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社説(1月23日)月探査機着陸成功 精度と信頼性の向上を

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は小型探査機「SLIM(スリム)」が月面へ着陸したと発表した。月面着陸は日本初。世界でも旧ソ連、米国、中国、インドに続く5カ国目となる快挙で、日本の技術力の高さを示した。
 一方で着陸後は太陽電池での発電ができなくなり、バッテリーの電源も切れた。電力が回復しないと着陸後に計画されていた月面の調査などに支障が出るとみられている。そのためか着陸直後に予定されていた記者会見が遅れ、会見に臨んだJAXA幹部の表情も硬かった。
 とはいえ、日本の宇宙開発が新たな一歩を踏み出したのは間違いない。月面着陸を弾みとして、目指している高精度の着陸技術の確立を目指したい。加えて無人探査能力も高めることで、宇宙での活動領域を広げていきたい。
 地球の約6分の1とされる重力がある月への着陸は機体制御が難しく、探査機「はやぶさ2」が試料の回収に成功したような小惑星「りゅうぐう」とは大きく異なる。いったん降下を始めると噴射で燃料を消費していくためやり直しができない。
 また、スリムは上空からの画像から自分の位置を割り出す航法技術と自律的な誘導制御技術を使って、狙った場所から100メートル以内に降りるという「ピンポイント着陸」を目指した。岩など障害物がある場所は自ら避ける。
 そのために高速な情報処理ができる計算手法も導入したという。従来の月着陸精度は数キロ~十数キロで、高精度な着陸ができたとすれば世界初となる。こちらの成否は1カ月ほどかけて分析する予定。
 スリムの着陸場所は赤道南側の「神酒[みき]の海」にあるクレーター付近。1本の主脚で接地した後、斜面に向かって倒れ込むような形で補助脚を接地させる「2段階着陸」で降りた。発電できないのは、太陽電池パネルのある面が太陽光を受けられない姿勢になっているためとみられる。
 月探査は1950年代から70年代にかけて旧ソ連と米国が探査競争を繰り広げたが、いったん途絶えた。しかし、その後の探査で月の南極に氷が存在する可能性が示されたことで再び注目された。氷から水が調達できれば人類の滞在拠点となり、さらには月を足がかりにして火星を目指すことも現実性を帯びてくる。
 氷の採掘には、南極など降りたい場所に確実に降りる必要がある。それには高精度の着陸技術は欠かせない。近年では特に中国が月探査に力を入れ、米と張り合っている。月でも覇権争いが起きそうな気配だ。他方で民間企業の参入も始まっている。それぞれが長所を生かす形での相互協力を望みたい。

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