テーマ : シニア・介護・終活・相続

認知症当事者の集い「本人ミーティング」広がる 藤枝市など 体験談冊子を作成

 認知症の当事者が集い、自らの体験や悩み、生活上の工夫などを話し合う「本人ミーティング」が県内でも広がりつつある。交流の場としてだけでなく、行政の認知症施策や地域づくりに当事者の視点や意見を反映させる取り組みとしても注目されている。

認知症当事者らが集まり生活の知恵などを共有する「本人ミーティング」=6月、藤枝市
認知症当事者らが集まり生活の知恵などを共有する「本人ミーティング」=6月、藤枝市


 「道に迷う時、自分では迷っているという感覚はないんです」「そう、自分も正しい道を進んでいる感覚です」-。藤枝市が6月に開いた本人ミーティング。認知症当事者が体験を語り合った。参加したのは60~80代の当事者4人と行政、福祉関係者。道に迷った経験や服薬の工夫、スマホの活用法など、話題は多岐にわたった。
 同市は2020年度から月1回、市内の古民家カフェを会場にミーティングを継続している。きっかけは、同市認知症地域支援推進員の横山麻衣さんが若年性認知症の女性と交わした会話だった。「外出したい気持ちはあるけれど、服選びや会話に自信がない」。横山さんはまず、女性と別の当事者が話せる場を設けることからスタートし、定期的な交流会に発展させた。参加者の希望から、野菜の収穫体験などに取り組むこともある。
 22年度には、認知症と診断されて間もない人たちに向けて、会に参加する当事者の体験談などをまとめた冊子「あなたへ 認知症のわたしたちから伝えたいこと」を作成した。「認知症になっても、自分が壊れていくわけではない」といったメッセージや、それぞれが実践する予定管理、外出時の工夫などを掲載した。横山さんは「行政が出す冊子には、本人目線のものが少ない。当事者だからこそ発信できることがある」と意義を語る。
 三島市は18年度から2カ月に1回、本人ミーティングを開く。3年前から「世界アルツハイマー月間」(9月)に合わせて行う展示には、会合で出た当事者の言葉を紹介し、市民への啓発につなげている。認知症の人や家族を支える地域のサービスなどを自治体がまとめる「認知症ケアパス」の作成にも、当事者の意見を反映させている。
 ことし6月には、認知症の人が社会参加する機会の確保や国民の病気への理解促進などを掲げた認知症基本法が成立した。県立大短期大学部の鈴木俊文教授(社会福祉学)は「本人ミーティングは、法が目指す共生社会の実現に向けた取り組みの一つになっている」と指摘。その上で「当事者同士が語り合うとともに、家族の声も含めて地域住民が一緒に確認し、当事者が安心して生活できるよう話し合っていくことが重要。行政関係者や専門家、ボランティアだけでなく、買い物や移動といった生活に関わるサービス提供者など、さまざまな人が参加する場になれば」と今後の展開に期待する。
 (生活報道部・大滝麻衣)

 本人ミーティング 認知症の本人が集い、自らの体験や希望、必要としていることを語り合う。認知症の人の視点や声を自治体の施策や地域づくりに生かす。2017年に改定された国の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)に盛り込まれた取り組みで、各地で開催されている。厚生労働省によると、21年度に県内で本人ミーティングを開催したのは三島市、富士市、藤枝市、焼津市など12市町。

いい茶0

シニア・介護・終活・相続の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