テーマ : シニア・介護・終活・相続

夢の接客、深めた自信「注文に時間がかかるカフェ」【吃音と歩む 思い伝えたい①】

 言葉を流ちょうに話せない吃音(きつおん)。吃音のある人は日本に約120万人いるとされ、詳しい原因は分かっていない。学校や職場など対人関係で幾度もつらい経験を重ねてきた当事者は吃音と向き合いながら今を生きている。同じく悩んだ経験がある記者が当事者のもとを訪ね、胸の内に迫った。

商品を手渡す奥村安莉沙さん(左)。マスクには「最後まで聞いてください」とのメッセージが書かれていた=1月下旬、宇都宮市
商品を手渡す奥村安莉沙さん(左)。マスクには「最後まで聞いてください」とのメッセージが書かれていた=1月下旬、宇都宮市


 「い、い、いらっしゃいませ」「…………ご注文はいかがなさいますか」―。
 1月下旬、宇都宮市の書店を舞台に、吃音の学生がスタッフとなり接客に挑戦するカフェが1日限定でオープンした。「注文に時間がかかるカフェ」。スタッフをせかしたり、途中で話をさえぎったりしてはいけないのがルールだ。
 スタッフで参加した阿部武琉さん(23)のマスクには「最後まで聞いてください」の文字。阿部さんは時折、言葉につっかえながらも笑顔で明るく接客に取り組んだ。「接客なんて無理だと決めつけてきたけど自信になった。同じ悩みを持つ人たちと話すことができて安心した」
 悩みを共有したい当事者や関心がある人など1日で約90人が訪れ、店前には常に長い列ができた。地元新聞の告知を読んで来店した長島想空[そら]さん(17)は「吃音で悩む人がこんなにもいることを知らなかった。この場の発見を友人に共有してみたい」と話した。
 カフェの発起人は奥村安莉沙さん(31)=東京都=。奥村さんも吃音に悩む1人だ。物心がついた時から症状があり「ありさちゃんに近づいたら吃音がうつる」と同級生からの偏見に苦しんだ。中、高校時代も悩み続けたが、社会人になって経験したオーストラリア留学が転機になった。
 移民や障害者など多種多様な人々が働く現地のカフェで夢だった接客に挑戦。障害や言語の壁でうまく言葉が伝わらなくても堂々と笑顔で接客するスタッフと接するにつれて、「流ちょうに話す」イコール「接客」の概念が崩れた。吃音があっても接客を夢見る人がいたら一緒にカフェをやりたい。帰国後、2021年から注文に時間がかかるカフェの活動を始めた。
 奥村さんの夢は活動の輪を日本全国に広げること。これまで12都道府県でカフェの活動を15回展開し、6月17日に浜松市内の飲食店でも初開催する。「当事者の自信につながり、吃音の理解が深まる社会づくりに役立てたらうれしい」

 <メモ>吃音症 言葉がなめらかに出てこない言語障害の一つ。具体的な症状に言葉の始めや途中で詰まる「難発」、同じ音を繰り返す「連発」、音を引き伸ばす「伸発」がある。国立障害者リハビリテーションセンター(埼玉県)などがまとめた幼児吃音臨床ガイドラインによると、幼児期の発症率が高いが、大半は3~4年以内に自然治癒するという。人口比で約1%の子どもは学齢期またはそれ以降まで吃音が持続する。

 

いい茶0

シニア・介護・終活・相続の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