社説の記事一覧
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社説(5月12日)「防災県」の推進 実効性向上と底上げを【2024選択 知事選】
静岡県は「防災先進県」なのか。1976年に東海地震説が提唱されて以来、官民を挙げて全国に先駆けた地震対策を進めてきたのは確かだ。その結果として防災の先進地域という見方が生まれたのかもしれない。県関連のホームページやパンフレットなどでも紹介されている。 ところが、現在でもそう言い切れるかは甚だ疑問だ。2021年7月、人災の側面が強いといわれる熱海市伊豆山の土石流災害を防ぐことができなかった。今年元日に起きた能登半島地震で注目された住宅や水道管の耐震化率は全国平均を上回ってはいるものの、突出して優れているわけでもない。 南海トラフ地震が想定される中、いかに防災対策の実効性を高め、県民の防災意
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社説(5月11日)ものづくり県再興 政策効果検証し加速を【2024選択 静岡県知事選】
「静岡県経済産業ビジョン2022~25」は本年度、後半に入った。ビジョンは11年3月、「地域資源活用と新しい価値創造によるものづくり・ものづかい振興条例」制定とともに策定され、14年、18年、22年に改定された。 11年といえば、リーマン・ショック(08年)を端緒とした経済金融危機に東日本大震災が追い打ちをかけ、経済は混迷度を増していた。川勝平太氏の知事初当選は09年。既に新産業創出を期してファルマバレー(富士山麓、先端健康産業)、フーズ・サイエンスヒルズ(中部、食品・医薬品・化成品、現フーズ・ヘルスケア)、フォトンバレー(浜松中心、光・電子技術関連産業)の集積プロジェクトが動き出していた
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社説(5月10日)リニア中央新幹線 水と環境、保全は譲れぬ【2024選択 知事選】
リニア中央新幹線工事に伴う南アルプスの環境保全を巡る静岡県とJR東海の協議は、県が県内工区の着工を認めない状態のまま、実に10年余りが経過し、先行きも見通せていない。 長年の問題にどう向き合い、解決への道筋を描くのかが、知事選の大きな争点の一つになる。次の知事には、JRをはじめ、流域の市町や関係団体、国と対話し、県民が納得する形で問題を解決する調整力が問われる。科学的、工学的な観点を踏まえ、大井川の水と南アルプスの自然環境を守るという基本的な姿勢は堅持しなければならない。 JRは3月、工事契約締結から既に6年4カ月が経過した静岡工区の大幅な遅れを理由に、2027年のリニア開業の断念を正式
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社説(5月9日)2024選択 知事選 きょう告示 県の未来像示し論戦を
新規採用職員への訓示で職業差別と取れる発言をして辞職する川勝平太氏の後任を決める静岡県知事選が、きょう告示される。4期15年続いた川勝県政は終焉[しゅうえん]を迎え、新たなリーダーの下での県政がスタートする重要な転換点だ。既に新人6人が出馬表明し、26日の投開票に向けた選挙戦に突入する。353万人が暮らす本県をどのような未来に導くのか、候補者の訴えにしっかりと耳を傾けて最もふさわしい人物を選びたい。 川勝氏の突然の辞職により前倒しで行われる知事選だ。有権者は短期間で一票を託す候補者を選ばねばならない。本県には、深刻な人口減少への対策や、構造転換が急務の経済振興策、リニア中央新幹線工事への対
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社説(5月8日)「伊豆半島沖」50年 地震の記憶語り継いで
伊豆半島南端を震源域として発生した伊豆半島沖地震から9日で50年。地震の規模はマグニチュード(M)6・9で、南伊豆町石廊崎で震度5を観測した。同町中木地区で大規模な斜面崩壊が起きて集落をのみ込むなど、町内で30人が犠牲となった。 地震国日本では、いつどこで地震災害が起きても不思議はないといわれる。今年の元日にもM7・6、最大震度7を観測する能登半島地震が起きた。三方を海で囲まれて山地が多い地形など、能登半島と伊豆半島の類似点は多い。 能登地震は発生4カ月を経過したが、約4600人が避難所に身を寄せ、3700戸以上が断水したままだ。そして被災地からは人口が流出している。初動対応から応急復旧
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社説(5月7日)企業倒産3割増 雇用悪化対応の充実を
新型コロナウイルス感染拡大への対応で、政府が企業に対し続けてきた資金繰り支援への返済が本格化する中、中小零細を中心に倒産する企業の数が拡大している。この夏を境に事業継続を断念する企業が、さらに増加するとの懸念も指摘されている。 こうした動きに伴う雇用状況悪化への対応や、事業再生に向けた取り組み支援などが、行政をはじめ関係機関には求められる。 信用調査会社の東京商工リサーチによると、2023年度の企業倒産(負債額1千万円以上)の件数は全国で前年度比31・6%増の9053件と9年ぶりの水準となった。 静岡県内も同社静岡支店が、23年度は企業倒産が210件(6件増)と2年連続で前年度を上回っ
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社説(5月6日)教員給与の増額案 現場の負担減が重要だ
教員の確保策を検討する中央教育審議会の特別部会は、公立学校教員の給与引き上げについて素案をまとめた。残業代の代わりとして支給している月額給与の4%相当の「教職調整額」を、10%以上に引き上げるのが柱で、残業代を支払う制度への転換は見送った。学級担任に手当を加算する必要性などにも言及し、特別部会は今月中にも議論をまとめる。 給与改善は重要だが、学校現場で今、最も必要なのは長時間労働の是正だ。長時間労働は心身の健康をむしばみ、教職人気低迷の一因にも挙がる。負担減という課題に正面から取り組み、処遇改善と働き方改革が一体となった施策を確実に進める必要がある。 教職調整額は1972年施行の教員給与
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社説(5月5日)子どもを真ん中に 意識徹底し対応充実を
きょうは「こどもの日」。こども基本法に基づいて2023年12月に定められた政府の子ども施策の基本方針「こども大綱」は、「こどもまんなか社会」の実現をうたい、全ての子どもや若者が健やかに成長し、幸せに生活できる社会づくりを目指している。 一方で、子どもを取り巻く環境は厳しいままだと言わざるを得ない。出生数は統計を開始してからの過去最少を更新して少子化が止まらない。「ヤングケアラー」として、親族の介護や世話を強いられる子どもも少なくない。 まさに、子どもに最も良い施策は何かを考えるとともに迅速な実行が求められる。誰もが子どもを社会の真ん中に置く意識を新たにし、対応の徹底を図っていきたい。
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社説(5月4日)森林環境税 持続化へ有効に活用を
管理が行き届かない民有林を所有者に代わり市町村が管理する制度はスタートから5年がたち、本年度からは財源となる森林環境税(国税)が徴収される。 きょうは「みどりの日」。「自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心を育む」(祝日法)には、一定の負担をしなくてはならなくなった。 森林には水源の維持、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など、さまざまな機能がある。近年、激甚化している大雨による土砂災害の防止にも森林整備は欠かせない。 森林環境税は、1人年額千円が住民税と合わせて徴収される。持続可能な森林づくりへ有効活用するよう、自治体には使途公表が義務付けられている。迅速かつ丁寧、詳細な説明
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社説(5月3日)憲法改正 関心高める議論が必要
今年に入って海外から憲法改正を巡る動きが相次いで伝えられた。フランスの上下両院合同会議で、合法化されている女性の人工妊娠中絶の自由を世界で初めて憲法に明記する改憲案が可決された。アイルランドでは、政府が女性の「家庭での義務」を重視する憲法条項の修正を目指したものの、国民投票で修正案は否決された。 国外で時代や価値観の変化を踏まえた改憲や改憲議論は珍しくない。一方、日本の憲法は一度も改正されていない。衆参両院憲法審査会で審議は続くものの、改憲機運は高まっているとはいえない。改憲の是非はともかく、憲法への国民の関心を喚起するような議論が求められる。 きょうは77年前の憲法施行を祝う「憲法記念
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社説(5月2日)あす浜松まつり 監視強めて反社排除を
新型コロナに伴う規制が撤廃され、5年ぶりに「完全開催」となる浜松まつりが3~5日に浜松市内で開かれる。昨年のまつり会場では暴力団関係者が露店を不正出店していたことが明るみに出た。伝統ある市民のまつりを守るため、地域の監視の目を強め、反社会的勢力を徹底排除しなければならない。 ことし1月、露店の出店権を暴力団員らが不正に取得していたとして暴力団関係者や静岡県西部の露天商の組合幹部らが摘発された。露店の取りまとめなどを請け負い、許可申請書類を提出する組合トップが不正を手助けしていた実態が明らかになり、長年にわたり売上金の一部が反社会的勢力に流れていた可能性がある。 浜松まつりには、暴力団やそ
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社説(5月1日)出生率の低下 社会構造変える施策を
厚生労働省は2018~22年の市区町村別の合計特殊出生率を発表した。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数の5年間平均を算出し、静岡県全体は1・39、全国平均は1・33だった。 県として全国をやや上回っているとはいえ、人口維持に必要とされる水準2・07には程遠いばかりか、低下に歯止めがかからず、危機的な状況を脱する見通しは全く立たない。人口動態統計に基づく県の合計特殊出生率は15年にかけてやや上昇したものの、16年以降は下落が進み、最新の22年は1・33まで落ち込んでいる。 少子化の進行は国全体の問題として捉えることが大前提だとしても、県としてどう向き合い、対策を講じるべきかという観点が欠
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社説(4月30日)衆院補選自民全敗 政権失う危機自覚せよ
衆院の3選挙区で行われた補欠選挙で、自民党は自前候補を立てられず不戦敗となった2選挙区を含めて「全敗」した。いずれの選挙区も元は自民の議席だった。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件が直撃し、有権者の厳しい審判が突き付けられた。 長年、党内で組織的な裏金づくりを続けてきただけでなく、発覚後も説明責任を果たさず、政治改革にも後ろ向きで、挽回の機会をことごとく逸した。自業自得と言うほかない。全敗を深刻に受け止め、少なくとも政治資金規正法の抜本改正など思い切った政治改革を断行するほかに信頼回復の道はあるまい。国民が納得する実績を上げられなければ、政権の座にとどまるのは難しいと自覚すべきだ。
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社説(4月29日)落雷事故防止 情報確認し早期避難を
日差しが強まり気温の上昇とともに、雷に注意する季節になった。今月初めには宮崎市内で行われた高校サッカー部の交流試合に参加した男子生徒が落雷に遭い、18人が救急搬送された。発生当時は雷注意報が発表されていたが、小雨が降る程度で雷鳴は聞こえなかったという。 これから旅行や観光、遊びや部活で野外活動をする機会が増える。気象庁サイトによると、太平洋側の落雷害は8月をピークに4~10月が多くなる。太平洋側はこれから十分な注意が必要だ。昨年の静岡県内の「雷日数」は48日。最多の8月は19日、7月と9月が7日で続いた。 グラウンドなど開けた場所で運動をしたり、山や海などに出かけたりする時には、天気情報
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社説(4月28日)犯罪被害者の支援 対象広げ柔軟に対応を
殺人や性犯罪などの被害者や遺族を事件直後から一貫してサポートするため、「犯罪被害者等支援弁護士制度」を創設する改正総合法律支援法が今国会で成立した。被害届・告訴状の作成や提出、加害者側との示談交渉、損害賠償請求の提起、捜査機関や裁判所への付き添いなど弁護士が一括して担う。2026年までに始まる見通しだ。 犯罪被害者のための施策を推進する犯罪被害者等基本法の制定から今年で20年。支援の充実は図られてきたが、十分とは言えない。政府は昨年6月から支援弁護士制度の創設とともに犯罪被害者給付金の大幅増額も検討している。被害者支援は対象をできる限り広げ、柔軟に対応する姿勢が求められる。 犯罪被害者弁
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社説(4月27日)機能性表示食品 制度検証し安全確保を
小林製薬(大阪市)が販売した「紅こうじ」サプリメントとの関連が疑われる健康被害が明らかになって1カ月以上になる。機能性表示食品における健康被害は同社サプリが初めてで、制度の信頼性が問われる問題になっている。 サプリ健康被害の原因物質として、青カビ由来の「プベルル酸」のほか、想定外の物質が少なくとも2種類が浮上したとされるが、いまだ特定に至っていない。一方、腎疾患などの健康被害で5人の死亡が判明し、退院も含めて25日現在で入院者が252人に上ることが分かった。静岡県内でも健康被害の疑いのある患者は53人となった。 担当する消費者庁は専門家検討会を設け、制度の改善に向けた議論を始めた。機能性
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社説(4月26日)自民規正法改正案 あまりに危機感が薄い
政権を失うかもしれないという危機感が、この期に及んでまだ薄いのだろう。 自民党が派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受けてまとめた政治資金規正法改正の独自案を見る限り、そう受け止めざるを得ない。事件によって国民の政治に対する信頼を大きく失墜した責任を自覚し、次期衆院選で下野する可能性があるという認識があるなら、率先して政治改革を断行する姿勢を示そうとするはずだ。 ところが、自民案は国会議員の監督責任や政治資金の透明化を巡る改正に、十分踏み込んでいない。そこからうかがえるのは、小幅な修正にとどめて抜本改正を先送りし、批判をやり過ごそうとする後ろ向きな姿勢だ。これでは、相手が長らく&ld
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社説(4月25日)バス置き去り公判 根本原因を解明せねば
牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で2022年9月、園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスに置き去りにされ、熱中症で死亡した事件で、業務上過失致死の罪に問われた前園長の増田立義被告(74)、元クラス担任(48)の公判が静岡地裁で始まった。両被告は真摯[しんし]に真実を語らなければならない。社会は公判からさらに教訓を学び、再発防止につなげる必要がある。 初公判で2人は起訴内容を全面的に認めた。検察は冒頭陳述で、21年7月に福岡県で同様に園児が送迎バス内で死亡する事案が発生し、国から安全管理の徹底を促す通達が出ていたにもかかわらず、同園では法律で策定が義務付けられている「学校安全計画」
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社説(4月24日)知床沈没事故2年 再発防止策まだ道半ば
北海道・知床半島沖で乗客乗員20人が死亡、6人が行方不明になっている観光船「KAZU 1(カズワン)」の沈没事故から2年が経過し、地元の斜里町では追悼式が営まれた。楽しい思い出になるはずだった遊覧の最中に命を奪われた犠牲者や遺族らの無念は察するに余りある。 国の運輸安全委員会による事故調査で、安全管理体制が存在していない状態だったとまで指摘された運航会社と経営者の責任を巡っては、海上保安庁が業務上過失致死などの容疑で捜査を続けているものの、結論は出ていない。冷たい海で多くの犠牲者を出した責任の所在を明確にするため、同庁は捜査に全力を挙げなくてはならない。 国土交通省は一昨年、事故を教訓と
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社説(4月23日)ガザで相次ぐ餓死 最悪の人道危機止めよ
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘で壊滅的な被害を受けたパレスチナ自治区ガザで、子どもの餓死が相次いでいる。国連人道問題調整室(OCHA)は今月上旬、栄養失調や水分不足で28人が死亡したと発表した。このまま戦闘が続けば、大人も含め餓死者が急増する恐れがある。 飢餓が広がったのは、イスラエルが支援物資の陸路搬入をガザ南部の検問所だけに制限してきたためだ。米軍などは3月に物資の空中投下を始め、イスラエルは今月に入ってガザ北部の検問所を一時的に開放する方針を決めたが、事態の改善は見通せない。 複数の国連機関などは5月にもガザ北部が飢饉[ききん]に襲われると警告する。最悪の人道危機を止めるため
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社説(4月22日)この夏も猛暑か 早い段階での対策必要
昨夏、日本の平均気温は平年を示す基準値を1・76度上回り、1898年の統計開始から最も高かったと気象庁が発表している。世界も観測史上、2023年は最も暑い夏だった。米国では一部で気温が50度を超え、欧州や中国でも史上最高気温を記録した。 温室効果ガスやエルニーニョ現象などで、大気全体の温度がかなり高まっているとみられ、これらが今夏の気温にも影響を与える可能性は強い。まだ春半ばだが、各個人、行政とも対策を早い段階から進めたい。 今年の夏については、既に研究機関が梅雨明け後の猛暑を予想。太平洋高気圧の張り出しが強まり、暖かい空気に覆われやすいため、全国的に平年より気温が高いとみられている。
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社説(4月21日)ウナギ稚魚新制度 痛み越えて闇の排除を
養殖種苗にするウナギ稚魚(シラスウナギ)は2024年漁期(23年冬~24年春)、漁と流通の透明性向上を図る制度改正により静岡県内の相場が高騰した。 反社会的団体の関与も指摘される“闇”の排除には痛みが伴うが、持続可能なウナギ産業のためには乗り越えなければならない。正直者が損をすることのないよう、当局は密漁や不正流通の取り締まりを徹底してほしい。 変革で養殖業者や飲食店が想定外の影響を被るようなら、行政や経済団体、金融機関の対応を求めたい。消費者もウナギにいま何が起きているか関心を持つ必要がある。 従来は県内産業振興のため、県内で採捕された稚魚は県内で養殖する決ま
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社説(4月20日)四国で震度6弱 巨大地震の備え確認を
南海トラフ地震の想定震源域となる豊後水道で、マグニチュード(M)6・6の地震が発生した。震源に近い愛媛県愛南町と高知県宿毛市で震度6弱を観測。愛媛、高知、大分の3県で負傷者が出た。現在の震度階級になった1996年以来、四国では初めて震度6弱観測となった。 この地震で、多くの住民が南海トラフ地震を想起しただろう。被害とともに気になるのは巨大地震との関係だ。気象庁は関連に否定的な見方を示し、臨時会合を開いた政府の地震調査委員会も、巨大地震発生の可能性が「平常時と比べて相対的に高まったと考えられる特段の変化は観測されていない」と表明した。 とはいえ、南海トラフ震源域でのM6級地震は安易に見過ご
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社説(4月19日)災害用トイレ車両 県内市町に配備促進を
能登半島地震で被災した石川県の奥能登地域で、富士市と西伊豆町が導入した「トイレトレーラー」など、全国の自治体が派遣した災害用トイレ車両が活動している。被災地での悲惨なトイレ事情は詳しく伝えられることはあまりないが、深刻な問題だ。 地震発生から3カ月以上を経ても上下水道が復旧していない被災地が多い。排せつが不自由だと日常生活に支障があるだけでなく、健康にも影響する。災害関連死を防止する意味でも被災者の排せつ支援は極めて重要だ。 災害用トイレ車両にはトラックや商用車を改造した自走式の「トイレカー」もある。大規模災害が頻発して関連死の防止が重視される中、全国でトイレ車両を整備する自治体が増えて
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社説(4月18日)衆院3補選始まる 政治改革へ具体策示せ
東京15区と島根1区、長崎3区の衆院3補欠選挙が告示され、いずれも選挙戦に突入した。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、国民の政治不信が深まる中、政治改革が3補選共通の焦点になるのは間違いない。 ところが自民党は二つの選挙区に候補者を立てられなかった。政権与党としてあまりにふがいない。公認候補を立てた島根1区で敗れれば、岸田文雄首相は政権への最終警告と受け止めるべきだ。 9月の党総裁選で再選を目指す首相だが、仮に島根1区を落として「全敗」した場合、党内に「岸田首相では選挙を戦えない」との空気が広がり「岸田おろし」が始まる可能性もある。自民が議席を確保するには、その政治改革に一
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社説(4月17日)中東情勢緊迫化 報復の連鎖食い止めよ
イランが敵対するイスラエル本土に対し、300を超える弾道ミサイルや巡航ミサイル、自爆型無人機を撃ち込んだ。イスラエル軍は99%を迎撃したと発表したが、空軍基地で小規模な被害があったほか、少女1人が負傷した。 イランがイスラエルを直接攻撃するのは初めて。1日にシリアのイラン大使館が空爆され、革命防衛隊幹部を殺害されたことへの報復としている。空爆について、イスラエルは肯定も否定もしていないが、イスラエルの行為に間違いないとみられている。 イスラエルを宿敵とみなすイランは、これまでもレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを使ってイスラエルに「代理戦争」を仕掛けてきた。ところが、イスラエルは大使館攻
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社説(4月16日)医師の残業規制 地域医療維持と両立を
働き方改革関連法に基づく時間外・休日労働の上限規制が今月から病院勤務医にも導入された。現在の医療提供体制は、自己犠牲的な医師の献身に大きく依存し、これまで長時間労働解消の機運も乏しかった。実効性ある働き方改革を進め、就業環境を見直す契機にしなければならない。 ただ、残業規制の導入で大きな影響を受けるのが地域医療だ。静岡県は、医師数が都道府県別で下位3分の1の「医師少数県」。全国平均と比べ、特に病院勤務医が少ない。地域医療維持との両立を図るため、医師の確保に知恵を絞る必要がある。 勤務医の長時間労働では、心身共に疲弊し、命を落とす事例も起きている。2022年、神戸市内の病院に勤めていた当時
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社説(4月14日)子どもの権利条約 命守る対策を加速せよ
日本が子どもの権利条約を批准して今年で30年になる。条約を土台に制定したこども基本法の施行とともに、子ども施策を遂行するために設置したこども家庭庁は1年前にようやく発足した。子どもの人権を守る取り組みは遅れていると言わざるを得ない。 子どもの権利条約は、子どもを大人に従属する存在ではなく、権利の主体として位置づける。生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利を定め、子どもの意見の尊重や差別の禁止などを原則に掲げる。1989年に国連で採択され、日本は94年に批准した。 しかし、児童虐待などの暴力が高い割合で報告されている日本の現状に国連子どもの権利委員会が2019年に対策を強化するよ
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社説(4月13日)日米同盟の深化 国民へ丁寧な説明必要
訪米した岸田文雄首相は米ワシントンのホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みの見直しで一致した。部隊の運用性向上を図るため、米軍と自衛隊の一体化が強まることになる。両首脳は、日米同盟が「グローバル・パートナー」として世界的な課題に協力して取り組むとアピールした。 日米同盟は今後も日本外交の基軸であり続ける。とはいえ、従来の同盟関係は、日米安全保障条約に基づいて米軍が「矛」、自衛隊が「盾」とする役割分担が主体だった。一体運用が進むことで日本が矛の一部を務める可能性が強まる。さらにグローバルな課題解決に取り組むとすれば、米軍の世界戦略の一翼を担うことに
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社説(4月12日)韓国総選挙と日本 長期的外交戦略を練れ
韓国総選挙は少数与党の「国民の力」が現有議席を割り込む敗北を喫し、最大野党「共に民主党」が過半数を大幅に上回る議席を獲得した。就任以来、日韓関係の改善に努めてきた尹錫悦[ユンソンニョル]大統領の求心力が低下するのは必至だ。尹政権の外交にも影を落とすだろう。日本政府は2027年に予定される次期大統領選での政権交代の可能性を意識せざるを得ず、日韓外交が膠着[こうちゃく]状態に陥る懸念がある。 安倍晋三政権以降、日本の対韓外交はどこか諦めムードが漂う。上川陽子外相(衆院静岡1区)の顔が見えてこないのは、政府の優先順位が低い証左だろう。根底には、15年の慰安婦問題を巡る合意を文在寅[ムンジェイン]
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社説(4月11日)ライドシェア 地方も関心高め検討を
一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶライドシェアが部分的に解禁された。4月は東京、横浜、名古屋、京都などの都市部でスタート。今後は札幌、仙台、大阪、福岡などでも始まる。 管理運営主体をタクシー会社に限定し、IT企業が主体の欧米などとは異なるため「日本版ライドシェア」と称されている。 一方、自治体主導で運営す「自治体ライドシェア」も、北陸新幹線延伸開業で旅客需要増を見込んだ石川県小松市で始まるなど活発になってきた。これまで自家用有償旅客運送は過疎地域などが対象だったが昨年末、夜間などバスやタクシーが乏しい時間帯も運行が可能になり、より多くの地域で導入できるようになった。静岡県内の
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社説(4月10日)知事選前倒し 県の将来像を競い合え
任期途中での辞職を表明した川勝平太知事は、当初、静岡県議会6月定例会としていた辞職時期を早め、10日にも県議会議長に辞職願を提出する見通しだ。辞職に伴う次の知事選は5月9日告示、26日投開票で実施される公算が大きい。県民はわずかな期間で、後任の知事を選ばなくてはならない。 既に元総務官僚が立候補を表明し、複数の政治家の名前も取り沙汰されて選挙戦の可能性が高まっている。突然の知事交代による混乱を早急に収め、新たな県政を円滑にスタートさせるには、有権者が立候補者の資質と政策の適否を見極め、一票を投じることが欠かせない。そのためには短期決戦といえども、立候補者は自分の描く県の将来像をしっかり語り
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社説(4月9日)静岡茶市場 消費者の認知度向上を
静岡市葵区の茶問屋街に、はしり新茶が出回り始めた。中心的施設の静岡茶市場の新茶初取引式典は開設以来最も早く12日朝、開催される。 入荷数量が見通せず、六曜は前年と同じ赤口で「赤字を連想させる」という声もあるが、シーズン到来を一日でも早く告げようと暦より実を取った。2023年度に10年連続の営業赤字となった危機感の表れとも受け取れる。 茶市場の活路には、茶業者の施設から、お茶好きな消費者も注目するよう、認知度を向上させる必要がある。急須を使って上級茶葉を入れる人を増やし、安い原料茶を使う大手の緑茶ドリンク台頭による茶価下落に歯止めをかけなければならない。 23年度は若手社員のプロジェクト
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社説(4月8日)子ども支援金 「負担増」の議論隠すな
児童手当の拡充などを柱とする少子化対策関連法案が衆院で審議入りした。対策の実行には今後3年間に年最大3兆6千億円の財源が必要となるため、社会保障の歳出削減や創設する「子ども・子育て支援金」などで賄う。支援金は公的医療保険料に上乗せして徴収する。対策の実効を上げる議論を求めたい。 焦点となる支援金の徴収で岸田文雄首相は答弁で「歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内で行う。国民に新たな負担を求めない」と強調した。従来から歳出改革で社会保険料の伸びを抑え、賃上げの効果を加味すれば「実質的な負担は生じない」と繰り返してきた。 しかし、首相が「負担増」のイメージ隠しに腐心するあまり、少子化に対
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社説(4月7日)ガザ戦闘半年 拡大を防ぎ停戦実現を
