テーマ : 大井川とリニア

田代ダムに「戻す水」あるか JR案課題多く【大井川とリニア】

 リニア中央新幹線工事期間中にトンネル湧水が静岡県外に流出する問題で、JR東海は東京電力田代ダムの大井川からの取水を抑制することで流出量と「相殺」させる対策案を県有識者会議に提示した。ただ、トンネル工事の影響で大井川の流量減少が見込まれる中、渇水時に戻すだけの水量がそもそもあるのか関係者は懐疑的だ。田代ダムの取水量を巡っては、流域自治体の粘り強い交渉の末、一部を取り戻した経緯があり、関係者とどう合意形成を図るのかなど、クリアすべき課題は多い。

田代ダム地点の大井川流量(1991~2000年の平均)
田代ダム地点の大井川流量(1991~2000年の平均)
田代ダムに定められている河川維持流量
田代ダムに定められている河川維持流量
田代ダム地点の大井川流量(1991~2000年の平均)
田代ダムに定められている河川維持流量

 東電は田代ダム地点での大井川河川流量を公表していないが、水利権更新時に協議する「大井川水利流量調整協議会」で東電が関係者に提示した資料によると、1991年~2000年の10年間の1、2月の平均河川流量の大半は毎秒2~3トン。JR東海は環境影響評価(アセスメント)準備書で、大井川上流の河川流量はトンネル工事の影響で毎秒2トン減少すると予測していて、トンネル工事期間中も河川流量が減少する可能性がある。
 田代ダムの最大取水量は毎秒4・99トンだが、雨が少ない冬場はそれだけの河川流量が見込めない。東電と県、流域自治体などの取り決めで、12月6日~3月19日の間は、渇水期でも維持すべき流量として毎秒0・43トンの河川維持流量が定められている。田代ダムは配管の凍結を防ぐために最低でも毎秒1・62トンの取水を必要とするため、河川流量が毎秒2・05トンを下回ると、東電がJR東海に譲るような田代ダムの水は存在しないことになる。
 91年~00年の河川流量データを前提とした場合、冬場の河川流量は毎秒2・05トンを下回る懸念が強まる。JR東海は「理屈上は渇水期でも(対応)できる」(4月26日の県有識者会議)と説明しているが、根拠は示していない。県の担当者は「根拠となるデータや手法を早期に示すべきだ」と主張する。
 

水利権更新時の協議注目

 田代ダムの水利権は2025年に、許可期間10年の更新期限を迎える。水利権制度に詳しい東京経済大の野田浩二教授(環境経済学)は、JR東海に譲った分を差し引いた取水量が「田代ダムにとっての合理的な水量と考えることができる」と話し、水利権更新時の流域自治体との協議で、同じ量の恒久的な返還を求められる可能性があると指摘する。
 野田教授は、事業者の要請に応じてダムの取水を抑制し、何らかの補償を受けた場合、「河川法上認められていない水利権の売買に事実上当たる可能性がある」とし、今後の県有識者会議での議論や東電側の対応に注目する。
 15年に田代ダムの水利権を巡り、東電と交渉した元首長は「電力会社が簡単に水利権(の一部)を手放すとは思えない」と話し、取水抑制案の実現性に厳しい目を向ける。

 <メモ>田代ダムの完成は1928年(昭和3年)。リニアの南アルプストンネル本線予定地のすぐ下流にあり、大井川から取水した水を導水路で山梨県の富士川水系に流している。東電は毎秒4.99トンの水利権(最大取水量)を持つが、全てを使っているわけではなく、河川維持流量(毎秒1.49~0.43トン)は取水せずにそのまま大井川の下流に流している。河川維持流量は季節ごとに定め、現在の流量は国、県、流域市町と東電などで構成する「大井川水利流量調整協議会」で水利権の更新期に合わせて2005年に合意し、15年に更新した。東電の最大取水量はダム完成当初、毎秒2.92トンだったが、高度経済成長期の電力需要に対応するため1964年に現在の毎秒4.99トンに引き上げられた。

いい茶0

大井川とリニアの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