テーマ : シニア・介護・終活・相続

神奈川の特養ホーム 要介護者に寄り添う犬猫 施設長「人生の楽しみ守る」

 介護が必要になっても愛するペットと暮らしたい。そんな飼い主の願いをかなえる「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)は、開所した12年前から犬猫同伴が可能な特別養護老人ホーム。公的施設として全国でも珍しい存在だ。

愛犬ミックと入居した野沢冨士子さん=神奈川県横須賀市の「さくらの里山科」
愛犬ミックと入居した野沢冨士子さん=神奈川県横須賀市の「さくらの里山科」
文福。犬専用エリアで暮らす
文福。犬専用エリアで暮らす
「さくらの里山科」施設長の若山三千彦さん
「さくらの里山科」施設長の若山三千彦さん
日なたぼっこをしたり(右)、ベッドで休んでいたり。猫専用エリアはほのぼのした時間が流れる
日なたぼっこをしたり(右)、ベッドで休んでいたり。猫専用エリアはほのぼのした時間が流れる
愛犬ミックと入居した野沢冨士子さん=神奈川県横須賀市の「さくらの里山科」
文福。犬専用エリアで暮らす
「さくらの里山科」施設長の若山三千彦さん
日なたぼっこをしたり(右)、ベッドで休んでいたり。猫専用エリアはほのぼのした時間が流れる


 4階建ての全室個室のユニット型で、2階部分がペット専用フロア。犬専用エリアを訪ねると、トイプードルやシバ系のミックス犬などがにぎやかに出迎えてくれた。
 「動物たちは、個室と共有スペースを自由に行き来しています。入居されているのは犬猫の飼い主さんと、かつて動物と暮らし『ペットは家族』という考えの方ばかりです」と説明するのは施設長の若山三千彦さん。
 愛犬や愛猫と一緒に暮らすと、つらいリハビリを継続したり、なでる・ブラッシング・抱くといった日常の動作が増えたりし、体力増進や身体機能向上につながるケースも多い。明るく開放的な雰囲気のリビングで、ヨークシャーテリア系ミックスの愛犬を膝に乗せた野沢冨士子さんが笑顔で撮影に応じてくれた。
 猫専用エリアは、猫たちがそれぞれお気に入りの場所で安心して眠る穏やかな時間が流れていた。ここでは、飼い主が亡くなった後もペットを終生飼育している。「元飼い主さんと過ごした個室で猫が暮らす“猫付き部屋”もあり、新しい入居者さんに大変喜ばれています」(若山さん)と聞き、温かな気持ちになった。
 “奇跡の犬”と呼ばれる文福[ぶんぶく]という元保護犬も暮らしている。入居者の最期を感知して数日前からみとり行動をするのだ。若山さんにとって忘れ難いのは、余命宣告を受けたある男性のエピソード。元漁師の男性はかつて働いていた港の再訪を望んでいたが、外出のリスクはあまりに大きかった。だが脈拍や血中酸素濃度が正常で体調が安定していること、そして文福がみとり行動を開始していないことが後押しとなり、外出が実現。港を訪れた男性は、感激のあまり家族と共に喜びの涙を流したという。
 「われわれの介護の原点には、高齢を理由にご本人が諦めてしまっていることを実現するためにサポートしたい、という気持ちがあります。コロナ禍前は旅行や買い物、グルメなどのイベントも頻繁に開催していました。人生の楽しみは生きる意味につながり、ペットと暮らすこともその一つです」。若山さんは、人権とは幸せになる権利で、高齢者の人権を守ることが介護施設の役割だと話す。
 ペットをはじめ、心を満たすものはぜいたく品ではない。このような誰でも利用できる施設で、同様の仕組みが広がることを願わずにいられない。
 (片野ゆか・ノンフィクション作家)

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