イスラム組織ハマスによるイスラエル領への越境テロ攻撃で始まった戦闘は7日で半年。パレスチナ自治区ガザ地区で続くハマスとイスラエル軍の戦闘は停止どころか、戦火が中東全域に拡大する懸念すら高まっている。 シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部の建物が1日、空爆された。イスラエルは公式に関与を認めていないが、イランとシリアは外交施設を標的にした攻撃は国際法違反だと強く非難している。イランがイスラエル領への報復攻撃に出ればイスラエルを支援する米国も巻き込んで戦火が拡大しかねない。 国際社会は双方に自制を求め、戦火の拡大を防がなければならない。ガザ地区での戦闘も即刻停止させなければならない
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社説(4月6日)保護司の確保 若返り進む制度改革を
罪を犯した人や非行少年の立ち直りを支える保護司の減少を受けて、制度の見直しを議論している法務省の有識者検討会は、新任時の年齢上限の撤廃や公募制の試行などを盛り込んだ中間報告を取りまとめた。ボランティアで活動している保護司に報酬制を導入する適否も検討する。年内に最終報告書をまとめる方針で、政府は来年の保護司法改正を目指す。 保護司は政府が対策に力を注ぐ再犯防止に欠かせない存在だ。しかし、保護司は減り続け、高齢化が進んでいる。担い手の確保は重要な課題で、持続可能な制度にするためには、若返りを図る改革が求められる。 保護司は刑務所や少年院を出た保護観察中の人などと定期的に面会し、生活上の助言や
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社説(4月5日)自民党の裏金処分 いまだ真相解明できず
自民党は派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、党紀委員会を開き、事件に関係した安倍派と二階派の所属議員39人の処分を決定した。 安倍派元座長の塩谷立元文部科学相(衆院比例東海)と参院の同派トップだった世耕弘成前参院幹事長を、党の規約に定めた8段階の処分のうち2番目に重い離党勧告とし、ほかの議員には3番目に重い党員資格停止や6番目の党役職停止などを科した。 党総裁の岸田文雄首相に、一部議員の反発を買ってでも処分を断行することで国民に政治改革をアピールし、政権や党への逆風を弱めたい思惑があるのは間違いない。だが、多くの国民はこの処分に納得がいかないだろう。処分の前提となるべき事件の真相解
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社説(4月4日)浜名湖花博 周遊観光定着の弾みに
「浜名湖花博2024」が浜松市中央区のはままつフラワーパークで開幕した。6日には、もう一つの会場である同区の浜名湖ガーデンパークでもスタートする。集客力の高い花と緑の祭典を機に、環浜名湖の魅力を発信し、周辺エリア一帯の観光振興に結びつけたい。 04年の「しずおか国際園芸博覧会(浜名湖花博)」の20周年記念事業として静岡県などでつくる実行委が主催する。「人・自然・テクノロジーの架け橋」をテーマに6月中旬まで、季節の美しい花や庭園、関連したデジタルアートなどの最新技術を披露する。花き産業が盛んな本県産の美しい花や庭、風景を広くアピールしてほしい。 期間中は両会場だけでなく、近隣の湖西市で世界
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社説(4月3日)川勝知事突然辞意 無責任のそしり免れず
静岡県民の負託の重さを理解しているとは、到底思えない引き際だ。2009年の初当選以来、約15年にわたって県政のかじ取りをしてきた川勝平太知事が2日、「6月の議会(県議会6月定例会)をもって職を辞そうと思っている」と突然の辞意表明をした。4期目の任期を約1年残しての辞職となる。 突然の辞意表明は、1日の新規採用職員への訓示で職業差別と受け取れる発言をしたことを巡り報道陣の取材を受ける中でだった。ところが、県政に多大な影響を及ぼす判断であるにもかかわらず、理由を説明せずに取材対応を打ち切った。あり得ない。24年度予算が成立しているとはいえ、新年度を円滑にスタートさせなければならない重要な時期だ
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社説(4月2日)静岡市歴史博物館 リピーター獲得目指せ
戦国時代の今川家、徳川家の歴史をはじめとする静岡市の成り立ちに関する資料を収めた静岡市歴史博物館(葵区)の全面開館から、1年余が経過した。2022年7月のプレオープンから数え、これまでに約45万人が入館している。 同館のアンケートによると、県外からの来場が約3割に上った。全面開館した23年は大河ドラマ「どうする家康」の放映と重なり、静岡浅間神社境内に期間限定で開かれた「大河ドラマ館」との回遊も活発だった。大河放送が終了した24年は、観光拠点としてのさらなる知名度向上に加え、資料収集と企画展示、館外の活動を含む教育活動をバランス良く展開してほしい。県内外からリピーターを獲得するための工夫が必
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社説(4月1日)対北朝鮮交渉 拉致解決へ機会逃すな
北朝鮮の金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党総書記の妹、金与正[キムヨジョン]党副部長が3月、水面下で行われているとみられる日朝の外交交渉の内容を暴露する談話を発表して波紋を広げている。岸田文雄首相が、可能な限り早い時期に金総書記と直接、会談したいとの意向を伝えてきたとした上で、「拉致問題は解決済み」とする立場を強調して日本側もこれを受け入れる「政治的決断」を求めた。 ところが翌日に「日本側といかなる接触も拒否する」と表明。さまざまな臆測を呼んだ。外交の原則に反して暴露したのはなぜか。日本が、最優先課題の拉致問題を無視して交渉などできようはずもない。それを北朝鮮が承知していないこともあり得ま
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社説(3月31日)ギャンブル依存症 改めて危険性の周知を
ギャンブル依存症が人生を狂わせ、周囲も巻き込んで深刻な事態を招くことを改めて認識させられた人も多いのではないか。米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の専属通訳を務めていた水原一平氏が違法賭博問題で解雇され、依存症だと告白した。大谷選手だけでなく、水原氏の家族にも計り知れないダメージを与えたのは想像に難くない。 国内のギャンブル依存症の実態や対策の遅れはカジノ合法化に向けた議論の中で社会問題として取り上げられ、対策強化の必要性が指摘された。2018年にはギャンブル等依存症対策基本法も施行された。ただ、昨年4月に大阪府・市が国に申請したカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画が認定された
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社説(3月30日)東部3市の再開発 全域活性化へ連携図れ
静岡県東部の主要3市(富士、沼津、三島)の中心市街地で2024年度、複合ビルを建設する再開発事業が本格的に始動する。富士、三島は30年までに完了する予定。新たな貨物ターミナルと車両基地の整備に伴う鉄道高架化を進める沼津では、40年前後の完工を見通す。 東部・伊豆は少子高齢化と人口減、中心市街地の衰退など共通する課題を抱え、基幹産業である観光も先行き不透明だ。そうした中で、図らずも人口10万人を超す主要3市の中心市街地再開発が同時期に本格化する。3市はこれを好機ととらえ、観光振興や定住促進で連携して東部・伊豆全体の活性化に寄与する方策を考え、推進してほしい。 再開発をてこに地元の活性化を第
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社説(3月29日)サプリ健康被害 周知徹底し回収を急げ
小林製薬(大阪市)が製造販売した「紅こうじ」のサプリメントを摂取した人に、腎疾患などの健康被害が出た問題が拡大している。サプリ摂取後に4人が死亡したことが報告され、入院患者も90人以上となった。 小林製薬は対象となる3製品の自主回収を始め、同社から原料の供給を受けた飲料や食品のメーカーによる自主回収も広がっている。大阪市も対象商品の回収を命じた。 まずはこれ以上の被害を防ぐために対象商品の回収を急がなければならない。漏れのない周知が必要だ。ただし、これまでの流通量の多さから回収終了までには時間がかかるとみられている。 被害報道を受けて小林製薬に対する相談件数は約1万2千件に達し、寄せら
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社説(3月28日)静岡県内商業地の地価 上昇基調持続へ政策を
国土交通省が発表した公示地価(1月1日現在)は、新型コロナウイルス感染症5類移行による社会経済活動の正常化などで、全用途の全国平均が前年比2・3%上昇し、バブル崩壊後で最大の上昇率となった。ただ、地方圏(札幌、仙台、広島、福岡の地方四大市を除く)は0・7%上昇と、三大都市圏(3・5%)、地方四大市(7・7%)ほどの勢いはない。 静岡県は0・1%下落と16年連続マイナス。県外のように大手半導体メーカー進出や外国人の別荘需要増、鉄道延伸などの特徴的要因はなかったが、用途別で商業地は4年ぶりに上昇に転じた。商業地上昇率トップは観光客でにぎわい、出店需要が高まる熱海市熱海銀座地区の13・2%。
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社説(3月27日)大谷選手の会見 疑惑晴らし野球専念を
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が、専属通訳だった水原一平氏の違法賭博疑惑について初めて現地で記者会見し、自らの賭けや胴元への送金などすべての関与を否定する声明を発表した。 たとえ通訳の不祥事でも、大谷選手が関与していれば法的責任を問われたり、大リーグ機構から出場停止などの処分を科されたりすることも考えられる。声明が事実なら、その可能性は極めて小さいと見てよかろう。ひとまずはファンを安堵[あんど]させた。 とはいえ、大谷選手が「話せることに限りがある」と前置きしたように、質疑応答はなく会見時間は10分程度。口座への送金方法など未解明の点があり、調査の進展が待たれる。エンゼルスからドジ
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社説(3月26日)北陸新幹線延伸 被災地復興の後押しに
北陸新幹線の金沢―敦賀間が延伸開業した。東京―福井間の所要時間は最短2時間51分で、開業前より約30分短縮されて首都圏がより近くなった。沿線では観光など地域経済への効果が期待される。 能登半島地震からの復興につなげる観光支援事業「北陸応援割」も始まり、活況を呈しているようだ。地震で落ち込んだ旅行需要の回復が目的で、期間限定で宿泊代金が最大50%引きとなる。JR西日本は延伸開業直後の2日間は昨年の利用実績の1・2倍になったとしている。 一方、石川県の奥能登地域を中心とする能登地震の被災地は依然として復旧途上だ。地震発生から間もなく3カ月となるが、約1万戸が断水したままで、8500人以上が避
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社説(3月25日)新入幕優勝 若手台頭を躍進の力に
大相撲春場所で新入幕の東前頭17枚目尊[たける]富士が13勝2敗で優勝を果たした。1914年(大正3年)夏場所の両国以来、実に110年ぶりの快挙だ。初土俵から10場所目の優勝は、両国の11場所を抜いて最短記録を更新した。学生相撲出身の24歳。今場所は同じ学生相撲出身で一足早く入幕した23歳の大の里も好成績を収め、優勝争いを繰り広げた。今後のライバル関係を予感させる若手の活躍が、角界に新風を吹き込んだ。 春場所の直前、幕内北青鵬の後輩に対する暴力行為が発覚して引退を余儀なくされ、師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)も2階級降格の処分を受けた。場所中には唯一の横綱照ノ富士が腰のけがで休場。大相撲離れ
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社説(3月24日)基本法改正と農村 持続可能な農業集落に
政府は食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定した。今国会で成立させ、国際紛争の激化や気候変動などに対応する新たな農業政策を展開する考えだ。 農業基本法を継承し1999年の施行から25年。この間、国内外の情勢は大きく変化した。改正の基本理念に打ち出した食料安全保障がクローズアップされているが、法律名の通り食料、農業、農村は不可分である。地球規模で考える食・農と、身近な生産現場である地方の農業集落は車の両輪として持続性を考えなければならない。農業集落が持続可能なコミュニティーであり続け、食料安定供給と農業の多面的機能を切れ目なく発揮できるように支援するのが、地方自治体の役割だ。 有事に対応
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社説(3月23日)民間ロケット 失敗を糧に前進続けて
和歌山県で打ち上げられた民間の小型ロケット「カイロス」1号機は発射5秒後に爆発し、打ち上げは失敗した。打ち上げた宇宙事業会社スペースワンは、何らかのトラブルが発生し、搭載コンピューターが自ら破壊することを判断したとしている。 失敗の報を聞いた米宇宙開発企業スペースXを率いるイーロン・マスク氏は「ロケットは難しい」と自身のX(旧ツイッター)アカウントで言及した。宇宙船や大型ロケットの開発で躍進著しいスペースXもロケットで打ち上げ失敗を繰り返している。 民間企業が取り組む上で、乗り越えるべきハードルは依然として高いことが改めて示された。一方でロケットによる衛星打ち上げ需要は世界的に拡大し、民
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社説(3月22日)障害者工賃アップ 民間の協力拡大不可欠
企業と雇用契約を結んで働くことが困難な障害者が利用する静岡県内の就労継続支援B型事業所で、2022年度に障害者が手にした工賃(月額)の平均は前年度比398円(2・4%)増の1万6866円となった。記録が残る06年度以降で最高額。それでも、県が掲げた23年度に2万円という目標とは大きな開きがある。 就労継続支援B型は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つ。活動の対価である工賃は、労働の対価として支払われる賃金とは性格が異なるとはいえ、工賃が増えれば利用者の仕事のやりがいが高まる。 事業所が利用者の作業を通じて得る収入が増えれば、経費を差し引いた利益が配分される工賃をアップできる。仕
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社説(3月21日)新設のリニア会議 対策監視厳正に継続を
国土交通省は、県内のリニア中央新幹線トンネル工事に伴ってJR東海が実施する水資源、環境保全対策の実施状況を確認するため、「静岡工区モニタリング会議」を新設し、初会合を開いた。 国交省は大井川の水資源の確保と、南アルプスの環境保全に関する専門家会議を3年8カ月にわたって開催し、2023年12月までにそれぞれのテーマの報告書をまとめた。新設の会議は、JRが報告書を踏まえて実行に移す対策の適切性を継続的にチェックする役割だ。 トンネル掘削工事に着手して以降に、想定していない事態が起きる可能性もあり、JRは影響が確認されるごとに適宜対策を講じる「順応的管理」の手法を採用する。JRが状況に応じて的
