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社説(5月24日)政府の少子化対策 受益と負担 徹底議論を

 岸田文雄首相が最重要政策に掲げる少子化対策と全世代型社会保障で、高齢者と現役世代が経済力に応じて負担を分かち合う仕組みが具体化してきた。
 少子化対策の基本方針を固めるこども未来戦略会議で岸田首相は「消費税を含めた新たな税負担については考えていない」と説明し、社会保険料の上乗せ、企業の拠出金、歳出削減の3点セットでの財源捻出を打ち出した。社会保険料案は「全ての世代で子育てを支える」との理念で公的医療の保険料に支援金として一定額を上乗せ徴収する。
 政府は現状の約4兆8千億円の子ども政策予算を2030年代前半に倍増させ、特別会計の「子ども金庫」で管理する方向。全世代にわたる健全な社会保障制度は安心して育児ができる社会に不可欠な基盤だ。各世代の受益と負担について国会で議論を尽くす必要がある。

 政府は防衛力強化に向け増税を断行する方針で、少子化対策での増税は極めて厳しい状況。国債は安定財源と言えず、社会保険料の引き上げで企業や高齢者を含め幅広く負担を求める仕組みは消去法の形で残った。やむを得ない面があるが、政府が選挙対策として税負担を真正面から論じないのなら、国民は少子化対策にそっぽを向くだろう。
 高齢化で膨らむ医療費の対応策で、先に成立した改正健康保険法は75歳以上の公的医療保険料の一部を出産育児一時金の財源に回す仕組みに改めた。保険料の使途拡大は、少子化対策の財源確保に布石を打ったとみるべきだ。
 75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の医療費は23年度、17兆7千億円(窓口負担を除く)に上る。財源は5割を公費、1割を高齢者の保険料、残る4割は現役世代の支援金で賄っている。ただ、将来推計人口では50年後に65歳以上が4割、働き手の15~64歳は約3千万人減る。高齢者の負担増は避けられない政策判断だった。
 育児は一義的に家族を中心に行われるが、子育てを地域社会が支え、企業や自治体、国がその施策に関与していく仕組みは男女共同参画社会の要請だ。介護保険制度の創設期に、介護を「社会共通の課題」と捉え、ケアサービスが税と保険料を原資に制度化されたのと通底する。
 バラマキではなく、人々のライフステージに応じ、必要とする人に必要な支援が素早く行き届く仕組みが必要だ。普及してきたマイナンバーカードを活用し、世帯や所得に応じた支援策の構築も選択肢になろう。

 日本は「中福祉・低負担」の国。財務省が社会保障制度の受益と負担のバランスを諸外国と比較した結果だ。
 社会保障の政府予算を国内総生産(GDP)比で分析すると、日本の支出額は世界11位(19年実績)。首位はフランスで、日本より上位には「高福祉・高負担」で知られるフィンランドなど北欧三国、デンマーク、オーストリアなどが並ぶ。
 一方、日本の社会保障以外の政府支出や租税収入は対GDP比で30位前後にとどまる。景気の長期低迷で税収は伸び悩み、少子高齢化で福祉関連予算は膨張し続け、借金での穴埋めが常態化している。日本の国と地方の財政構造は収入が乏しい中、経済産業や公共事業などの分野での投資的経費を抑え込みつつ、医療、福祉、介護サービスを堅持している。借金をしないなら保険料を上げるか増税をする、あるいはサービス水準を引き下げるしかないのが悲しい現実だ。
 政府は少子化対策の試案「こども・子育て支援加速化プラン」で24年度から3年間を集中取り組み期間とし、少子化傾向を反転させると宣言した。社会保障制度が行き詰まるタイムリミットは近づいている。岸田首相は有言実行あるのみだ。3年間を名ばかりの集中取組期間にしてはならない。

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