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「あなたの年齢では雇えない」 年齢不問とあるのに...有名無実の求人票、差別では? 静岡県内で不満絶えず

 「年齢不問」の求人票を見て企業に問い合わせたら「あなたの年齢では雇えない」と言われた―。こうした事例が多発し、静岡県内のシニア求職者の不満が絶えない。背景にあるのは求人の年齢制限禁止が中途半端な「労働施策総合推進法」。労働者の多様な事情に応じて雇用の安定などをうたう法律だが、一方で“雇用側の事情”を容認する例外も幅広く適用され、実効性が伴っていない。ハローワークは企業に人物本位の採用を呼びかけるなど啓発に力を入れるが、シニアの「年齢差別」は続いている。

年齢欄に「不問」と記された求人票(下)と国が人物本位の採用を啓発するために作成したリーフレット(上)
年齢欄に「不問」と記された求人票(下)と国が人物本位の採用を啓発するために作成したリーフレット(上)

 静岡県内のハローワークには「年齢不問」と書かれた求人票が数多く張り出されているが、仕事を探している男性(71)がぼやく。「『年齢不問』の会社に応募しても65歳や70歳ではダメだと言われることが結構ある。企業も若い人を取りたいのは分かるが、だったら先に書いておいてほしい。お互いに労力の無駄だ」

 若い人が優先
 数は集計していないものの、ハローワークへの同様の“苦情”は「かなり多い」(担当者)という。ハローワーク静岡(静岡市駿河区)の担当者は「求職者の気持ちは分かる」と一定の理解を示しながらも「年齢不問をやめて企業の論理を出していくと、シニアの働く場所や機会がかえって失われる」と年齢不問の意義を説明する。
 国が作った企業向けリーフレットには「年齢を理由に応募を断ったり、書類選考や面接で年齢を理由に採否を決定したりする行為は法の規定に反する」と記されているが、実態は「年齢の若い人が優先される」(シニア求職者)。ある企業の採用担当者は「年齢不問だが、若ければ若い人材がありがたい」と本音を隠さない。

 処分事例なし
 静岡労働局によると、年齢で不採用になったという情報が寄せられると、その会社に事情を聴く。対応が改善するケースはあるが、年齢制限の禁止には例外があり、若い人を自社で育てる必要性や社員の年齢構成に偏りがある場合は年齢制限は適用されない。「年齢だけでなく総合的に勘案して採否を決めた」と説明する企業もあり、近年は助言や勧告などの行政指導には至らず、管内で行政処分の事例はないという。
 同労働局の天野成基高齢者対策担当官は「採用時にはできるだけ面接をしてほしいと企業に働きかけ、年齢にとらわれない考え方を地道に伝えていくしかない」と話す。

 記者の目 現役世代も人ごとではない
 高齢者の雇用問題を取り上げている不定期の特集記事「70歳の壁~シニア雇用を考える」の取材を通し、年齢によって書類選考で不採用とされる「年齢差別」が絶えない実態が見えてきた。差別を防ぐために「採用時の年齢制限の禁止」を定めた法律は例外が多く、歯止めになっていない。
 物価高騰に伴い年金の目減りが続いていて、生活費が不十分だとして仕事を探すシニア層が増えている。根底にある問題は、高齢者を支える現役世代が減り、年金の受給開始時期を遅らせないと十分な年金をもらえない時代に突入しつつあるということ。年金受給までの就業の機会は十分に確保されるべきだろう。
 憲法27条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」と定める。「年金は100年安心」とうたう政治家や官僚はシニアの生活の質を維持するため、まずは実効性ある差別解消策を講じてほしい。将来のシニア層でもある現役世代にとっても人ごとでは済まされない。
 (社会部・大橋弘典)

 求人の年齢制限禁止と例外 旧雇用対策法(現労働施策総合推進法)が改正された2007年10月以降、労働者の採用時に年齢制限は原則できなくなった。働く機会をより均等に与えるのが目的という。ただし、定年がある企業の場合の年齢制限は認められる(60歳定年なら「60歳未満」と条件を付けた募集は可能)などの例外がある。一方、高齢者雇用の助成金を活用する場合は「60歳以上」と条件を付けて募集できる。

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