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社説(2月3日)裁判記録の保存 「国民の財産」を念頭に

 1997年の神戸連続児童殺傷事件など、重大少年事件の裁判記録が事実上の永久保存に当たる「特別保存」とされずに廃棄されていた問題で、最高裁は記録を歴史的、社会的意義を持つ「国民共有の財産」とする理念規定を盛り込んだ新たな規則などを制定、施行した。この理念を常に念頭に置き、厳格な運用で記録の適切な保存に努めなくてはならない。
 一連の問題を受け、昨年5月に公表した調査報告書に基づく防止策で、裁判所に対する特別保存の要望は誰でも可能とした。少年事件や民事事件の記録を廃棄する場合のプロセスに関しては各裁判所の所長の関与を明確化し、所長の認可を必ず受ける手続きを踏むよう従来の運用から改めた。特別保存の判断権限を持つ所長の積極的関与がなく廃棄されたケースが多かったことを考えれば当然の対応だ。
 新たに法律や公文書管理の有識者6人で構成する第三者委員会を最高裁に常設することも規定され、最高裁は大学教授や弁護士らを任命した。一般からの特別保存の要望を裁判所長が認めない場合は、委員会に意見を求めなければならないと定め、保存の適否を二重にチェックする体制を整えた。連続児童殺傷事件では、将来の閲覧の可能性を奪われた遺族らが廃棄を厳しく批判した。第三者委は史料的価値をはじめとする広範な視点で的確に判断してほしい。
 最高裁の内規では一般的な少年事件の記録は少年が26歳になるまで保存するとし、特別保存の対象として最高裁は「全国的に社会の耳目を集めた」「世相を反映した事件で史料的な価値が高い」などを例示する。廃棄問題の背景には記録の膨大化で各裁判所の記録庫が逼迫[ひっぱく]している状況があるが、最高裁は今回、具体的な対応策を示さなかった。デジタル化の推進など課題解決への速やかな対応が不可欠だ。
 調査報告書では保管スペース不足などを理由に最高裁が各裁判所に廃棄を促すといった不適切対応があったと認め、特別保存は「例外中の例外」と事実上、骨抜きになっていた。最高裁は「組織として記録を後世に残すという意識がなかった」と謝罪したが、国民感覚とかけ離れた機械的処置と言わざるを得ない。「廃棄ありき」からの脱却には現場の意識改革が欠かせない。
 2005年に伊豆の国市の少女が母親に劇物のタリウムを飲ませた事件の記録もほかの多くのケースと同様、特別保存を検討することなく廃棄されていた。少年事件の記録はプライバシー保護や更生などの観点から特に慎重に扱う必要がある。その点を配慮した上で、学術研究や事件防止などへの活用を想定した開示の在り方も考えていきたい。

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