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社説(8月28日)認知症新薬承認へ 安全確保の具体策示せ

 製薬大手のエーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の製造販売承認を、厚生労働省の専門部会が了承した。近く承認される見通しだ。年内にも保険適用される可能性がある。病気の原因物質を取り除いて進行を緩やかにすることを狙った画期的な新薬で、患者や家族、医療関係者らの間で期待が高まっている。
 ただ、臨床試験(治験)の結果では、その効果はあまり大きくないとされ、副作用も明らかになっている。投与できる対象が軽度の患者やその予備軍である軽度認知障害(MCI)の人に限られること、薬価が高額になることなど実用化に当たっては課題が多い。政府はこうした課題の解決に取り組み、新薬を安全に使用できるようにするための具体策を示さなければならない。
 アルツハイマー病はアミロイドベータというタンパク質が脳内に蓄積し、神経細胞を傷つけて発症すると推測されている。現在使われている薬は脳の神経伝達物質の量を増やすなどして一時的に症状を改善する働きがあるが、レカネマブはアミロイドベータに結合して除去することで病気の進行を抑制する。
 治験では、薬を投与しない患者に比べ症状が悪化するのを27%抑制したとの結果が出た。一方で脳の微小出血やむくみなどの副作用が確認され、海外では血栓を予防・溶解する抗血栓薬を同時使用した患者の死亡例も報告された。こうした効果やリスクに関する情報を患者や家族にしっかりと提供し、薬を使用するか適切に判断できるようにしなくてはならない。
 また、副作用の出やすい遺伝子型があることが分かっており、先行して1月に承認した米国は投与前に遺伝子検査をすべきだとした。日本でも承認に当たっては検査を必須とすべきだろう。
 レカネマブはアルツハイマー病以外の認知症や症状が進んだ患者には投与できない。対象の患者は投薬前に陽電子放射断層撮影(PET)や脳脊髄検査でアミロイドベータが脳に蓄積していることを確認し、投薬中は副作用を確認するため頭部の磁気共鳴画像装置(MRI)検査を行う。これらに対応できる医療体制の整備充実も求められる。
 レカネマブの薬価は、米国では標準で1人当たり年2万6500ドル(約380万円)だという。国内については、厚労相の諮問機関である中央社会保険医療協議会が年内に決めるが、医療財政が逼迫[ひっぱく]して医療費削減が求められる日本でレカネマブによる治療がどう行われるべきか、これから十分に議論しなければならない。

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