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視標「日本W杯8強逃す」 世界の格差は縮まった ブランド通じない新時代 法政大教授・山本浩

 サッカーのワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦で日本は前回準優勝のクロアチアと延長、PK戦の末敗れ、初のベスト8進出を逃した。それでも優勝経験国のドイツ、スペインに勝って2大会連続で決勝トーナメント進出し、着実な成長を世界に印象づけた。国際的な評価に加え、ドーハ滞在中に多くの人からかけられた「日本は強い」の声がそれを物語っている。

山本浩・法政大教授
山本浩・法政大教授

 強かったのは日本だけではない。韓国、オーストラリアを加え、アジアから初めて3カ国が1次リーグを突破し、アフリカ勢も欧州、南米の列強に割って入った。半面、強豪とされた国が早々と姿を消した例も目立つ。
 背景には、才能ある選手がレベルの高い欧州で経験を重ね、母国に帰って水準を高めたことがある。指導法やスタッフのサポート面でチーム間の差が小さくなったことも見落としてはならない。
 大会の仕組みの変化も結果に影響した。映像を基に判定を支えるビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の本格採用と、短い中3日で続いた試合日程だ。
 VARにより、日本のスペイン戦の勝ち越し点は、ラインにミリ単位でかかったボールが証拠として示された。それまでは審判が肉眼で「のように見える」として判断していたが、デジタルが空間を切り取った「正確性」を基準とする判定への転換が起こった。
 批判もあった。優勝経験がありW杯出場が10回以上を誇る欧州か南米の強豪国が発信元と見られる場合が少なくない。そうしたチームを相手にした際のアジア勢のリスクは、ボールの「イン」「アウト」やプレーが不確実なとき、強豪国の地位が審判の裁量に影響を及ぼしかねないことだった。ブランドでは際どい勝負をものにできない時代が始まったのである。
 中3日の理由は、中断している欧州シーズンへの影響軽減と参加国が拡大する次回大会のテストの側面が考えられるが、スタミナ面などからどのチームにも悩みの種だった。ただ組み合わせ抽選会で、開催国を含む第1シードと言うべき世界ランキング上位国は、気温の高い、早めの時間帯に入ることが少なかった。灼熱の太陽が輝く午後1時と暑さが厳しい午後4時の試合には、延べ30チームが登場したが、第1シードはわずかに4チームである。
 人気の高い強豪国を、負荷の少ない夜の試合に回し、消耗を防ぐのは、大会終盤の盛り上がりという興行面から理解できなくもない。逆に体力的なマイナスを乗り越えた日本はマネジメントの優秀さを示したと言える。
 アジア3カ国の16強進出が、この先の世界の勢力図を変えるだろうか。だが、W杯の組み分けの基礎になる世界ランキングで順位を上げ、上位シードになるには、まだ難関が控える。
 ランキングの算出で重視されるのはW杯本大会での好成績。さらに、国際サッカー連盟(FIFA)が設ける国際試合日に強豪との対戦で勝ちを収めた場合はポイントが高くなるため、欧州強国との対戦が重要だ。
 しかし、欧州には各国間の対戦が多い。その間隙を縫って、彼らを招いた試合を行うには地理的、経済的条件などのハンディが残り、容易ではない。欧州や南米に追いつくには、W杯の好成績とシステム面の課題解消が求められる。
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 やまもと・ひろし 1953年、島根県生まれ。東京外語大卒。元NHKエグゼクティブアナウンサー、解説主幹。サッカーW杯、五輪などスポーツの取材経験豊富。2009年から現職。

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