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2次避難、高齢者の心身不調懸念 環境変化、死の危険も【能登地震】

 能登半島地震を受け、避難所から宿泊施設などへの2次避難が呼びかけられている。災害関連死や感染症の予防などのためだが、過去の災害では高齢者が変化する環境にうまくなじめず、孤立や心身の不調に悩むケースも指摘される。今回の被災地は特に高齢化が進展する。識者は「見守りや心のケアなどの体制整備が重要だ」と訴える。

地区の集会所で避難生活を続けている中平ひふみさん(95)。土砂崩れや倒壊の不安から山あいにある自宅には戻れていない。被災から3週間に及ぶ心細い日々に、孫からもらった「くまモン」のぬいぐるみが心の支え。「年寄りは何もできず、迷惑をかけて申し訳ない。おかげさまで生かされている」と話した=21日午後、石川県珠洲市
地区の集会所で避難生活を続けている中平ひふみさん(95)。土砂崩れや倒壊の不安から山あいにある自宅には戻れていない。被災から3週間に及ぶ心細い日々に、孫からもらった「くまモン」のぬいぐるみが心の支え。「年寄りは何もできず、迷惑をかけて申し訳ない。おかげさまで生かされている」と話した=21日午後、石川県珠洲市


 約80人の避難者が身を寄せる「老人福祉センター椿荘」(石川県野々市市)。保健師が「体調悪くありませんか」と呼びかけながら巡回していた。「友達もいなくてさみしいね」。共有スペースのテレビでニュースを眺めながら、角正信さん(79)がつぶやいた。
 地震で自宅が傾き、妻久美子さん(74)と小学校に避難。断水や余震が続き親類宅も手狭であることなどから2次避難を決めた。「昼間はテレビを見るか寝るかで何もすることがない」。自宅をどう再建するのかといった不安感にさいなまれるという。

 ■喪失感
 政府や石川県は県内外の宿泊施設などへの2次避難を促し、約3万人の受け入れ先を確保した。
 東洋大の高野龍昭教授(高齢者福祉)は2次避難は有効だとした上で「リロケーション・ダメージ」への注意を呼びかける。環境変化が喪失感やストレスを生み、心身の機能が低下する状態を指す言葉だ。東日本大震災や熊本地震でも同様の問題が指摘された。
 高野教授によると、避難先で親しい人が周囲にいないと、部屋に閉じこもりがちになる。急に認知症のような症状が出るほか、慣れない環境でトイレに行くのを我慢して失禁したり、歩けなくなったりする人も。誤嚥(ごえん)性肺炎や転倒により命を落とすことさえある。

 ■つながり
 被害が大きかった珠洲市の高齢化率は石川県の統計で51%(2020年時点)。輪島市も46%で、全国の28%を大きく上回る。手厚いケアが求められる状況だと言える。
 厚生労働省によると、県が運営する避難所では、ケアマネジャーが高齢者と面談。必要な介護や家族同行の要否といった状況を聞き取り、本人に合った2次避難先選定を目指す。ただ、実際に2次避難するのは避難者全体の16%にとどまる。
 高野教授は「被災者の不安が表れている。元の状態に近い医療や介護サービスの確保に加え、孤立を防ぐための見守り、避難者同士による交流機会など人とのつながりが欠かせない」と話す。

 ■事情
 一方で、障害者ら被災していても避難しづらい人たちもいる。能登半島北部の施設に入居する障害者のうち、別施設などへの移動が決まったのは約30人(厚労省集計)。建物の損壊や断水で公民館や別の施設に避難したものの2次避難はせず、その場で支援を受け続けているケースがある。
 重い知的障害のある人たちは生活環境が変わると気持ちが不安定になり、パニックや自傷につながる場合があるのが一因だ。信頼関係を築いた支援員が同行すれば緩和されやすいと見込まれるが、大人数で入れる避難先を探すのは簡単ではなく、支援員が地元を離れられないといった事情も絡み合う。厚労省担当者は「現地に残る人をどう支えるか考えなければいけない」と話した。
 2次避難 災害発生後、最初に身を寄せた避難所などから、生活環境の整ったホテルや旅館といった宿泊施設へ避難すること。避難者が集中する状況を解消し、居住性や衛生面を改善するのが目的。内閣府によると、法律上の定義はない。2011年3月に発生した東日本大震災と東京電力福島第1原発事故や、16年4月の熊本地震でも自治体が2次避難を要請した経緯がある。自治体の呼びかけに応じた被災者がいた一方で「故郷を離れたくない」などの理由で、最初の避難先に残るケースもみられた。

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