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社説(3月20日)マイナス金利解除 中小への目配り十分に
日銀がマイナス金利政策の解除を決めた。2016年から続いた異例の政策が終焉[しゅうえん]する。併せて、長期金利の上限を1%としていた目標を撤廃し、金利全般を抑制する長短金利操作も終えるとした。これらは国内金融政策を正常化させるための重要な一歩といえよう。ただ、賃金と物価の好循環が今後も回り続けるのか、特に地域経済を支える中小企業は、その不確実性を拭い切れているのか疑問を持たざるを得ない。 超低金利下での暮らしが長過ぎたがゆえに、金利のある経済へ移行していくことに不安感を覚える人も少なくない。政府・日銀には、引き続き地方経済も含めた情勢把握を丁寧に重ね、政策などで十分な目配りを求めたい。
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社説(3月19日)アフガン女性抑圧 教育禁止の即時撤廃を
中学生以上の女子教育を禁じているアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、全34州のうち農村部の約10州で女子学生の公立医大への入学を容認する方針を示した。農村部で深刻化する女性医師不足に対応する例外的な措置とみられる。 アフガンの女性は親族以外の男性と接触を避ける習慣があるため、女性医師の不足は女性の生命や健康に重大で深刻な影響を及ぼす。医療分野に限らず、女子の教育機会を奪うのは、社会に必要な人材の育成を放棄しているのに等しい。国の将来を危うくすることは明白だ。 医大入学の容認は、タリバンの女性抑圧に対する国外の批判を意識したとの見方もある。国際社会は女子教育の禁止を即時に撤
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社説(3月17日)「再出発」前にけじめを きょう自民党大会
自民党は2024年の党大会を17日に東京都内で開く。政治資金パーティーを巡る派閥の裏金事件で国民の強い政治不信を招き、12年に政権復帰して以降、最も厳しい逆風の中での党大会になる。岸田文雄首相が総裁演説で何を語るかが焦点だ。 党大会に先駆けて開いた16日の全国幹事長会議で、岸田首相は「命がけで党再生に努力していきたい」と述べた。だが、今の状況は自民への支持が急落しているというだけでなく、日本の政治そのものへの国民の信頼が失われつつあることを認識すべきだ。党再生を語る前に、事件に対する本当の責任の所在を明確にして相応のけじめをつけなければ、信頼回復の出発点に立つこともできまい。 大会を前に
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社説(3月16日)就活と地方企業 情報開示に積極姿勢を
2025年春卒業予定の大学生に対する会社説明会やエントリー受け付けなどが解禁され、就職活動が本格的に始まった。3月解禁、6月選考開始、10月内定式という日程は形骸化が指摘されて久しく、既に2月までに3割超の学生が内定を得ているという就職情報会社の調査もある。 人手不足で今年も企業側の採用意欲は強く、新採スケジュールはさらに早期化傾向とされる。春闘では製造大手の満額回答が相次いだ。人材獲得へ初任給アップに踏み切る社もあり、就活生の心理や行動にどのような変化をもたらすかも注視される。 引き続き学生優位の「売り手市場」と言われるが、就活生は油断せず、しかし焦らず試練を乗り越えてほしい。確かな情
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社説(3月15日)参院で初の政倫審 疑惑の解明には程遠い
「分かりません」「知りません」―。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて開かれた参院の政治倫理審査会で、安倍派(清和政策研究会)の参院会長だった世耕弘成前参院幹事長が繰り返し答えた言葉だ。 参院政倫審での審査は1985年に設置されて以来初。衆院の政倫審と同様、報道機関に全面公開で実施された。世耕氏はやましさなど毛頭ないような態度で語る一方、パーティー券のキックバック(還流)問題への自らの関与を一切否定、疑問となる点は知らぬ存ぜぬで通した。 世耕氏は派閥幹部として重要な会合には出席していたはずだ。主張をそのまま信じられないというのが国民の素直な気持ちではないか。責任逃れのようにも聞
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社説(3月14日)出生数最少75万人 対策へ本気度を高めよ
2023年に国内で生まれた赤ちゃんの数(出生数)は統計を開始してから過去最少の75万8631人だったことが、厚生労働省発表の人口動態統計の速報値(外国人らを含む)で明らかになった。最少更新は8年連続。22年に80万人を割り、そこからさらに5・1%減少した。 厚労省の国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口では、76万人を割るのは35年と見込まれていた。実際には12年も早いペース。これから発表がある日本人だけの出生数は70万人台前半への落ち込みが確実な情勢となった。 もはや少子化の流れは危機的な状況といえるだろう。政府は若年人口が急減する見込みの30年までが少子化傾向を反転できるラストチ
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社説(3月13日)自転車違反反則金 利用者は意識改めよう
政府は自転車の交通違反に反則金納付を通告できる交通反則切符(青切符)制度を導入する道交法改正案を閣議決定した。対象は16歳以上で、反則金額は原動機付き自転車(原付)並みの5千~1万2千円を想定する。車と同じように反則金を納めずに起訴されて有罪になった場合は刑事罰を科される。改正法案は今国会での提出を目指す。 自転車なら多少の違反は許されるという考えは通用しなくなる。ルール無視の走行が引き起こす重大な事故が相次いでいる。新制度導入を機に、自転車を利用する際は危険な存在になり得ると意識を改める必要がある。 自転車関連事故は大幅に減っているものの、自転車と歩行者の事故は増加傾向にある。警察庁に
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社説(3月12日)アカデミーW受賞 日本の質の高さ示した
映画界で顕著な業績を上げた監督や俳優らを表彰する米アカデミー賞の授賞式がハリウッドで開かれ、長編アニメーション賞と視覚効果賞にそれぞれ日本映画が選ばれた。 ダブル受賞の快挙を喜びたい。日本映画の質の高さを幅広く知ってもらうとともに、底流にある日本文化への理解も広げる機会としたい。 長編アニメーション賞は、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が選ばれた。宮崎監督作品の受賞は「千と千尋の神隠し」(2003年)以来で2度目。宮崎監督は14年に名誉賞も受けている。 「君たちは―」は、宮崎監督の幼少期の体験などをベースに描かれた冒険ファンタジー。アカデミー賞の前哨戦とされるゴールデン・グローブ賞
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社説(3月11日)ミャンマー情勢 内戦終結へ働きかけを
3年前にクーデターで権力を掌握したミャンマーの軍事政権は民主派や少数民族の武装勢力との戦闘が続く中、早ければ4月から徴兵制を実施する。昨年10月、中国との国境に近い北東部シャン州などで少数民族の3武装勢力が蜂起して以降、兵士の投降や脱走が相次ぎ、国軍は強制的に戦力を確保する必要に迫られた。国軍の弱体化を自ら認めたとも言える。 徴兵制の実施は国軍が戦闘を続行する意思と受け取れるが、暴力の即時停止を求めてきた東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係正常化を図ろうとする動きも見られる。昨年ASEANとの交流開始50年を迎えたのを機に連携強化を確認した日本も軍事政権に内戦終結を強く働きかけたい。精
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社説(3月10日)東日本大震災13年 津波への備え念入りに
大津波で東北地方の沿岸が壊滅し、2万人以上が犠牲となった東日本大震災から11日で13年。元日に起きた能登半島地震の津波映像を見て、東北の惨状を思い出した人は少なくなかったのではないか。 能登半島地震では、東日本大震災以来となる「大津波警報」が発表された。現地調査をした気象庁の推定で、痕跡高から能登半島北部の石川県能登町で4・7メートル、遡上[そじょう]高から新潟県上越市で5・8メートルの津波の襲来が分かった。 津波高が2メートルを超えると、木造住宅が流失するリスクが高まるといわれる。押し寄せる黒い波には、やはり底知れぬ恐ろしさがある。能登半島地震で改めて津波の威力と怖さを突き付けられた思
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社説(3月9日)新興企業の支援 地域活性化の起爆剤に
革新的なデジタル技術や新しい発想で社会課題を解決し、企業として急成長を遂げる。そんなスタートアップと呼ばれる新興企業の支援や育成に取り組む地方自治体が増えている。若い企業の活力を地域経済の発展の起爆剤にしたい。 静岡県は2024年度当初予算案に、県内を舞台に実証実験を行う首都圏スタートアップなどへの助成や、高校生のビジネスアイデアを事業化する費用などを計上した。元気なスタートアップを本県に呼び込むのと同時に、未来の起業家を大切に育てていくことが欠かせない。 浜松市は全国初の取り組みとして、民間金融機関のベンチャー向けローンで調達した資金の同額を交付する「ファンドサポート事業」の予算を盛り
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社説(3月8日)再審法改正議連 世論喚起へ先頭に立て
刑事事件のえん罪被害者の速やかな救済につながる法整備を目指す超党派の国会議員連盟(議連)が近く発足する。立法府の国会を構成する議員が動き出した意義は大きい。しかも議連の呼びかけ人には党首や大物議員が名を連ねる。日本弁護士連合会(日弁連)が求めている刑事訴訟法の裁判のやり直し(再審)に関する規定(再審法)改正に向けた一歩になる。 再審法は戦後一度も改正されていない。日本の再審制度は、再審を開始するかどうかを判断する再審請求審と、有罪か無罪かを決める再審の2段階構造で、再審請求審に何十年もかかるケースが目立つ。日弁連は再審法に通常の裁判のような具体的な規定が乏しいのが原因として、証拠開示のルー
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社説(3月7日)震災で進む人口減 奥能登の支援に全力を
能登半島地震の発生から2カ月が経過し、被災地では防災ボランティアの活動がスタート、応急仮設住宅への入居も一部で始まるなど、生活再建の歩みが動き出した。 一方で石川県内ではいまだに1万人以上が避難生活を送る。電気や通信は復旧したものの1万8千戸以上で断水が続く。上水道はもちろん、下水道も使えない状況では日常生活の維持は難しい。全国の自治体などから応援を受けて作業が進むが、全面復旧までは時間がまだかかりそうだ。 県がまとめた人口推計によると、輪島市や珠洲市など奥能登地域2市2町からの転出者数は今年1月、前年同期の4倍以上になった。高齢化と人口減少が進む被災地で震災が過疎化に拍車をかける実態が
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社説(3月6日)性犯罪歴照会制度 子どもの被害根絶図れ
政府は子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の制度案を自民党の部会に示した。与党との調整を経て、今国会に法案を提出する方針だ。子どもの被害根絶につながる実効性の高い制度にしなければならない。 制度案は、国がデータベースを構築し、学校や保育所などに求職者の性犯罪歴照会を義務付ける。学習塾や放課後児童クラブ、スポーツクラブなどは任意の参加による「認定制」とし、国の認定を受けた事業者には照会を求める。 新たに就職を希望する人だけでなく、既に働いている人も対象で、性犯罪歴が確認されれば、子どもと接する業務からの配置転換や第三者の目が届かない状況が生じないようにするなど、雇
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社説(3月5日)日経平均4万円超 実感が伴う成長実現を
東京株式市場で日経平均株価(225種)が史上初めて4万円を超えた。ただ静岡県民の暮らしの中に、歴史的株高の恩恵を感じられる材料はほとんど見当たらない。国内外の投資家は日本経済がついに長期低迷から脱すると期待しているだけに、企業部門は賃上げや投資積極化といった前向きな支出行動を継続し、実感が伴う成長実現へとつなげたい。 本県に本社や主要拠点を置く上場企業も、新型コロナウイルス禍収束後の経済活動回復と、外国為替市場の円安ドル高基調を追い風に外需型企業を中心に業績を拡大している。ロシアのウクライナ侵攻後の物価高によるマイナス影響を価格転嫁で吸収する企業も見られる。 2024年の春闘が本格化した
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社説(3月4日)ヤングケアラー 18歳以上も支援に力を
大人に代わって日常的に家事や家族の世話を担うヤングケアラーの支援を初めて法制化する子ども・若者育成支援推進法の改正案が今国会に提出された。法的な定義がなかったヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と明記し、国や自治体が支援に努める対象と定める。 ヤングケアラーはこれまで18歳未満と定義されることが多かったが、18歳以上の若者も支援対象に加える。成人になっても家族のケアが終わるわけではない。家族の世話で希望する進学や就職を諦めざるを得ないケースも少なくない。年齢で区切らないサポートは家族介護の経験者や支援団体が求めていた。 18歳未
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社説(3月3日)「核のごみ」処分場 現行方式で決まるのか
「核のごみ」と呼ばれる原発の高レベル放射性廃棄物の最終処分場をめぐり、候補地選定事業を担当する原子力発電環境整備機構(NUMO)の報告書案がまとまった。それによると、全国で初めて文献調査を実施した北海道寿都[すっつ]町と神恵内[かもえない]村が、次の段階の概要調査に進むことが可能だと判断された。 北海道への最終処分場受け入れに反対してきた鈴木直道知事は、概要調査に「反対の意見を述べる」とするコメントを発表。概要調査に進むには知事や地元首長の同意が不可欠で、実現が見通せない状況になっている。 また、能登半島地震では海底にある活断層評価が十分でなかった。掘削も可能な陸域に比べると、海底には調
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社説(3月2日)政倫審での弁明 国民の疑念は深まった
