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リニア工事 井川にトンネル合意 保全か地域振興か交錯【伝えたい 政令市の現場から② 静岡市㊦】

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事の県内区間は大井川水資源や南アルプスの環境保全に関する議論が長引き、着工のめどが立っていない。工事現場は静岡市葵区の最北部だが、この問題で静岡市が声を上げる機会は県や大井川流域市町に比べ少ない。

県道トンネル新設に向けた準備工事の現場。トンネル建設は地元住民の悲願だった=20日、静岡市葵区横沢
県道トンネル新設に向けた準備工事の現場。トンネル建設は地元住民の悲願だった=20日、静岡市葵区横沢
リニア工事 静岡市 山梨県 長野県
リニア工事 静岡市 山梨県 長野県
県道トンネル新設に向けた準備工事の現場。トンネル建設は地元住民の悲願だった=20日、静岡市葵区横沢
リニア工事 静岡市 山梨県 長野県

 「どう観光振興につなげるかをみんなで考え始めている」。南アルプス観光の入り口に位置する葵区井川で長年、自治会連合会長を務める栗下浩信さん(63)は、リニア工事が地域にもたらす経済効果への期待を口にする。
 JR東海は2018年6月、リニアの工事車両通行ルートとして井川地区に県道トンネルを整備することで市と合意した。約140億円と試算される工事費用全額を同社が負担する破格の「地域振興」だ。トンネルの出入り口が計画される県道付近では、23年度からの掘削開始に向けた準備工事が進む。
 生活の利便性向上にもつながるトンネル整備は井川地区の長年の要望だった。栗下さんは「環境を壊していいとは当然思っていないが、(工事で)水を一滴も減らさないというのは無理」と言い、「ここは人と自然が共存して暮らしてきた。南アルプスにどんどん人に来てもらい、良さを知ってほしい」と話す。
 東海道新幹線静岡駅のひかり増便などリニア推進に伴う経済効果を見越し、問題の早期解決を望む声は市内経済界にも多い。
 一方、自然環境保全に対するこれまでの市の姿勢に物足りなさを感じてきた市民もいる。大井川上流で絶滅危惧種のヤマトイワナの保全に取り組むNPO法人「やまと渓流会」理事長の安池信男さん(71)=葵区=は「トンネルの約束があるから、JRに強く出られないのでは」といぶかしむ。静岡市は17年2月、環境影響評価手続きに基づく市長意見で、県や流域市町と同様に「トンネル湧水の全量戻し」をJRに求めた。安池さんは「県と連携し、市民が納得できる対策を約束させてほしい」と新市長に求める。
 市山岳連盟会長の望月喜久治さん(75)=清水区=は22年9月の台風15号で自宅周辺が浸水被害を受けた経験も踏まえた上で語る。「水をうまく治めないと地域も治められない。リニアの問題も水害対策も根っこの部分では『治水』に対する市の認識が問われている気がする」
 (政治部・尾原崇也、池谷遥子)

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