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企業物価指数 転嫁さらに、消費者波及 後手の日銀、市場が圧力【表層深層】

 企業間の取引価格が前年比で1割もの上昇となった。コスト増を製品にも転嫁する動きはこの先も衰えそうになく、消費者物価への波及は続きそうだ。物価上昇の勢いを見誤った日銀は、金融緩和策の一段の修正を見越した市場の圧力に防戦一方となっている。

企業物価の波及経路のイメージ
企業物価の波及経路のイメージ


選択肢
 「常に価格の見直しを意識した方が良い。選択肢の一つとして持っておくべきだ」。サントリーの鳥井信宏社長は12日の記者会見で、3月に値上げを予定する輸入酒170品目などに加え、他の商品でも価格引き上げの可能性に含みを持たせた。
 値上げの動きは消費者向けの製品だけにとどまらない。三菱電機は銅やアルミニウム、樹脂の価格上昇を受け、産業用ロボットなど10品目の価格を10~20%引き上げる。「価格を改定する以上、当面はこの水準で耐える」(担当者)構えだが、素材コストは今後も増える可能性がある。
 こうした設備はさまざまな分野のメーカーが購入し、自社の生産に使っている。ある大手メーカーの幹部はコスト増を認めつつ「全てを商品に転嫁すると消費者が逃げてしまう」と悩ましい表情を浮かべる。

波及
 前年比9・7%の上昇幅を記録した2022年の企業物価指数について、農林中金総合研究所の南武志理事研究員は「サプライチェーン(供給網)の上流に当たる非鉄金属などの業種から値上げが起き、波及した」と説明。資源価格は足元で落ち着いてきたものの、消費者に近い製品を扱う企業では価格転嫁が十分に進んでおらず、今年も値上げが続くと分析する。
 実際に、日本マクドナルドは昨年9月に値上げしたばかりのハンバーガーを20円上げて170円にしたほか、「ユニクロ」は春夏物の女性用パーカの一部を1990円から2990円に大幅値上げするなど、小売り段階でも値上げの勢いは止まらない。4%台が目前に迫った消費者物価の上昇が、家計に重くのしかかっている。

つけ
 長年のデフレ心理が染みついた日本では、値上げは容易ではない―。こうした物価観に縛られ対応が遅れたつけを払っているのが日銀だ。昨年1月時点で予想していた22、23年度の物価上昇率はわずか1・1%。その後は現実の物価を後追いする形で上方修正を繰り返した。
 欧米の中央銀行がインフレ退治のため利上げを加速しても動かなかった日銀が、昨年末に長期金利の誘導目標の上限引き上げに突然踏み切ったのは、物価高への対応の遅れに対する国内外の批判があったとされる。この政策変更により「日銀の説明への不信感がさらに高まった」(関係者)金融市場では、さらなる上限引き上げを見込んだ国債売りが加速した。
 先週13日に続いて16日の国債市場でも、日銀が国債を無制限に買い取ることで金利を抑え込む「防衛ライン」の0・5%を一時突破。日銀が政策修正に追い込まれ、国債がさらに値下がりしたところで買い戻せば利ざやを稼げると読んだ取引があるとみられる。
 日銀は17、18日の金融政策決定会合で22年度の物価上昇率見通しを3%台に、23、24年度は2%近くにそれぞれ上げる見通し。「長期金利を誘導する政策には限界が来ている」との声が市場から上がる中、「物価の番人」の信認は大きく揺らいでいる。

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