした状況が加速しないかが懸念される。
 厚生労働省は報酬減額の理由として、事業者の経営実態を調査したところ、訪問介護分野全体の収益が大幅な黒字だったことを挙げている。
 だが、中山間地を含む郡部など、広範囲に点在する利用者宅をカバーするような、地域に密着した小規模事業者の経営状態は厳しい。都市部とひとくくりにするのは乱暴と言わざるを得ない。
 静岡県内の利用状況をサービス別に見ると、給付費ベースで22年度は居宅47・2%、施設36・4%。市町が事業者の指定や監督を行い地域特性に沿ったサービスを提供する「地域密着型サービス」は16・4%で10年度から6・5ポイント増えた。
 介護保険制度スタートから20年以上たち、居宅か施設かではなく、通いを中心に短期間の施設宿泊をするなど、本人や家族の事情に合わせたサービスの組み合わせが試みられ広がっている。こういったきめ細かなサービス提供は人材が足りていてこその話だ。
 高齢化は急速に進み、重度の要介護高齢者の増加が見込まれる。在宅介護や在宅医療の役割がより重要になるが、訪問介護による日常生活支援はその基盤でもある。基本報酬引き下げでサービス提供が手薄になると「介護難民」が増えることになりかねない。

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