国民が知りたかったことは何一つ解明されなかったと言っていい。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受け、衆院の政治倫理審査会が2日間にわたって開かれた。岸田文雄首相と、組織的に裏金づくりをしていた安倍派、二階派の幹部5人が出席して弁明し、質疑に応じたが、違法行為が始まった経緯や裏金の使途について納得いく説明はなかった。これでは政治不信の払拭どころか、疑念を深めただけではないか。 現職首相として初めて政倫審に出席した岸田氏は、事件について陳謝し「党総裁として自ら説明責任を果たす」と意気込んだが、裏金づくりに関する説明は、既に公表した党の聞き取り調査結果の内容にとどまった。政治資金規正
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社説(3月1日)ビキニ事件70年 今こそ核廃絶の決意を
南太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁で1954年3月1日未明、米国の水爆実験が行われた。広範囲に放射性物質を含む降下物「死の灰」が降り、現地の島民だけでなく、付近で操業中だった日本の遠洋マグロ漁船も被ばくした。 焼津を出港した「第五福竜丸」の乗組員23人も死の灰を浴び、強い放射線を受けた場合に健康障害が起きる「急性放射線症」と診断された。半年後に無線長の久保山愛吉さん(当時40)が死亡。国内に大きな衝撃を与えた。 この「ビキニ事件」当時、冷戦状態の米国とソ連は核実験を頻繁に行った。ソ連崩壊とともに核戦争は遠のいたように見えたが、ウクライナを侵略したロシアは核兵器使用も示唆して威嚇。再び核の脅
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社説(2月29日)静岡茶の活路 「和紅茶」に注目したい
茶の減産が止まらない。農林水産省作物統計によると、2023年の荒茶生産量は静岡など主産8府県で前年比3%減の6万8千トン(全国は推計7万5200トン)だった。コロナ禍の作業停滞や外出自粛による緑茶飲料の需要見通し減などで摘採見送りが増えた20年をも下回った。高度経済成長前の水準である。 本県の荒茶生産量は2万7200トン。鹿児島県は2万6100トンで、辛うじて首位を守った。ただ、一番茶が前年比13・7%減だったのに二番茶以降を合わせると4・8%減と、需給シフトが瞭然だ。 農家の高齢化や長引く茶価低迷で茶の生産基盤は弱体化に歯止めがかからない。茶業の“黄信号”に早く
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社説(2月28日)成年後見制度 利用者本位の改善急げ
認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人の権利を代理人が保護する「成年後見制度」の見直しについて、小泉龍司法相が法制審議会に諮問した。制度に対しては高齢化の進行でニーズの増加や多様化が見込まれる一方、一度後見人が決まると終了や交代が難しいなど、使い勝手がよくないとの指摘がある。利用者本位の改善が急務だ。 政府は法制審での議論を踏まえ、後見人の期間制導入など柔軟な運用を可能にするため、2026年度までに民法など関係法令の改正を目指す。制度が00年に始まって以来、初の大幅な改正だ。本人の意向を尊重しながら暮らしを後押しするという制度の趣旨を踏まえた上での利用促進に知恵を絞りたい。 制度は
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社説(2月27日)力士の暴力根絶 より強い危機感必要だ
大相撲の世界でまた暴力問題が発覚した。幕内の北青鵬が1年以上にわたって後輩力士2人に暴力を振るっていたとして日本相撲協会は師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)に監督義務違反などで2階級降格と減俸の処分を言い渡した。北青鵬は引退した。 史上最多の優勝45回を誇る元大横綱の部屋で将来を嘱望されていた大器が起こした不祥事だけに、落胆したファンは少なくない。日本相撲協会が2018年に「いかなる暴力も許さない」と暴力決別宣言し、厳罰化を図った後も、暴力行為は何度も明るみに出ていた。暴力体質は根深いと言わざるを得ない。 相撲部屋の兄弟子が弟弟子へ暴力を働いているケースがほとんど。立場を利用したパワーハラス
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社説(2月26日)沼津の新観光戦略 人気アニメに依存せず
人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台として知られ、海外からもファンが訪れる沼津市で今月、同アニメに関連した二つの施設が閉業した。ここ数年、沼津の観光はアニメ人気に頼ってきたが、「アニメ一辺倒」の観光は需要の先細りが懸念される。このため市は2024年度、新たな観光客誘致の軸にインバウンド(訪日客)を据える方針だ。観光戦略を練り直し、訪日客に魅力をアピールできる地域資源の掘り起こしが欠かせない。 同市の観光客数は17年度に旧戸田村との合併後最多の462万人に達し、宿泊客数も過去最高の87万人を記録した。アニメファンが多い三の浦観光案内所には8万4千人が訪れてピークとなった。しかし、
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社説(2月25日)「教育に新聞を」 表現力を伸ばす教材に
静岡県NIE(教育に新聞を)推進協議会の2023年度実践報告会が静岡市内で開かれ、小中学校、特別支援学校の実践指定6校が2年間の取り組みを紹介して成果と課題を発表した。 各校の報告では、新聞を「読む」「書く」の教材として用いるだけでなく、児童生徒の「表現する力」を伸ばすためのツールとして活用した事例が相次いだ。学習指導要領が提唱する「主体的・対話的で深い学び」「アクティブラーニング」に資する存在として、NIEが存在感を高めている様子がうかがえた。指定校の先駆的な試みが、他校にも広がってほしい。 静岡市立清水飯田中では、昼の校内放送で当日の新聞記事を紹介し、読者欄への投稿にも取り組んだ。投
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社説(2月24日)苦境のウクライナ 支援継続へ連帯強化を
ロシアがウクライナへの侵略戦争を開始してから24日で2年となる。戦線は膠着[こうちゃく]気味だとはいえ、兵力と装備で勝るロシア軍が攻勢を続ける。米欧諸国の軍事支援が先細り状態のウクライナ軍はじりじりと押されている印象だ。 ロシアは侵略したウクライナ東部と南部の4州併合を一方的に宣言し、さらに拡大しようとしている。ロシアが領土の強奪を諦めない限り、戦争の終わりは見えない。それまではウクライナを支援する必要がある。野蛮な侵略行為を容認してはならない。 一方で大統領選を控えた米国では野党共和党の反対で支援が滞る。NATO(北大西洋条約機構)加盟国もまだら模様だ。もともとロシアと国境を接する東欧
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社説(2月23日)政倫審開催へ 公開の場で説明責任を
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件の実態解明のため、野党が求めた衆院政治倫理審査会が開催される見通しだ。野党は派閥から資金還流を受けた衆院議員51人の出席を求めたが、自民は各議員に判断を任せ、与野党間の駆け引きが続いていた。安倍派座長を務めた塩谷立元文部科学相(衆院比例東海)ら同派幹部4人と二階派事務総長の武田良太元総務相が政倫審の開催を申し出たため、自民、立憲民主両党が28、29日の開催で大筋合意した。 自民は政治資金収支報告書への不記載があった91人に聞き取り調査を行い、結果を公表した。違法な使途はなかったと結論づけたが、回答は匿名の上、使途は項目のみで証拠が示されていないな
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社説(2月22日)ウクライナ復興 日本は息の長い支援を
ロシアによる侵攻開始から間もなく2年。ウクライナでは依然として激しい戦闘が続く中、官民一体で復旧や復興への支援策を話し合う「日ウクライナ経済復興推進会議」が東京都内で開かれた。 力による一方的な現状変更を許容しないという立場で日本は、自由と独立を守るために戦うウクライナを支援してきた。しかし、柱となるのは財政支援などで、日本は米欧諸国のように武器弾薬の供与を行うことはできない。 戦争をしている以上、戦うための武器弾薬は不可欠だ。一方で財政や経済が破綻しても国家を保てない。武器弾薬は供与しなくとも経済社会活動の維持を図る民生支援の必要性がある。岸田文雄首相が会議で表明したように、そこに「日
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社説(2月21日)政治資金と連座制 首相は導入を決断せよ
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治団体の会計責任者が政治資金規正法違反で有罪になると議員も連帯責任を負う「連座制」の導入を巡り、国会で議論が交わされている。野党だけでなく与党の公明党も連座制の導入を訴える。自民党内からも賛同する声が上がる。岸田文雄首相は今国会で規正法改正を実現すると明言したものの、連座制導入には慎重な姿勢を崩していない。 自民党の調査によると、2022年までの5年間で政治資金収支報告書に不記載があった国会議員らは91人で、裏金と指摘されるパーティー券売り上げの資金還流を認識していた議員は32人に上る。国民の政治への不信感は過去になく高まっている。 再発防
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社説(2月20日)H3打ち上げ成功 信頼性と経済性 向上を
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げた国産新型ロケット「H3」2号機は、計画通り飛行して目標軌道に乗り、性能確認用の模擬衛星と小型衛星2機の分離も確認された。 H3は昨年3月、1号機が打ち上げられたが、2段目エンジンに着火できずに失敗した。約1年をかけ、失敗要因とみられる着火装置とその周辺を見直して再挑戦にこぎつけた。まずは初のH3打ち上げ成功を喜びたい。 しかし、2号機はまだ試験機に過ぎない。ようやくスタートラインに立つことができたといえよう。衛星打ち上げを巡る国際競争が激しくなる中、停滞するわけにはいかない。今回の飛行データを詳細に分析し、改善
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社説(2月19日)外国人「育成就労」 共生社会へ道筋確かに
外国人労働者の受け入れを巡り、政府は技能実習制度に代わる新たな仕組みとして「育成就労制度」を創設する方針を決定した。技能実習で原則認められない本人の意向による職場の「転籍」を、同じ業種であればできるようにするのが大きな柱だ。また熟練技能を要する特定技能制度への移行を促し、長期就労を可能にすると強調する。近く入管難民法などの改正案を国会に提出する。 技能実習が国際貢献と技術の移転をうたったのに対し、育成就労は人手不足を背景に人材確保が目的と明言した。長時間労働などで国内外から人権侵害だと批判された技能実習の反省を生かせるよう、受け入れ企業も地方自治体も頭を切り替える必要がある。 新制度では
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社説(2月18日)GDP4位に転落 成長力強化へ改革急げ
日本の2023年の名目国内総生産(GDP)が、ドイツに抜かれて世界第4位に転落した。日本は高度成長期の1968年に、当時の主要指標だった国民総生産(GNP)で統一前の西ドイツを抜いて世界2位の経済大国になった。現在のドイツの人口は日本の7割に満たない。10年前の日独のGDPは人口比と大差なかったが、日本経済の停滞が長引き、最近の円安やドイツの物価高も影響して約半世紀ぶりに順位が逆転した。 日本は2010年、台頭する中国にGDPで抜かれて3位になった。国際通貨基金(IMF)は、26年にインドにも追い越されて5位に後退すると予測する。経済規模を背景にした日本の影響力の低下は必至だ。ただ、重要な
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社説(2月17日)自民裏金聞き取り これで幕引きは許さぬ
自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る内部調査の結果を明らかにした。政治資金収支報告書に不記載があった議員ら91人に聞き取りを行った結果、パーティー券売り上げの資金還流を認識していた議員らは32人に上り、うち11人は不記載も認識していた。総額は約5億8千万円だった。 肝心の安倍派の裏金づくりの時期や動機の解明は「判然としない」とするにとどまった。調査は匿名で、使途の領収書が不明なケースもあった。客観性を確保するため外部弁護士を介在させたが、真相を明らかにするには程遠く、自前調査の限界を露呈したと言わざるを得ない。 これで幕引きとするのは許されず、自民は第三者の手を借りて調査を継続
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社説(2月16日)続く人口流出 「住んでよし」の実感を
総務省が公表した2023年の人口移動報告によると、東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が6万8285人を数え、22年の80%増になった。新型コロナウイルス感染症が拡大していた21年は超過数が5千人台にまで落ちていたが、東京一極集中が再び加速した。 一方で、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)と大阪、福岡などを除く40道府県では転出が転入を上回る「転出超過」となった。静岡県も6154人の転出超過。超過数は22年の3割増で、都道府県で多い方から7番目となる。 政府は長年、少子化対策に取り組んできたが、出生数の減少は止まらない。こうした自然減に加えて地方では進学や就職などで若者が流出する社
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社説(2月15日)指定管理獣にクマ 人と共存できる環境を
全国で人がクマに襲われる被害が相次いだことを受け、環境省の専門家検討会は、捕獲を国が支援する「指定管理鳥獣」にクマを追加する対策方針案を決めた。決定を受け伊藤信太郎環境相は今年4月にも追加すると表明した。 対象となるのは北海道のヒグマと本州のツキノワグマ。絶滅の恐れが高い四国のツキノワグマは除く。専門家検討会は指定方針を決めた一方、行き過ぎがないように時期や手法を限定して捕獲数を管理するとし、捕獲に偏らない姿勢を強調した。 人の安全を確保することが最優先だが、クマの個体数を管理して保全することも極めて大切だ。人とクマのすみ分けをはっきりさせ、共存できる環境を整えていきたい。 まずは基礎
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社説(2月14日)24年度県予算案 「選ばれる県」へ総力を
