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社説(3月24日)基本法改正と農村 持続可能な農業集落に

 政府は食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定した。今国会で成立させ、国際紛争の激化や気候変動などに対応する新たな農業政策を展開する考えだ。
 農業基本法を継承し1999年の施行から25年。この間、国内外の情勢は大きく変化した。改正の基本理念に打ち出した食料安全保障がクローズアップされているが、法律名の通り食料、農業、農村は不可分である。地球規模で考える食・農と、身近な生産現場である地方の農業集落は車の両輪として持続性を考えなければならない。農業集落が持続可能なコミュニティーであり続け、食料安定供給と農業の多面的機能を切れ目なく発揮できるように支援するのが、地方自治体の役割だ。
 有事に対応した備えは重要だ。だが足元を見ると、担い手の減少や高齢化の進展、農地の減少などによってわが国の農業の足腰は弱っている。ここを修復しない限り、農業の持続的な発展はない。
 農業が魅力ある産業となり、若者や都市在住者らの新規就農が促されるようにするには、情報技術(IT)活用によるスマート農業の進展や農地のさらなる集約、輸出環境の整備などによって現場を活性化させ、生産基盤の一層の強化を図ることが不可欠だ。基本法改正を機に改めてその重要性を認識し、取り組みを加速する必要がある。
 基本法改正は、国民の目が中山間地域に向く好機と言える。中山間地の人口は全国の約1割だが、耕地面積、農家数、農業産出額はいずれも約4割を占め、重要な役割を果たしている。
 だが、現実は集落における農家の割合が年々減少するなど、多くの農業集落が存続の危機にあり、農地保全や用水路など農業施設の維持に支障を来してる。2020年農林業センサスによると、全国約14万の農業集落の半数が中山間地にある。静岡県は3337集落のうち1266が中山間地集落である。
 農村振興政策はこれまで、生産から加工販売まで行う「6次産業化」や都市住民を誘導する「グリーンツーリズム」などが試みられ、県内にも成果を挙げている事例がある。さらに一歩踏み出すためには、地勢や風土、何より担い手を熟知した市町の農政が独創的かつ戦略的な振興策を立てる力量が必要になる。
 地域の目指す農業の在り方を話し合ってきた「人・農地プラン」を地図に明示するなど、より具体化する制度が法定化された。県内34市町の238地区で作業が進む今は、変革の好機と言える。県外の先進事例に学びながら、自ら先頭集団を走れるよう、政策と担い手がひも付いた農村活性化を自治体に求めたい。

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