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説明変節、協議長期化…「影響ない」主張は維持【大井川とリニア 第1章 築けぬ信頼③】

 リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事で県外に流出する湧水の対策で、JR東海が静岡県に提出した「全量の戻し方(見解)」の資料。昨年10月の提出時に「東俣水平ボーリング(ノンコア)」と記されていたが、今年1月に再提出された資料で「ノンコア」の記載が消えた。県の担当者は「いつの間にかなくなっていた。説明はJRから聞いていない」と振り返る。

2019年10月に県に提出されたJR東海の資料。ボーリングについて「ノンコア」と記載されている
2019年10月に県に提出されたJR東海の資料。ボーリングについて「ノンコア」と記載されている
2020年1月に県に再提出されたJR東海の資料。「ノンコア」の記載はなく、地質図は簡略化された
2020年1月に県に再提出されたJR東海の資料。「ノンコア」の記載はなく、地質図は簡略化された
2019年10月に県に提出されたJR東海の資料。ボーリングについて「ノンコア」と記載されている
2020年1月に県に再提出されたJR東海の資料。「ノンコア」の記載はなく、地質図は簡略化された

 ▶そもそも「大井川の水問題」ってなに?
 大井川の水は減るのか減らないのか―。現在の議論の焦点は地下水の流出がどの程度川の水量に影響するかだ。鍵を握るのは山梨県境付近の大規模断層。地下の構造を直接調べる手段がボーリングで、コア(円柱状の地質試料)を連続的に採取して地質を詳しく確認する「オールコア」と、コアを採らずに地質の概要を探る「ノンコア」がある。湧水量の高い精度での推定にはコア採取が不可欠とされる。
 コアかノンコアかは対策の議論を左右するポイントになる。JRは取材に、資料を差し替えた理由について「ボーリングの口元湧水量の増加箇所を分かりやすく説明するため」と回答したが、ノンコアの記載削除について言及しなかった。
 資料再提出後、「コアを採取すべきだ」と指摘されたJRは8月の国土交通省専門家会議に提出した資料にトンネル本線から約2キロ離れた別地点のボーリングのコアを新たに記し、大規模断層のコアの代わりになると主張した。
 JRの説明の変節はこれだけではない。金子慎社長は18年10月、トンネル湧水を全量戻すと表明したが、全量を戻す具体的方法が議論されると、19年8月、工事中の一定期間はトンネル湧水の県外流出は避けられないと修正した。それでも、大井川の中下流域に影響が出ないという主張は変えていない。
 時に“破天荒”とも思える理屈も飛び出す。新美憲一中央新幹線推進本部副本部長(当時)は19年10月、トンネル湧水が県外流出しても大井川の水が減らない理由を記者から問われ「水は広く見たら循環する。地下水も河川水も海に流れ、水蒸気になって雨が降る」と地球の水循環の話を持ち出した。
 現在は大井川に戻す湧水量が河川流量の減少量より多いという理屈で中下流域に影響を与えないとするが、国交省の専門家会議では「使える水が増えるという、そんなおいしい話はない。どこかにつけが回る」と疑問が投げ掛けられた。
 JRの資料を「だますような説明」と批判したことがある難波喬司副知事は「都合の悪いデータも出して対処すると言わないと信頼は得られない」と強調する。資料を小出しにし根拠が曖昧な主張が繰り返されるなら、流域の理解は得られず、協議がさらに遅れるのも避けられない。

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