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【東日本大震災13年】防潮堤の先、海臨むサウナ 悲しみ和らぐ笑顔の場所に 津波襲った宮城・気仙沼

 東日本大震災の津波が襲い、現在は高さ8メートル超の防潮堤がそびえる宮城県気仙沼市の鮪立漁港に「海が見える」と話題のサウナがある。地元で民宿を営む菅野一代さん(60)が、津波に耐え残った建物を改修して昨年7月にオープン。たちまち新名所になった。海へのさまざまな思いを胸に、前を向いて―。「もう一度、人と海がつながる場所に」と願いを込める。

漁具倉庫を改修し、海が見えるサウナ=宮城県気仙沼市
漁具倉庫を改修し、海が見えるサウナ=宮城県気仙沼市
サウナ前に立つ民宿女将の菅野一代さん=宮城県気仙沼市
サウナ前に立つ民宿女将の菅野一代さん=宮城県気仙沼市
漁具倉庫を改修したサウナ。「海が見える」と話題だ=宮城県気仙沼市
漁具倉庫を改修したサウナ。「海が見える」と話題だ=宮城県気仙沼市
宮城・気仙沼市、海が見えるサウナ
宮城・気仙沼市、海が見えるサウナ
漁具倉庫を改修し、海が見えるサウナ=宮城県気仙沼市
サウナ前に立つ民宿女将の菅野一代さん=宮城県気仙沼市
漁具倉庫を改修したサウナ。「海が見える」と話題だ=宮城県気仙沼市
宮城・気仙沼市、海が見えるサウナ

 2017年3月。一代さんは養殖船の転覆事故で夫と長女ら家族3人を失った。女将を務める民宿「唐桑御殿つなかん」に最初のサウナが置かれたのは、その少し後。ふさぎ込む様子を見て、知り合いが車輪付きの移動式サウナを提供してくれた。「冷えた心を温めてほしいと思ってくれたのかな」と振り返る。
 民宿は高台にあり、サウナから海を眺めることができた。喜ぶ宿泊客らの姿を見て、こんなにも人を喜ばせるのかと驚くと同時に、お客さんの笑顔が次第に悲しみを和らげてくれるのを感じた。「サウナでもっと笑顔を見たい」と思った。
 ところが、鮪立漁港の津波対策のため防潮堤の建設が始まると、サウナから海が見えなくなった。家族の死で「もう海は見たくない」と思うこともあったが、見えなくなってしまうと、心に穴があいたようだった。「家族やお客さんとの思い出がつまった海だからこそ、自分から切り離せないと気付いたのかな」
 海が見える場所を探そう。そう考えたとき、震災前に使っていた漁具倉庫を思い出した。震災の津波で屋根まで水に漬かったが流されず、防潮堤と海の間の敷地に、当時のままポツンと残されていた。「ここを海の見えるサウナにしたい」と心に決めた。
 23年春にクラウドファンディングで資金を募ると、あっという間に目標額600万円を突破。改修工事では壁と屋根を取り換えず、色を塗り直すだけにした。以前の漁具倉庫をほうふつさせる外観を残したかった。
 完成したサウナは、光が差し込む大きな窓の向こうに、キラキラ光る海が広がる。目の前を遮るものは何もない。まきストーブから聞こえるパチパチという音を聞きながら沖を行く船を見ていると、時間を忘れそうになる。体を冷ますため外へ出ると、波の音とやわらかな風が心地よく体を包む。
 「海が近くて最高」「また来たいです」。そう言って喜んで帰っていく人たちの笑顔を見ていると「幸せな気持ちになる」と一代さん。津波や事故で大切なものを奪った海。それでも、だからこそ―。「笑顔の絶えない場所になってほしい」と心から願う。

いい茶0

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