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田代ダム案「条件付き了解」 静岡県、JR東海に送付 リニア湧水流出対策

 静岡県は29日、JR東海が示したリニア中央新幹線トンネル工事湧水の県外流出対策「田代ダム取水抑制案」について、県や大井川流域市町、利水団体で構成する大井川利水関係協議会(利水協)として案の実施を了解するとの意見を取りまとめ、同社に送付した。併せて、流出量に対して必要な河川流量を確保できないなど案が実行できない状態が続いた場合の対応などについて、利水協への事前の説明や県有識者会議専門部会での協議を要請し、実質的には「条件付き了解」の内容になった。

田代ダム取水抑制策を巡る議論の経緯
田代ダム取水抑制策を巡る議論の経緯

 川勝平太知事も29日、コメントを発表し、JRが10月に示した田代ダム案の具体的な実施案を「大井川中下流域の河川流量への影響を回避する保全策となり得る」と評価した。一方で、田代ダム案が計画通り実行されても、工事に伴う生態系への影響の懸念は残されたままだとし、県内での工事を認めるには引き続き、JRと協議を行う必要性があるとの姿勢を強調した。
 利水協は田代ダム案の実施を了解した上で、冬場の渇水期などに県外流出量と同量を取水抑制できない状態が継続した場合の対応や、突発湧水の発生など不測の事態が発生した場合の協議体制についてJRに事前の説明を求めるとした。
 県専門部会の森下祐一部会長は「実施案はスキームとして妥当」との考えを文書で示した。利水協が事前説明を求めた事項など5項目については、今後JRと協議が必要とした。

「全量戻し」解決へ道筋 県内着工はまだ
 JR東海の「田代ダム取水抑制案」の実施を県や大井川流域市町が条件付きながらも了解したことで、県が2014年3月から10年近くにわたって求めてきたリニアトンネル工事湧水の「全量戻し」の議論は解決への道筋が見えたことになる。JRは着実な実施に向けて、田代ダムを管理する東京電力リニューアブルパワーとの協議を迅速にまとめ、流域市町や県専門部会から課された宿題に的確に答えるべきだ。
 田代ダム案の実現が県内工事の着手に即つながるかというと、そうではない。川勝平太知事は南アルプスの環境保全の問題が解決しない限り、県内で高速長尺先進ボーリングの実施すら認めない姿勢を崩していない。
 一方で、ボーリングを実施し、特に県境付近の大規模破砕帯の状況を確認しないことには科学的な議論が進展しないことも事実だ。県、JRとも国土交通省専門家会議が年内にもまとめる予定の生態系保全に関する報告書を有効に活用し、スピード感を持って合意形成を図る姿勢が求められる。
 (政治部・尾原崇也)

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