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1票の格差訴訟最高裁判決 「2倍」固定化、縮小限界 地方の民意反映に懸念も

 最大格差2・08倍だった2021年衆院選の「1票の格差」訴訟は25日、最高裁の合憲判断で決着した。判決は新制度の枠組みに沿う選挙が続く限り、判断が揺るがない可能性を示唆。最大で2倍程度の格差が固定化する見通しとなり、縮小は限界に近い。都市部への人口流出で議席が減り続けた地方側には「地方創生に逆行する」と不満もくすぶり、「格差是正」と「地方の民意反映」という二律背反の難題に抜本的解決策は見いだせない。

「1票の格差」訴訟の判決のため、最高裁に向かう升永英俊弁護士のグループ=25日午後、東京都千代田区
「1票の格差」訴訟の判決のため、最高裁に向かう升永英俊弁護士のグループ=25日午後、東京都千代田区
衆院「10増10減」対象の15都県
衆院「10増10減」対象の15都県
「1票の格差」訴訟の判決のため、最高裁に向かう升永英俊弁護士のグループ=25日午後、東京都千代田区
衆院「10増10減」対象の15都県


中身
 最高裁は09年の衆院選以降、3度にわたる「違憲状態」の判決で国会に格差是正を求めてきた。09年の2・30倍と21年選挙では数字上の格差が0・2倍程度の違いにとどまるが、中身は大きく違う。かつて都道府県にまず1議席を与え、残りを人口比で割り振ることで格差の要因と指摘された「1人別枠方式」の廃止が決まったからだ。
 人口比を反映しやすいとされる議席配分方法「アダムズ方式」の導入は16年に決定。20年国勢調査を反映させた衆院小選挙区定数「10増10減」は改正公選法として昨年成立、施行され、次回の衆院選からようやく本格運用が始まる。
 この間、国会や各党の議論でも、人口のみの1票の価値判断を続ければ「地域の声が届かなくなる」と指摘されてきた。改正案を審議した衆院政治倫理・公選法改正特別委員会は付帯決議で、地域の実情を踏まえた区割りの在り方を議論するため、与野党協議の場を設けるとした。
 とはいえ選挙制度は各党とも勢力消長に直結するだけに、主張の隔たりが大きい。多くの党が一致できる制度創設は非常に難しく、協議の場の設置は具体化していない。
 付帯決議は、25年国勢調査の結果が出る時期をめどに結論を得るとも明記した。ただ「2~3年で何か決めるのは無理だろう」(自民党関係者)と見る向きは多い。

数と質
 10増10減により、20年国勢調査に基づく選挙区間の最大格差は1・999倍に縮小する。しかし都市部への人口流入が続く状況に変化がなければ、再び2倍を超えて国勢調査のたびに区割りや議員定数が見直されることになる。議席減が続く地方側には、削減される議席が都市部に回ることへの抵抗感が根強く残る。
 東京電力福島第1原発事故や東日本大震災からの復興に取り組む福島でも次回以降の衆院選は県内の議席数が5から4に減少。立憲民主党県連幹事長の高橋秀樹県議は、復興のために国会議員の果たす役割は大きいと指摘。「1人減るのは残念だが、受け入れざるを得ない」と漏らす。
 人口の多寡で生じる格差の観点だけであるべき選挙制度を論じていいのかという別の問いもある。法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は、アダムズ方式での格差縮小にも限界はあり、将来的には抜本的な見直しが不可欠だと強調する。
 「人口という『数的な不平等』だけを考慮して選挙制度改革を推し進めれば、過疎化の進む地方の声が政治に反映されない『質的な不平等』が生じる恐れがある」と指摘し「両方の平等をいかに実現するか、慎重な議論が必要だ」と話す。

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