静岡県が発表した2024年度当初予算案は「能登半島地震を教訓とした地震対応」「イノベーション」「子ども・子育て」「スポーツの総合産業化」を柱に掲げた。本県は少子高齢化と人口流出に歯止めがかからず、地域の活力を将来にわたって維持するのが難しい状況だ。人口減少社会への対応に向け、暮らしの不安を解消すると同時に、戦略的に人を呼び込む「選ばれる県」になるための施策で成果を上げなければならない。予算案は一定の手当てをしたが、その効果を測りつつ、さらなる工夫と拡充が必要だ。 予算案の柱のうち、子ども・子育てには総額922億円を充てた。中小企業で働く男性への育児休業支援金を国に先駆けて実施し、保険適用外
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社説(2月12日)介護報酬改定 訪問サービスなぜ減額
2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題とした。 事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービス提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。 ただ今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスは引き下げられる点だ。 訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスである。家族にとっても、訪問介護を
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社説(2月11日)足湯で被災地支援 心のケアも欠かせない
能登半島地震の被災者の心身を癒やすため、静岡県ボランティア協会(県ボラ協)は、石川県穴水町に災害ボランティアの活動拠点を開設し、避難所や仮設住宅で足湯を提供する。被災者の言葉にも耳を傾け、困りごとや要望があれば、石川県や穴水町、現地の関係者に伝える。 住み慣れた家屋を失い、生活が一変した被災者の絶望感や悲しみ、不安は計り知れない。ひとときでも緊張を解きほぐし、心のケアにつながる支援は欠かせない。 県ボラ協には経験の蓄積がある。2011年の東日本大震災、16年の熊本地震、18年の西日本豪雨などでも被災地に拠点を設けて足湯サービスを行い、被災者に喜ばれた。 活動拠点を構える穴水町は静岡県の
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社説(2月10日)攻勢強める立民 政権担当能力示せるか
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件は国民の政治不信を増幅させた。岸田文雄内閣の支持率は危険水域とされる30%を割り込んで低迷し、通常国会で立憲民主党など野党が攻勢を強める。岸田首相を含む自民幹部や事件に関与した派閥関係者の責任を明確にし、思い切った再発防止策を講じない限り、信頼回復は難しいだろう。 岸田首相や自民がこのまま政権を担っていいのか、有権者の間に疑念が生じているのは間違いないが、一方で次の衆院選に向けては、野党側に政権担当能力があるのかも問われている。野党第1党の立民は都内で開いた党大会で「政権交代を成し遂げて政治・経済・社会のありようを抜本的に立て直す」とした2024
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社説(2月9日)ライドシェア解禁 利用者の安全最優先に
自家用車を使い、一般のドライバーが有料で客を送迎する「日本版」ライドシェアが4月から部分解禁される。政府がタクシー会社の管理下で地域などを限定して認める方針を示した。安全を最優先に、乗客の利便性向上を探ってもらいたい。 全面解禁については議論を続け、6月までに方針を決める。それまではタクシー会社が一般ドライバーと雇用契約を結ぶなどし、車両整備や運送の責任もタクシー会社が負う形とする。 ライドシェアは米国など海外で人々の足として定着しているのに対し、日本ではなじみがまだ薄い。安全面に不安が残る中で、政府が拙速な全面解禁を見送ったのは妥当と言えよう。全面的な運用には、慎重に制度設計を進める必
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社説(2月8日)生活再建支援 被災地で生きる希望に
通常国会で能登半島地震被災地の復旧復興に向けた本格的な議論が始まった。 震源に近く被害が集中した石川県の能登半島北部は、地震発生から5週間を経過しても応急対応で精いっぱいの状況だ。さらに半島北部のように過疎化と高齢化が進んだ地域では震災後の将来像が見通せない。政府と国会には、前例にとらわれず、被災者がこれからも地元で生きようと希望を持てる支援を求めたい。 能登地震では、石川県で関連死も含めて241人が犠牲になり、10人以上の安否が不明のままだ。住宅被害は県全体で5万7千棟以上。半島北部6市町だけでも3万9千棟以上になり、被害程度が明らかでない市町もあるが、全壊は5千棟を超えた。ほかに新潟
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社説(2月7日)米軍の報復攻撃 中東の緊張感高めるな
ヨルダンの米軍施設で米兵3人が死亡した無人機攻撃への報復措置として、米軍はイラクとシリアの親イラン武装勢力やイラン革命防衛隊で対外工作を担う「コッズ部隊」の拠点を空爆した。 無人機攻撃が親イラン武装勢力の連合体「イラクのイスラム抵抗運動」によるとみられるためだ。しかし、報復が報復を招いて戦闘が激化すれば、中東全域の緊張感を高めて一層不安定化する恐れがある。戦火をこれ以上拡大させないよう、米側とイラン側の双方に自制を求めたい。 米軍は125発以上の精密誘導弾などを使って、七つの施設で85以上の標的を攻撃した。イラク首相府やシリア人権監視団によると、民兵だけでなく民間人も含めて計45人が死亡
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社説(2月6日)コロナとインフル 同時流行の拡大を防げ
静岡県内で新型コロナウイルスの患者が増加して基準を超えたため、県が「感染拡大警報」を発令した。昨年9月29日に警報を解除して以来、約4カ月ぶりの発令。やっかいなのは、本年度当初からインフルエンザが異例の通年流行の状態にあり、昨年11月末に警報が発令されたままになっているため、新型コロナと「同時流行」になったことだ。両方の警報が同時期に重複したのは今回が初で、県は感染対策を呼びかけている。 新型コロナの感染症法上の位置付けが、昨年5月に2類からインフルと同じ5類に移行し、コロナ禍で課せられていたさまざまな制約が解除された。重症化する患者が少なくなり、感染予防の意識が低下して対策が講じられなく
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社説(2月5日)落日の最大派閥 まず説明責任を果たせ
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて、安倍、二階、岸田、森山の4派閥が解散を決めた。残る麻生派と茂木派は政策集団として存続する方針。 最大派閥の安倍派(清和政策研究会)が議員総会で活動停止を決めた際、塩谷立座長(衆院比例東海)は「歴史ある清和研を閉じなければならないのは断腸の思い」と述べたが、その責任には言及しなかった。派閥の実力者「5人組」を含めた幹部にしっかり「けじめ」を求める声は党内にあるが、今のところ誰もそのつもりはないらしい。 しかも幹部は肝心なことには口が重いまま。一方で裏金事件に関わった所属議員の説明責任も欠かせないはずだ。事件の全容解明への協力もすべきだ。責任を
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社説(2月4日)「農政の憲法」改正 自治体の力量問われる
岸田文雄首相は施政方針演説で、食料・農業・農村基本法の本格的改正案を今国会に提出すると明言した。「農政の基本は地方の現場にある」と述べたが、「現場」は気候も水利、土壌、そして担い手も千差万別だ。「農政の憲法」改正で地方自治体は農政の力量を問われることになる。 補助金や交付金がもらえるからやろう、なくなったらやめようという発想は通用しない。その公金が持続可能な食と農に資するか、地域経済成長の呼び水になるかを議論し、必要ならば補助対象や補助金の横出し、上乗せも検討してほしい。県、市町の2024年度予算案審議で、議会にはこの点からも厳しいチェックを求めたい。 昨年末に発表された22年の静岡県の
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社説(2月3日)裁判記録の保存 「国民の財産」を念頭に
1997年の神戸連続児童殺傷事件など、重大少年事件の裁判記録が事実上の永久保存に当たる「特別保存」とされずに廃棄されていた問題で、最高裁は記録を歴史的、社会的意義を持つ「国民共有の財産」とする理念規定を盛り込んだ新たな規則などを制定、施行した。この理念を常に念頭に置き、厳格な運用で記録の適切な保存に努めなくてはならない。 一連の問題を受け、昨年5月に公表した調査報告書に基づく防止策で、裁判所に対する特別保存の要望は誰でも可能とした。少年事件や民事事件の記録を廃棄する場合のプロセスに関しては各裁判所の所長の関与を明確化し、所長の認可を必ず受ける手続きを踏むよう従来の運用から改めた。特別保存の
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社説(2月2日)ミャンマーと日本 和平へ積極的に関与を
ミャンマーの国軍がクーデターで権力を掌握して1日で3年になった。国軍と抵抗勢力の戦闘によって、多くの市民が犠牲となり、住む場所を追われた。国連によると、昨年10月下旬に始まった国軍と少数民族武装勢力の大規模な衝突で少なくとも市民75人が死亡し、28万人以上が避難を余儀なくされた。 民主派リーダーのアウンサンスーチー氏率いる政党が圧勝した2020年総選挙の結果を無視して権力を力ずくで奪った軍事政権を国際社会は承認していない。東京で昨年12月に開催された日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の交流開始50年記念特別首脳会談にも加盟国ミャンマーの首脳の姿はなかった。 特別首脳会談は日本とASE
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社説(2月1日)能登地震1カ月 「日常」の回復を早期に
最大震度7を観測した能登半島地震から1日で1カ月。被害が大きかった石川県では死者が238人、安否不明者も19人を数える。停電はおおむね解消したが、4万戸以上で断水が続き、1万4千人以上が避難生活を続ける。 山地が多い半島地形で道路事情がよくないところに、土砂崩れや地盤の隆起・陥没が交通網を寸断した。海岸の隆起や津波によって海上輸送も困難になった。水道や電気、通信が断たれ、テレビも停波した。被害情報の収集が一向に進まず、外部からの救命救助も困難を極めたことは、同様な地形が多い全国にも共通する課題だといえる。 依然として被害の全容が把握できていない。ただ、被災地では仮設住宅の建設が始まった。
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社説(1月31日)首相施政方針演説 信頼回復へ 改革確実に
自民党派閥のパーティー券裏金事件を受け、「政治とカネ」問題が最大のテーマとなるといわれる通常国会が開幕した。まず29日に衆参両院で予算委員会を開いて事件をめぐる集中審議を行い、それに続いてきのう、岸田文雄首相が施政方針演説をするという異例の幕開けとなった。 演説の中で首相は党の政治刷新本部が示した「中間取りまとめ」の改革内容を説明。それを踏まえ「政治の信頼回復に向けて私自身が先頭に立って必ず実行する」と表明した。さらに「政治改革に終わりはなく、さらなる改革努力を継続する」と約束した。 しかし、派閥を事実上容認した中間とりまとめは生ぬるいと指摘され、前日の予算委集中審議でも首相の煮え切らな
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社説(1月30日)春闘スタート 中小も先見て賃上げを
春闘交渉がスタートした。物価上昇を乗り越え、長年の賃金停滞から本格的に転換する分かれ道になる。経営者は、日本経済を再浮揚させる覚悟を示さねばならない。 ただ、首都圏の大企業の賃上げが目立ちすぎると若い人材が流出し地方経済が痛手を被る懸念がある。地方中小も人材確保など先を見通して賃上げに踏み切ってほしい。 経団連は今年の春闘の指針で、「社会性の視座」に立脚した判断を各企業に求めた。企業業績や株主への利益配分を優先してきた姿勢を改め、持続的な賃上げに転換する時期を迎えている。 連合によると、昨年の春闘の賃上げ率は3・58%と高水準だったが物価上昇には追い付かず、実質賃金は低迷。暮らしを好転
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社説(1月29日)共産委員長が交代 党勢後退 問われる手腕
共産党の第29回党大会が熱海市内で開かれ、歴代最長の23年にわたって委員長を務めた志位和夫氏が退任し、後任に田村智子氏が就く人事を決めた。女性の委員長就任は初。世代交代と女性の活躍を印象付ける人事と言えよう。党員の減少や高齢化、党財政を支える機関誌「しんぶん赤旗」の購読者減など党勢の後退が指摘されている。この難局を打開することができるのか、新委員長の手腕が問われる。 派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、自民党が国民の批判にさらされ、最近の世論調査では岸田文雄内閣も自民も支持率を著しく下げている。ところが、自民には「政権を失うかもしれない」との危機感が薄い。「自民が鈍感だから」とばかり
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社説(1月28日)地震と原発 非常時対応に万全期せ
能登半島地震で最大震度7を観測した石川県志賀町内にある北陸電力志賀原発(停止中)に大きな被害はなかったが、一部の設備が故障するなどのトラブルがあった。能登半島では地震で道路が寸断されて通信も途絶した場所もあった。このような地域で複合災害が起きた場合の住民保護に課題を残したといえる。 志賀原発は沸騰水型原子炉(BWR)を2基備える。観測された揺れは1号機地下で震度5強だったが、一部の周期で加速度が設計時の想定を上回ったという。原発の安全性に影響はなかったとされるが、「想定外」の事象はなくしておくべきだ。 地震の震源域は長さ150キロを超え、複数の断層が連動したとみられる。政府の地震調査研究
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社説(1月27日)自民政治改革案 生ぬるく覚悟見えない
自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治刷新本部で取りまとめた党改革中間報告を了承した。裏金づくりの温床になった派閥の全廃に踏み込まず「政策集団」としての存続を容認するなど生ぬるく、国民の不信払拭に向けた覚悟が十分にうかがえない内容にとどまった。 そもそも、派閥のあり方以前に、裏金づくりの経緯や裏金の使途など、実態についての詳細が明らかになっていない。中間報告には「明確な説明責任に加え、政治責任のあり方についても結論を得ていく」と明記している。関係者それぞれに責任を果たさせることこそ、党総裁である岸田文雄首相の役割だ。 中間報告は原案にあった「派閥の解消」を本文に入れず、見出
