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中東初のサッカーW杯閉幕 「世界つなぐ」理想遠く 熱狂のうたげ、しこり残る【表層深層】

 中東・イスラム圏で初めてのサッカー・ワールドカップ(W杯)が18日、全日程を終えた。国際サッカー連盟(FIFA)会長が掲げた「サッカーは世界をつなぐ」との理想とは裏腹に、ホスト国カタールは人権問題で欧米の批判にさらされ、一部で観戦ボイコットが拡大。欧米との価値観や主張の隔たりは埋まらず、熱狂のうたげはしこりを残して幕を下ろした。

11月、サッカーW杯カタール大会の開幕戦に駆けつけた大勢のサポーターら=アルホル(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕戦に駆けつけた大勢のサポーターら=アルホル(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕戦を前にあいさつするFIFAのインファンティノ会長(右)=アルホル(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕戦を前にあいさつするFIFAのインファンティノ会長(右)=アルホル(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕を前にライトアップされたモニュメント=ドーハ(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕を前にライトアップされたモニュメント=ドーハ(共同)
多くの人でにぎわう市場=13日、ドーハ(共同)
多くの人でにぎわう市場=13日、ドーハ(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕戦に駆けつけた大勢のサポーターら=アルホル(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕戦を前にあいさつするFIFAのインファンティノ会長(右)=アルホル(共同)
11月、サッカーW杯カタール大会の開幕を前にライトアップされたモニュメント=ドーハ(共同)
多くの人でにぎわう市場=13日、ドーハ(共同)


選手躍動
 「アラブの地で、並外れた大会を催すという約束を果たした」。カタールのタミム首長は閉幕に当たってこう主張し「成功」を自賛した。
 2010年に開催が決まった資源国カタールでは、総額2290億ドル(約31兆円)以上とされる巨額投資で地下鉄などの開発が進んだ。各国サポーターは「中東のイメージが変わった」と話す。
 大会組織委員会の広報ヌアイミ氏は、地元市民が訪問客に伝統衣装の身に着け方を教える場面をよく目にするとし「文化交流も盛んだった」と語った。チケットは約300万枚が売れ、テレビなどで世界のファンが選手の躍動に酔いしれた。

暗い影
 一方、大会には暗い影が付きまとった。欧州では、W杯準備のため過酷な環境で作業を強いられた外国人労働者や、同性愛行為を禁じるイスラム教国での性的少数者の権利向上を求める抗議が相次いだ。ドイツなどでは試合観戦をボイコットする動きも広がった。
 W杯施設でフィリピン人作業員が労災事故で死亡したことが開幕後に判明しても、カタール国内では「批判は一方的過ぎる」と不満がくすぶった。組織委のハテル最高経営責任者(CEO)は記者団に「死は人生の一部だ」と述べ、欧米から一層の非難を浴びた。
 カタールで性の多様性を象徴する虹色の旗を掲げれば、通常は取り締まり対象だ。主将が試合で反差別を訴える腕章を着用しようとした欧州チームには、FIFAが競技上の制裁を警告。カタールへの配慮がにじんでいた。サポーターが競技場で旗を没収されることもあったが、後に持ち込みは可能とされた。

スポーツ洗浄
 W杯という巨大イベントで熱狂を巻き起こし、人権問題という不都合な現実を覆い隠そうとする「スポーツウオッシング」(国際人権団体)を狙ったとの批判もやまなかった。カタールが大会前、人権軽視のイメージを払拭しようと、欧州で金品をばらまいた疑惑も浮上。欧州連合(EU)欧州議会の有力者が汚職の罪で訴追された。
 カタールチームは3戦全敗で1次リーグ敗退となったが、ドイツ週刊紙ツァイトは今月「今回のW杯の勝者はカタールだ」とする記事を掲載した。「スポーツウオッシングの効果を示した。独裁政権は地位を向上させた」と痛烈に評した。
 「痛みを知りながら楽しんで良かったのか。試合は美しいままだが、世界は醜い」。英紙サンデー・タイムズは外国人労働者らへの人権侵害を念頭に、こう論評した。
 カタールに対する批判は、中東諸国には「主張の押し付け」(サウジアラビア人サポーター)に映った。欧米が多様性を強調する半面「中東やイスラム教は尊重されていない」との思いが根底にある。次の26年大会は米国など3カ国が共催する。「さぞ素晴らしい大会になるのだろう」。首都ドーハの街からは皮肉の声が上がった。(ドーハ共同=日出間翔平)

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