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症状と向き合う俳優・谷田歩さん 完璧求める姿 葛藤も【吃音と歩む 思い伝えたい④】

 「台本の練習は最低100回。完璧にしないと怖くて人前に立てないから」

吃音と向き合う日々を語った谷田歩さん=5月下旬、東京都
吃音と向き合う日々を語った谷田歩さん=5月下旬、東京都

 舞台の稽古や映画、テレビドラマの撮影が始まる前は、出演者の誰よりも台本を読み込む。せりふを覚える以前に“読み切る”ために―。俳優の谷田歩さん(47)は日々、吃音(きつおん)と向き合いながら作品に臨んでいる。
 意識し始めたのは小学生のころだった。給食で出るやかんのお茶が欲しくて先生に「お茶ください」と言おうとしても、はじめの「お」に何度も詰まった。人生で初めて生きづらさを感じた。「谷田君の話し方をまねしたら、私も言葉に詰まるようになった」。周囲に話し方をいじられたり、まねされたりしているうちに防衛本能が働き、あまり話さない内気な子どもになっていた。
 ある日、洋画「ゴーストバスターズ」を見て、俳優の職業に憧れを抱いた。小学校の学芸会では寸劇の脚本に初挑戦。あらすじやせりふの言い方など、細かな演出を同級生に説明する時はすらすらと言葉が出てきた。表現する仕事に楽しさを覚えたのと同時に、好きなことに向き合えていると自然と症状も軽くなることに気付いた。
 役者を目指して20代で上京し、オーディションに挑戦し続けたが、やはり吃音は壁となった。転機は俳優の吉田鋼太郎さんとの出会い。「単語全てに感情がある」と教えを受け、「が」や「で」などの助詞にも感情を込めると、意識せずになめらかになった。「うまく話せなくても演者の思いはしぐさや感情で伝わる。何が言いたいのかが分かればいい」。この言葉にも助けられ、せりふへの恐怖症が徐々に和らいでいった。
 せりふの苦手意識は現在もあり、練習の虫と自負する。一方で葛藤がある。流ちょうに話せない自分が本当の姿ではないのか―と。かまないように工夫した結果「せりふが歌っているように聞こえる」と共演者に指摘されたこともあった。いつかはありのままの姿を表現する作品に出演するのが目標だ。
 「LGBTなど多様性を認め合う時代。吃音は一つの個性だと思う。苦しいことばかりだけど、積極的に前に出て挑戦してみてもいいんじゃないかな。特徴のある話し方を否定せずに温かく見守ってほしい」

 たにだ・あゆみ 1975年生まれ。静岡市清水区出身。俳優としてテレビドラマや映画、舞台、ナレーションでマルチに活動中。代表的な出演作品に「西郷どん」「下町ロケット」「今際の国のアリス シーズン2」などがある。

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