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社説(1月26日)京アニ死刑判決 惨劇の検証を続けねば
36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)に対し、京都地裁は死刑判決を言い渡した。 結果は重大で身勝手な犯行というほかはない。被告の責任は問われるべきだが、それだけに帰結させるのではなく、同様の加害者や被害者を生まないために、この惨劇を今後も検証していかなければならない。 公判で青葉被告は起訴内容を認めた上で、父親から度重なる虐待を受けたことなどに触れながら、京アニの小説コンクールに落選して、小説のアイデアを盗用されたことが動機だと説明した。落選や盗用は「闇の人物」の意向とするなど、妄想を
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社説(1月25日)能登津波の教訓 「揺れたら避難」徹底を
最大震度7を記録した能登半島地震で発生した津波の様子や被害が徐々に分かってきた。襲来は地震発生直後だった。震源が近い場合、津波浸水想定区域では警報の発表を待つことなく、大きな揺れがあったらすぐ高台に避難することを徹底しておきたい。 国土交通省によると、石川県では珠洲市と能登町、志賀町で、合計約190ヘクタールの浸水を確認し、珠洲市の最大の浸水深は約4メートルとみられる。新潟県でも上越市で約4ヘクタールの浸水を確認し、浸水深は大きくて1メートル程度と推定された。石川県が公表した犠牲者の死因では、珠洲市で2人が津波で亡くなっている。 地震発生後すぐに、3メートルを超える津波が想定される「大津
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社説(1月24日)有形文化財の継承 官民一体で取り組みを
全国には国や都道府県、市町村の指定文化財が多数存在する。ところが、近年はこうした文化財の所在が不明となった事例が相次ぐ。所有者の適正な管理と同時に、自治体による文化財の所在確認の強化が必要だ。「地域の宝」の継承に官民一体で取り組まなくてはならない。 共同通信の調査によると、2023年1月1日時点で都道府県が文化財指定した絵画、工芸品、古文書などの「美術工芸品」1万1千件余りのうち、31都県の151件が所在不明だった。刀剣、絵画が主体で、3分の2は個人や社寺が所有している。 静岡県は所在不明21件のほとんどが刀剣で、1950~60年代の指定が多い。1件は長野市に現存することが後に判明し、昨
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社説(1月23日)月探査機着陸成功 精度と信頼性の向上を
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は小型探査機「SLIM(スリム)」が月面へ着陸したと発表した。月面着陸は日本初。世界でも旧ソ連、米国、中国、インドに続く5カ国目となる快挙で、日本の技術力の高さを示した。 一方で着陸後は太陽電池での発電ができなくなり、バッテリーの電源も切れた。電力が回復しないと着陸後に計画されていた月面の調査などに支障が出るとみられている。そのためか着陸直後に予定されていた記者会見が遅れ、会見に臨んだJAXA幹部の表情も硬かった。 とはいえ、日本の宇宙開発が新たな一歩を踏み出したのは間違いない。月面着陸を弾みとして、目指している高精度の着陸技術の確立を目指したい。加えて無
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社説(1月22日)離婚後の共同親権 DV対応に万全を期せ
政府は離婚した父母のどちらか一方が親権を行使する単独親権のみを認める現行法を見直し、父母双方が合意できた場合は「共同親権」を可能にする民法改正案を、26日召集の通常国会に提出する方向で調整に入った。共同親権を巡っては、ドメスティックバイオレンス(DV)が続きかねないと懸念する声がある。子どもにとって最善の環境を築くという原点を確認しながら、慎重に議論を進めなければならない。 法相の諮問機関・法制審議会でまとまった改正要綱案の原案では、父母が合意できなければ家裁が共同か単独かを判断する。離婚に際し共同親権を選ぶと、進学や就職、医療など子の今後に多大な影響を及ぼす事柄について、子と暮らす同居親
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社説(1月21日)再審法改正 県内国会議員が先頭に
えん罪を訴える人の刑事裁判のやり直し(再審)手続きに長い年月を要する現状を改めるため、日本弁護士連合会(日弁連)が求めている刑事訴訟法の再審規定(再審法)の改正は、国会議員の多くが賛同しなければ実現しない。しかし、静岡新聞社が全国会議員を対象にしたアンケートの低い回答率をみる限り、不備が指摘される再審制度への問題意識は議員間で広がっていないのは明らかだ。 アンケートは現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(87)の再審開始も踏まえて実施した。回答者は国会議員711人のうち187人で、回答率は26・3%。法改正の鍵を握る与党の自民は2
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社説(1月20日)自民3派閥解散へ 政治不信は払拭されぬ
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受け、岸田文雄首相(党総裁)は出身派閥の岸田派(宏池会)を解散する意向を表明した。裏金づくりへの組織的関与が明らかになった安倍派(清和政策研究会)だけでなく、岸田派でも政治資金規正法違反の罪で元会計責任者が東京地検特捜部に略式起訴される事態に至ったことを踏まえた対応とみられる。 同様に安倍派の塩谷立座長(衆院比例東海)と、元会計責任者が在宅起訴された二階派(志帥会)の二階俊博会長(元党幹事長)も、それぞれ記者会見で派閥の解散を表明した。 関係者の刑事処分は一つの節目だが、最大の焦点だった安倍派実力者の「5人組」を含む同派幹部は、会計責任者との
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社説(1月19日)能登の中学生避難 丁寧な心のケア不可欠
能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県輪島市の中学生258人が約100キロ南にある同県白山市の宿泊研修施設に集団避難した。被災した子どもの学習機会を確保するため。県や輪島市は避難期間を約2カ月と想定している。 現在も輪島市や珠洲市など奥能登を中心に断水や停電が続き、依然として生活再建のめどは立たない。学校も避難所になって授業を再開できない。その中で一時的であっても、親と別れて自宅を離れる子ども、その子どもを送り出す親、いずれも不安でいっぱいになっているだろう。 厳しい環境の中でもプラスとなる体験はあるはずだと考えて前向きに受け止めてほしい。一方で自宅とは異なりプライバシーのない共同生活が
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社説(1月18日)自民の刷新本部 本気度が全く見えない
派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、自民党は岸田文雄総裁(首相)の直属機関として新設した「政治刷新本部」で、派閥解消の是非や政治資金の透明性拡大、再発防止を議論し、月内に中間とりまとめを行うとしている。 首相は「党自らが変わらなければならない」と決意を示すが、どのように変えたいのかという具体性を欠き、首相の言葉からは「政治とカネ」の問題に向き合う本気度が全く感じられない。党所属議員全員から意見を聴く会合も開いたが、伝わってくるのは再発防止策を検討する姿勢を見せることで批判をかわしたいとの思惑だけだ。 そもそも、党や派閥が政治資金パーティーの実態を詳細に明らかにすることや、疑惑を持たれ
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社説(1月17日)阪神大震災29年 耐震化促進 対策徹底を
2階建ての住宅は1階部分が潰れた状態に、平屋建ての住宅は瓦屋根のみに―。最大震度7の激震に襲われた能登半島地震の被災地では、古い木造住宅の倒壊が相次いだ。 地震が発生してから2週間を経て、犠牲者は220人を超えた。多くが住宅倒壊の犠牲になった可能性がある。安らぎの場である自宅が倒壊して命を失うことは絶対にあってほしくない。改めて住宅耐震化の重要性を認識したい。 住宅倒壊とそれによる犠牲者の数が際立ったのが、17日で29年となる阪神大震災だ。最大震度7の揺れで兵庫県南部を中心にして甚大な被害が出た。犠牲者の約8割は住宅倒壊などによる圧死や窒息死だったという報告もある。 内閣府資料によると
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社説(1月16日日)介護保険負担拡大 持続性高める議論必要
介護保険制度の見直しで、サービス利用時の自己負担が2割となる人の対象拡大の判断は昨年末、先送りとなり、2024年度導入が見送られることになった。もう一つの論点の所得が高い65歳以上の保険料引き上げは、24年度から年間所得420万円以上の高齢者を対象に実施される。所得の低い人は軽減される。 一方、介護報酬を巡る議論は人材確保の必要や事業者の運営コスト増を考慮し1・59%増で決着した。24年度予算編成で同時に見直された診療報酬本体の上げ幅を上回る。 表裏一体であるべき給付と負担のバランスにゆがみが生じている。国民がちぐはぐな感じを持つようでは保険制度への信頼が損なわれる。 介護保険制度は3
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社説(1月15日)台湾総統選と日本 平和維持へ役割果たせ
台湾の有権者は13日投開票が行われた総統選で、中国との統一を明確に拒否し、対米重視の姿勢を取る民主進歩党(民進党)政権の継続を選んだ。現副総統の頼清徳氏が最大野党、国民党の侯友宜氏(新北市長)、2019年に創設された台湾民衆党の柯文哲氏(前台北市長)との三つどもえの選挙戦を制した。 「台湾統一」を目指して軍事、経済などさまざま分野で圧力を強める中国にどう対峙[たいじ]するか。難しい命題を背負う台湾の人々の選択を尊重したい。日本は台湾との友好を維持、発展させ、中国が武力での台湾統一に走ることがないよう国際社会と共に最大限の努力を払うほかに道はない。頼政権と連携を強化し、民進党を「独立勢力」と
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社説(1月14日)熱海富士と翠富士 三役昇進に期待膨らむ
静岡県出身力士が大相撲の年6場所のうち3場所で幕内優勝争いを繰り広げると1年前、誰が想像しただろうか。昨年3月の春場所で翠富士(焼津市出身)が終盤まで先頭を走り、9月の秋場所と11月の九州場所では熱海富士(熱海市出身)が千秋楽まで賜杯獲得を競った。14日に初日を迎える初場所は2人とも前頭上位に名を連ねる。さらなる躍進を期待したい。 2人の師匠である元横綱旭富士の伊勢ケ浜親方は厳しい指導で知られる。熱海富士の2場所連続の快進撃は勢いだけでなく、角界屈指の稽古量のたまものである。幕内最年少の21歳は人気も急上昇で今や看板力士の一人。186センチ、181キロの逸材は将来の横綱候補と評されるように
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社説(1月13日)能登地震と避難 「関連死」防止に全力を
最大震度7を観測した能登半島地震が発生してから2週間が近づいている。石川県内で確認された死者は200人を超えて、地震による「直接死」として、平成以後では東日本大震災(2011年)、阪神大震災(1995年)に次ぐ犠牲者数となった。 依然として被害の全容が把握できず、孤立状態のままの集落もある。救援物資が十分に行き届かず、水や食料、燃料などが不足する地域もあり、厳冬期の被災地で住民の健康状態が心配されている。避難所では感染症の発生も始まったという。政府をはじめ関係機関は被災地の救援に全力を挙げてもらいたい。 避難先で体調を崩して亡くなる「災害関連死」も生じている。地震を生き抜いた命をその後の
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社説(1月12日)観光立県 需要捉え地域資源磨け【2024しずおか 変革の一歩】
新型コロナウイルス禍が一段落し、国内の観光需要が回復しつつある。観光庁の宿泊旅行統計調査(速報値)によると、国内の旅館・ホテルの延べ宿泊者数は、昨年10月が5378万人で2019年同月のコロナ禍前と比べて7・4%増え、11月も5356万人で7・9%増だった。日本人と外国人ともに堅調で、特に外国人は10月が1226万人(19年同月比19・5%増)、11月が1160万人(同28・0%増)と顕著だ。 静岡県内の観光事業者によると、本県の宿泊者数はコロナ禍前の水準にほぼ戻りつつあるという。昨年10月の延べ宿泊者数は170万6千人(同0・4%増、同庁まとめ)だった。 ただ、日本人の宿泊が伸びた一方
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社説(1月11日)食料と農業、農村 新基本法で安定化図れ【2024しずおか 変革の一歩】
新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争で食料安全保障への関心が高まった。一方、農家は高齢化し耕作放棄地が増え、日本の食と農は持続可能とは言い切れない状況にある。政府は食料・農業・農村基本法の抜本的改正案を通常国会に提出する。2024年は食と農の節目の年になる。地方こそ、その現場である。 地方自治体やJAなど関係団体、規模の大小を問わず農家各戸に至るまで、「農政の憲法」を更新する必要性を理解し、千差万別の生産現場で新時代に踏み出してほしい。消費者も価格転嫁に理解を深め、「国消国産」の呼びかけにこたえたい。 相次ぐ気象災害や格差拡大による貧困問題もあり、農業の持続可能性や食料の安定確保に関心が
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社説(1月10日)脱炭素社会 地方も積極的に挑戦を【2024しずおか 変革の一歩】
2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする―。政府が掲げた「カーボンニュートラル」の国際公約は実現できるのだろうか。デッドラインがじりじりと迫る中、世界共通の課題に向き合い、地方の都市、中小企業からも持続可能な未来をつくる取り組みを加速させていかなければならない。 地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」により、世界各国が温室効果ガスの排出削減目標を掲げて国内対策に取り組んでいる。 日本は国際社会と足並みをそろえる形で、30年代半ばをめどにガソリン車の新車販売ゼロを目指して、全ての車を電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)といった電動車に転換していく目標を打ち出した。 自動
