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国交省専門家会議 報告書案 静岡県の要望反映されず 年内にも最終まとめ

 リニア中央新幹線トンネル工事に伴う南アルプスの生態系への影響を議論する国土交通省専門家会議は26日、事務局を務める同省がこれまでの議論をまとめた報告書案を提示し、年内にも最終的な報告書がまとまる見通しとなった。ただ、大井川上流部の沢に生息する水生生物への影響に関する議論では、種別の生き物への影響や対策に踏み込まず、静岡県は報告書案の内容に不満を漏らした。このまま報告書がまとまっても、県とJR東海の協議が進展するかは微妙な状況だ。

国土交通省専門家会議の委員の主な意見
国土交通省専門家会議の委員の主な意見
取材に応じる静岡県の担当者=26日午後、東京都
取材に応じる静岡県の担当者=26日午後、東京都
国土交通省専門家会議の委員の主な意見
取材に応じる静岡県の担当者=26日午後、東京都


 沢の水生生物の影響については、JRの示したシミュレーションで、上流部の沢35カ所のうち7カ所で流量減少傾向が確認された。報告書案は、重要種の生息状況を踏まえて11カ所の沢を重点的にモニタリングし、工事の前後で必要に応じてトンネル湧水量を低減させる「薬液注入」などの工法で影響回避・低減措置を講じるとした。
 県は文献値ではなく、実測データを用いて沢の流量減を予測するよう求めているが、報告書案では反映されていない。
 回避・低減措置を講じても生態系の損失が生じる場合、その代償措置について報告書案は、JRに県、静岡市、地権者など関係者と連携し、実施するよう求めた。だが、過去の県専門部会の議論では、委員とJRの間で代償措置のあり方を巡って意見が分かれた経緯があり、今後、県に戻ってきた議論がスムーズに進むかは不透明だ。
 会議後に取材に応じた県くらし・環境部の山田琢也部長代理は「影響を事前に予測するための調査が不足していて、引き続き求める」と述べ、「(課題を)積み残したまま(報告書の)『案』がとれることはないと考えている。会議の設立目的にもかなわない」とけん制した。
 一方、JRの沢田尚夫中央新幹線推進本部副本部長は「国の会議には県専門部会委員も入っている。後々(県が)蒸し返すような話にはならないと思っている」と話し、今後県との間で行われる予定の議論の進展に期待した。専門家会議の中村太士座長(北海道大教授)は会議の中で「求められれば、われわれもアドバイスする」と述べた。
 会議のテーマのうち、高標高部の植生への影響については、JRが同地の植物は地上に近い土壌水で生育しているとの調査結果を示し、報告書案に「トンネル掘削に伴い地下水位が低下しても影響は及ばない」との結論が盛り込まれた。
 トンネル湧水放流と残土置き場の影響に関しては報告書案で、JRがこれまでに示した対策を列挙し、状況に変化が生じた場合に見直しを行うとした。
 (政治部・尾原崇也、東京支社・山下奈津美)

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