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欧州で原発回帰の動き ロシア侵攻で高まる関心 新設続々、独も廃炉延期

 欧州で“原発回帰”の動きが進んでいる。2011年の東京電力福島第1原発事故後、脱原発にかじを切る国も相次いだが、地球温暖化への懸念に加えウクライナに侵攻したロシアへのエネルギー依存からの脱却が迫られ、原発に再び関心が集まる。新設計画が浮上し、ドイツも廃炉の先送りを決めたが、原発推進に安全上の疑問も上がる。

ドイツ・リンゲンにある原子力発電所=2022年10月(ロイター=共同)
ドイツ・リンゲンにある原子力発電所=2022年10月(ロイター=共同)
ドイツのネッカーウェストハイム原発=2022年6月(AP=共同)
ドイツのネッカーウェストハイム原発=2022年6月(AP=共同)
欧州で進む“原発回帰”
欧州で進む“原発回帰”
ドイツ・リンゲンにある原子力発電所=2022年10月(ロイター=共同)
ドイツのネッカーウェストハイム原発=2022年6月(AP=共同)
欧州で進む“原発回帰”


暖房需要
 「これで冬を乗り切ることができる」。ドイツのショルツ首相は22年中に停止予定だった原子炉3基の延期を決め、意義を強調した。段階的な廃炉を進めてきたが、侵攻を受け脱原発の完了は早くとも23年4月15日まで先延ばしとなった。
 ロシア産エネルギーに大きく依存してきたドイツは、暖房需要の高まる冬を越すため電力の安定供給の強化が急務。ハーベック経済・気候保護相(緑の党)は当初、政府方針として2基を23年4月中旬まで稼働可能な状態で残すと表明したが、連立政権内で3基の長期運転延長を求める声が出るなど意見が対立。最終的にショルツ氏が3基の廃炉延期を決断した。
 一方、ショルツ氏は「4月15日に終わりを迎える」と脱原発堅持の姿勢を強調。ただ野党や市民からは、さらなる延期を求める声も出ている。

グリーン認定
 欧州連合(EU)では侵攻前から原発への関心がにわかに高まっていた。EU欧州委員会は22年2月、原発を地球温暖化抑制につながる“グリーン”な投資先として条件付きで認定する方針を公表。原発事業に資金を呼び込みやすくなり、原発推進を後押ししそうだ。
 オランダは12月、二つの原発を建設すると発表。ルッテ首相は「二酸化炭素(CO2)の排出を減らし(ロシアなど)化石燃料産出国への依存度を下げられる」と指摘する。ポーランドでも三つの原発が建設されるほか、チェコやハンガリーなどでも建設予定だ。
安保上の懸念
 ただ原発回帰の流れに環境保護団体が反発するほか、原発にも、さまざまなロシアの影響を指摘する声がある。ハンガリーではロシア国営原子力企業ロスアトムによる新たな原子炉建設計画が今も進行中で、安全保障上の懸念が高まっている。
 英BBC放送によると、スイス最大のライプシュタット原発に供給されているウランの半分はロシアから来る。スイスはロシア以外の調達先の確保を急いでいる。
 スイスエネルギー財団の原発部門の担当者はBBCに、欧州の老朽化した原発はテロやサイバー攻撃に対応できていないと指摘。「こうした問題は可能性が高くないとはいえ(起きればリスクが大きいため)考慮に入れなければいけない」と警告した。(ブリュッセル、ベルリン共同=田中寛、斉藤範子)

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