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核心評論「旭川いじめ再調査」 「孤立の経緯」検証を 教室で何が起きたのか

 北海道旭川市で昨年、いじめを受けていた中学2年広瀬爽彩さん=当時(14)=が凍死した問題で、市が設置した再調査委員会の初会合が開かれた。今年9月に第三者委員会が「いじめと自殺の因果関係は不明」などと結論づけた報告書に遺族側が異議を唱え、いじめ防止対策推進法に基づく再調査を求めていた。
 遺族側は、広瀬さんに発達障害があると学校側が知りながら適切な対応を怠り、広瀬さんが教室内で孤立していった経緯も問題視している。
 いじめ事案は、加害者と被害者の閉じた構図では本質を捉えられない。これまで明らかになったいじめ行為以外に、教室では何が起きていたのか。再調査委には幅広い調査と考察を期待する。
 一連のいじめは、広瀬さんが中学入学から2カ月半後に自殺未遂をしたことで発覚した。上級生や他校の生徒らが、性的な動画を送信させるなどの加害行為をしていた。
 「何より1人が怖かった。だから先輩たちから離れられませんでした」。広瀬さんは生前、ツイッターに匿名アカウントでその時の心情をつづっている。そこには入学してからクラスで疎外感を抱いていく過程や、いじめの加害グループとの関係性も記されていた。
 尊厳を踏みにじられるようないじめを受けても加害グループから離れられず、周囲に助けを求められなかった理由を読み取ることができる。
 彼女は成績も良く、将来の夢も持っていた。ただ、クラスメートとうまくコミュニケーションを取ることができなかった。「クラスではいつも浮いていました。自閉スペクトラム症を抱えていたからです」。周囲の生徒から遠ざけられ、次第に居場所を失っていった。
 調査の過程で三者委が生徒らに実施したアンケートには、広瀬さんがクラス内で無視や仲間外れの対象になっていたとする回答のほか、自由記述に「誰がどう見ても、はぶられていると思った」と記した生徒もいた。
 しかし、三者委はこれらの行為について「攻撃する意図はなかった」などとしていじめには該当しないと判断し、加害グループによるいじめ行為だけを認定している。
 いま公立小中学校では、発達障害のある児童生徒は8・8%いると推定されている(文部科学省調査)。他者に理解されにくく、いじめの被害に遭いやすいため、2016年に改正された発達障害者支援法は、いじめ防止対策や個別指導のための計画の作成など、適切な教育支援を求めている。
 学校側は今回、広瀬さんにもクラスの生徒にも適切な支援や指導をしていなかった。そうした状況下で、クラスメートに多くを期待するのは難しかったかもしれない。
 だが、発達障害があるために教室になじめなかったとすれば、それは広瀬さんのせいではない。
 彼女が教室で抱いた疎外感は、その後の性的被害や死の遠因となった可能性もある。調査結果を再発防止に生かすには、孤立に至る経緯の検証が不可欠だ。(共同通信編集委員 名古谷隆彦)

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