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社説(12月18日)リニア環境保全策 JRは地元と連携密に

 リニア中央新幹線トンネル工事が南アルプスの生態系に与える影響を議論してきた国土交通省の専門家会議が、環境保全措置についての報告書をまとめ、斉藤鉄夫国交相に提出した。
 議論を通じて問題点が整理されたことは評価できるが、静岡県が求めていた沢の水生生物に対する追加調査や工事前の影響予測の必要性は報告書に盛り込まれなかった。今後は、報告書の考え方を踏まえ、JR東海と県、静岡市が具体的な対策の議論を本格化させる。JRは事業主体として県や静岡市との連携を密にし、地元の意向や懸念を十分にくみ取りながら対応を検討しなければならない。
 報告書は、工事の影響が確認されるごとに対策を検討する「順応的管理」の考え方を採用した。地質調査に基づいたトンネル湧水の低減措置などを講じ「環境への影響を最小化できる」と評価。JRに対し、地元との意思疎通を求める一方、国に対してJRの対策の着実な実行を継続的に確認するよう要請した。
 JRはリニアトンネル工事湧水の県外流出対策を巡り、地元と対話を重ねて「田代ダム取水抑制案」の了解を得た。この経験を生かし、環境保全対策にも同様に真摯[しんし]な姿勢で臨むことが重要だ。
 国の会議は2022年6月の協議開始から1年半で報告書を取りまとめた。中村太士座長(北海道大教授)は「あまり長く議論を続けても国民の理解は得られない」と、スピード感を意識して議事進行していたと明かした。こうした方針の下で議論が尽くされたのか疑問が残る。国の会議には県有識者会議専門部会の委員も出席していたが、発言内容が十分に報告書に反映されたとは言い難く、事業推進ありきの姿勢が色濃かった。
 会議に求められる役割や目的を巡り、県との認識のずれ、コミュニケーション不足は解消されないままだったと言える。国の会議は一区切りになるが、中村座長は自らを含む委員が関係者や住民に報告書の中身を分かりやすく説明する必要性を認めている。ぜひ実践してもらいたい。
 一方、意思疎通を欠いた責任は県側にもある。県有識者会議の議論の反映を求め、国交省に意見書の提出を繰り返すだけで、結果的に県の主張を国に認めさせることはできなかった。中村座長は「研究ではない」と県の意見を切り捨て、建設的な提案がなかったと不満を示した。
 川勝平太知事は報告書がまとまる直前に環境省を電撃訪問し、国交省への働きかけを求めたが、政務三役にも会えずじまいだった。実を得るためには、無意味なパフォーマンスではなく、より戦略的な対応が必要だった。

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