テーマ : シニア・介護・終活・相続

大自在(7月27日)森村誠一さん逝く

 熱海市を仕事の拠点にした作家の森村誠一さんは、高齢化社会の道しるべとしての存在感も大きい。晩年まで精力的に書き、語る姿は「老境こそ人生の佳境」を実感させた。「あと少なくとも50冊は書きたい」と意気込んだのは、78歳で吉川英治文学賞を受けた時のことだ。 
 近著「老いる意味」(中央公論新社)では、老人性うつ病に苦しんだ体験を包み隠さず記した。出版社からの執筆依頼を一度は断ったが、弱い人間だから書ける、読者を勇気づける言葉もあるはずだと気が付いたという。「私も頑張っている、一緒に頑張りましょうと言いたかった」とペンを執った。
 うつに加えて認知症の傾向も表れ、ノートやチラシの裏に言葉を書いては壁や天井に張り、何度も復唱して言葉をつなぎとめた。こうした体験を経て、たとえつらくても「夢だけは持とう」と呼びかけた。
 「行き着きてなおも途上やうろこ雲」はお気に入りの自作の一句。「年老いて円熟しても、人生はまだ途上。青空に浮かぶ雲のようにゆっくりと流れる」との思いを込めた。
 森村さんは、人生を3期に分けて捉えていた。第1期は仕込みの青春時代、第2期は仕事で社会に参加する時代、そして自分だけの自由な時間を手にする第3期。六十代で本紙「窓辺」につづった「人間は七十代から八十代にかけて、それぞれの人生の代表作を残すべき」は持論そのものだ。
 森村さんが90歳で亡くなった。「余生ではなく誉生に」と力を込め、生涯現役を貫いた姿勢は、これからも多くの人の背中を押し続けるに違いない。

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