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手術時連絡先 やっと提出(藍田紗らら/ライター)【アラ還 2人のがん奮闘記②】

 再検査の結果は「子宮体がん」。婦人科クリニックの院長は「ごく初期で切れば治る。まあ(おなかを)開けて卵巣やリンパに広がっていたら、あとは早いけどね」と言ったという。院長のこの軽口はその後、弘美を悩ませることになる。

イラスト・ふじのきのみ
イラスト・ふじのきのみ

 院長の紹介状を持って、弘美は大病院を訪ねた。主治医となる先生は気さくで、説明も分かりやすく「穏やかで信頼できる先生だよ。手術は4週間後で、ロボット支援手術だって」と弘美はほっとしたように言った。
 だが、ここで問題が浮上した。手術の同意書こそ本人の署名だけでいいものの、当日の付き添いの他、家族など計5人分の連絡先を病院に提出しなければならないのだ。生涯未婚率も高く、離婚や死別による「おひとり様」は珍しくない。事実婚のカップルや同性パートナーと暮らす人も多い時代でも、血縁や法律婚でないと、手術の付き添いもできないのか。
 弘美は主治医に「先生を信頼していますから、先生が良いと思う方法で手術してください。必要なら一筆書きます。ただ、私『みなしご』なんです。両親は他界し、きょうだいもいません。付き添いや連絡先は友人でいいですか?」と尋ねた。主治医は一瞬、「ん?」といった表情をしたが、すぐに笑顔で、「『みなしごハッチ』ですか。私、あの主題歌を歌えますよ。(連絡先は)ご友人でOK。頑張りましょう」と言ってくれたという。
 実際のところ、連絡先名簿の5人分を埋めるのは大変だった。信頼できる友人は仕事が忙しい。だが、事情を話すと、「何かあったら駆け付ける」と言ってくれた人や、手術当日は会議中も携帯を手元に置いておくという人もいたという。相続などでお世話になった弁護士先生にも了解してもらい、やっと名簿が埋まった。その中で、時間の融通をつけやすい私が当日の付き添いになった。
 しかしその先、名簿どころではない展開が待っていた-。
 (藍田紗らら・ライター)

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