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社説(1月9日)Jリーグ開催移行 世界基準への転換点に【2024しずおか 変革の一歩】
サッカーのJリーグは、開幕時期を現行の2月から8月に変更するシーズン移行を決めた。2026~27年から実施する。欧州主要リーグと時期を合わせることで、若手有望選手の海外移籍は進むだろう。世界と戦うことを視野に入れたJリーグの大きな転換点となることを期待したい。 移行については、00年以降何度も議論されてきたが、実現に至らなかった。冬場の試合開催で降雪地域を本拠地とするクラブなどの反対が多かった。昨年、議論が進んだのは、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)が秋開幕になり、5月閉幕へ日程が変更されたため。Jリーグからの参加クラブは、1次リーグ後に国内シーズンが終わる。そのため、決勝トーナメン
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社説(1月8日)教員の働き方改革 豊かな学びの大前提だ【2024しずおか 変革の一歩】
子どもたちには個性を発揮し、生き生きと学んでほしい。その大前提は、教員がやりがいを感じ、生き生きと教壇に立つことだ。教職は本来、成長に寄り添うことができる、魅力的な仕事であることは間違いない。だが、近年は過重労働などから「ブラック職場」とまで呼ばれる不人気な状況に陥っている。働き方改革を着実に進めなければならない。 都道府県や政令指定都市の教育委員会などが2022年度に実施した公立小学校の教員採用試験競争率は、全国平均で21年度より0・2ポイント低い2・3倍となり、5年連続で過去最低だった。中高や特別支援学校などを含めた教員全体でも3・4倍で最も低かった。現場では、業務多忙化で教職を敬遠す
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社説(1月7日)2024しずおか 変革の一歩 憲法改正 日程明示し議論喚起を
岸田文雄首相は今年9月までの自民党総裁任期中に憲法を改正するという目標を就任時から変えていない。だが、改憲を審議する衆参両院憲法審査会で改憲項目さえ絞り切れていない。任期中の改憲はどう考えても無理である。 衆参両院とも改憲勢力の議席が改憲発議に必要な3分の2を超えている。各種世論調査でも改憲を容認する回答が多数を占める。それでも積極的に改憲を推し進めようとしないのは、改憲は容認しても議論を急ぐ必要はないとの回答が目立つことも背景にあるのか。岸田首相は改憲機運の醸成が大切と強調している。 改憲は緊急を要しない。改憲に向けた日程の目安を設けないまま議論を続けても、改憲の機運だけでなく憲法への
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社説(1月6日)2024しずおか 変革の一歩 少子化と人口減少 ラストチャンス逃すな
「2030年までがラストチャンス」―。政府が昨年12月に閣議決定した「こども未来戦略」冒頭の「基本的考え方」で訴えた言葉だ。書き出しの「少子化は、我が国が直面する、最大の危機である」が示す通り、少子化は人口減少を加速させ、50年後には現在の7割にまで減少するという推計もある。高齢化の進展と相まって社会経済活動の衰退が懸念される。 昨年1月、岸田文雄首相は施政方針演説で「次元の異なる少子化対策を実現したい」と表明した。もはや従来政策の延長線上では対応できないという危機感と覚悟の表れだったと受け止めたい。具体化したのが未来戦略で、24年度から事業が本格化する。 ただし、それだけでは少子化を止
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社説(1月5日)2024しずおか 変革の一歩 停滞する県政 前向きの議論を尽くせ
国立社会保障・人口問題研究所が2023年12月に公表した50年の静岡県の将来推計人口は、20年と比べて約80万人減の282万人と厳しい試算結果を示した。現在の5分の1に相当する人口が減る計算である。少子高齢化と産業の退潮に手を打たねば本県の活力は確実に失われてしまう。住民に最も近い地方政治の劣化はあってはならず、県政に携わるリーダーは前向きな議論を尽くし、方策を示すべきである。 新型コロナウイルス禍は一段落したとはいえ、円安や国際情勢の変化による物価上昇が県民生活や企業活動を直撃した。人々の足元にはさまざまな課題が山積している。 悠長に構えている時間はないはずだが、23年の県政を振り返る
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社説(1月4日)2024しずおか 変革の一歩 県内経済 好循環実感あるものに
静岡県内の景気は緩やかながら回復している。ただ2024年も下振れ材料が目立つ。長引く物価高騰で家計に節約志向が強まれば、国内の景気を支えている個人消費が冷え込む恐れがある。加えて、海外経済の減速や人手不足に起因する供給制約も生じかねない。 このため、静岡県をはじめ国内の経済で賃上げが価格に反映されながら、物価も上昇していく好循環の持続性が問われる。地域企業は賃上げに必要な変革を重ね、本県景気の腰折れを避けるために力を尽くさねばならない。 県民の購買意欲が物価上昇にも衰えない環境づくりは経済立て直しに欠かせず、最優先課題である。企業経営者は規模や業種を問わず、労働分配率のさらなる引き上げに
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社説(1月3日)能登半島地震 被害把握し迅速救助を
新年が明けた1日午後4時10分ごろ、能登半島でマグニチュード(M)7・6の地震が発生し、石川県志賀町で最大震度7を観測した。気象庁は一時、同県能登に大津波警報を、北海道から九州まで日本海の広い範囲に警報や注意報を発表して津波への警戒を呼びかけた。 震度6強を観測した石川県輪島市などでは建物の倒壊が相次ぎ、大規模火災も発生した。県は2日午後3時半現在で48人の死亡を確認したと発表した。負傷者も広域にわたって多数に上るようだ。時間の経過に伴って徐々に被害が判明している。まずは被害状況の全容把握が必要だ。要員を投入して情報収集に全力を挙げなくてはならない。 合わせて人命最優先に救出と救助を急い
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社説(1月1日)2024しずおか 変革の一歩 年の始めに 内外の課題 着実に前へ
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げられ、行動制限が解除されて初の年明けを迎えた。長い間強いられた生活上の不便が徐々に解消され、多くの人と対面で交流するなど、以前の生活を取り戻しつつある人も多いだろう。コロナ禍で痛感させられた「ふだんの生活」のありがたみをかみしめつつ、だれもが夢や目標に向かって一歩前進できる年になってほしい。 ただ、新年にかける期待の大きさとは裏腹に、目の前には重く厳しい現実が横たわっている。国内では2023年末、自民党安倍派の政治資金パーティーを巡る裏金づくりの疑惑が岸田文雄政権を直撃し、国民の政治不信が著しく高まった。国
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社説(12月31日)化石燃料「脱却」へ 排出削減の加速不可欠
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた今年の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は、「化石燃料からの脱却」を進めるなどとした成果文書を採択して閉幕した。 具体性を欠くものの化石燃料頼みからのエネルギー転換の方向性を明確に打ち出したのは初めて。意義を高く評価する声もある。成果文書は世界の温室効果ガス排出量を2019年比で30年に43%減、35年に60%減とする必要があるとした。パリ協定が目指す「1・5度目標」実現へ猶予はないとされる中、各国がいかに排出削減を加速するかが問われている。 日本も25年までに35年目標を策定し、気候変動対策を強化することが求められる。一方
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社説(12月30日)捜査「違法」判決 刑事司法の正義どこに
通常の企業活動をしていた会社幹部3人がいわれない不正輸出容疑で逮捕され、長期間勾留された。うち1人は勾留中に進行胃がんが見つかったが、適切な医療を受けられずに亡くなった。およそあってはならないことで、刑事司法に対する国民の信頼を失墜させたといえるだろう。 外為法違反(無許可輸出)の罪に問われ初公判直前に起訴が取り消された機械メーカー、大川原化工機(横浜市)の社長らが起こした国家賠償請求訴訟の判決で、東京地裁は東京都(警視庁)と国(東京地検)に総額約1億6千万円の賠償を命じた。 捜査の違法性を認めるのは異例とされる。そもそも犯罪が成立しないのに事件をつくり上げ、「立件ありき」で強引に捜査を
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社説(12月29日)柿沢衆院議員逮捕 不祥事連鎖止まらない
ことし2人目の現職衆院議員の逮捕だ。しかも政治資金パーティーを巡る自民党安倍派の裏金事件の捜査が進んでいるさなか。国民の信頼を回復するどころか、不祥事の連鎖に歯止めがかからない。 2人は不祥事の疑惑が明るみに出た時点で離党したが、元は自民所属で政府の要職も務めた。党総裁でもある岸田文雄首相はこの事態をどう収拾するつもりなのか。生半可な対応では国民の怒りが増すだけだ。責任の明確化と再発防止の思い切った改革が不可欠だ。 東京地検特捜部が、4月の東京都江東区長選を巡る公職選挙法違反の容疑で、前法務副大臣の柿沢未途容疑者と秘書4人を逮捕した。区長選で支援した木村弥生前区長の当選のため、選挙運動の
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社説(12月28日)安倍派幹部聴取 国民の前に出て説明を
自民党安倍派の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、東京地検特捜部が同派トップの塩谷立座長(衆院比例東海)や萩生田光一前政調会長ら派閥幹部を任意聴取し、派閥から4千万円を超える還流(キックバック)を受けていた疑いのある池田佳隆氏(衆院比例東海)の議員会館事務所を家宅捜索した。議員の裏金づくりへの関与を明らかにできるかが焦点だ。特捜部は徹底した捜査で事実を解明しなくてはならない。 ただ、いまだに安倍派幹部や党総裁である岸田文雄首相から、事件について説明がないのはどういうことか。政治資金規正法違反の疑いをかけられた政権与党の派閥が説明責任を果たさず捜査の結果を待っていては、信頼回復などできようは
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社説(12月27日)東アジア文化都市 日程の再検討が必要だ
静岡県が韓国の全州市、中国の梅州、成都の両市と文化・芸術活動を通じて相互理解を深める1年間の国際交流事業「東アジア文化都市」が、12月末で終了する。県は、18日までに本県で行われた認証事業を966件、来場者数を896万人、経済効果は速報値で232億円とする。 だが、事業の意義や価値が県民に広く浸透していたとは言いがたい。事業数や来場者数には、中韓3都市との国際交流事業、「静岡国際オペラコンクール」「ふじのくに⇆せかい演劇祭」といった文化・芸術分野の催しのほかに、「浜松まつり」「大道芸ワールドカップ」に代表される観光色が強い既存のイベント、スポーツのイベントも含めている。こうした点が実体の見
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社説(12月26日)伊豆の水産物不漁 危機感共有して連携を
全国的に魚の水揚げが漸減する中、静岡県東部・伊豆で水揚げされる水産物の不漁が深刻だ。伊豆半島特産の伊勢エビやアワビ、キンメダイの漁獲量の減少が顕著で、回復の兆候は見られない。地元を支える主産業だけに観光や漁業、雇用など地域経済への打撃は必至。要因として海の環境の変化が挙げられ、地元の不安は増している。 県水産・海洋技術研究所伊豆分場(下田市)は、観測史上最長の期間で続く「黒潮大蛇行」による海水温上昇の可能性を指摘する。アワビの餌となっている海藻のカジメの生育悪化や磯焼けを引き起こしているほか、潮流が変化しそれに伴い産卵も影響を受けているとされる。しかし断定はできず、解決策もなかなか見つから
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社説(12月25日)教団被害の救済 国会、財産保全に責任を
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害救済に向けて、教団の解散命令が確定する前に財産が流出することを防ぐ特例法が、議員立法により先の臨時国会で成立した。 政府は東京地裁に解散命令を請求中。解散が確定すると宗教法人の清算手続きに移り被害者の財産被害への補償も行われる。財産が隠されたり移し替えられたりすると、補償の原資が減ってしまう。 法案は自民・公明・国民民主3党が提出。財産処分の監視を柱に、個別保全に向けて日本司法支援センター(法テラス)を通じた被害者の民事訴訟の支援強化なども盛り込んだ。一方で立憲民主党と日本維新の会が提出した法案は衆院で否決され、そこに盛り込まれた包括的な財産保全策
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社説(12月24日)新年度予算案 財政規律の強化不可欠
政府は一般会計の歳出総額が112兆717億円となる2024年度予算案を閣議決定した。税収は当初予算ベースで69兆6080億円と過去最大だが大幅に足りず、新規国債34兆9490億円を発行して不足分を補う。歳入の3割を借金が占める依存体質は変わらぬままで、財政はさらに悪化することになる。 歳出総額は23年度当初予算比2兆3095億円減で、前年度を下回るのは12年ぶり。しかし、過去最大の規模だった前年度に続き2年連続で110兆円を超えた。 新型コロナウイルス感染症対策が一段落し、過大計上と批判されてきた予備費は圧縮された。しかし、物価・賃上げ促進として新たに1兆円が計上される。災害など不測の事
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社説(12月23日)ダイハツ不正 悪質極まりない背信だ
ダイハツ工業は品質・安全の試験などに不正があり、全ての車の出荷を停止すると発表した。国土交通省も立ち入り検査を始めた。品質不正があったのは64車種に及び、トヨタ自動車など他メーカーのブランドで販売している車もある。取引先などを含め、影響の広がりは計り知れない。品質や安全の確認を現場任せにしてきた経営陣の無責任さと、開発の効率を過度に優先する姿勢は許しがたい。悪質極まりない背信行為だ。 親会社であるトヨタ自動車本体の統治も厳しく問われる。「現地現物[げんちげんぶつ]」を掲げ、高い品質と安全性を誇ってきたトヨタの信頼を大きく揺るがす深刻な事態であることは間違いない。 当初6車種とされたダイハ