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【ウクライナ避難民】支援のネットワーク構築を 人間らしい生活実現へ 日本YMCA同盟主任主事 横山由利亜

 ロシアによるウクライナ軍事侵攻から2年。私はこれまでに約1300人の在日ウクライナ避難民の支援に携わり、対話してきた。侵攻開始直後は母子や60代以上が多かったが、その後、10代や20代の若い世代が日本の政府や知人を頼り、来日するケースが続いている。

日本YMCA同盟主任主事の横山由利亜さん
日本YMCA同盟主任主事の横山由利亜さん

 17歳の時、1人で東京に避難してきた青年が話してくれた。「家族はウクライナを離れられない。高校卒業と徴兵を目前に、日本政府の支援を頼って避難した。将来は航空エンジニアになりたい。1人暮らしには慣れてきたが、深く付き合える友だちができないのが寂しい。日本語がまだ上手じゃないこともあるけれど、それよりも『一時的に避難している人』『いずれどこかに行ってしまう人』と見られている」
 この青年の相談に乗り、現在19歳という年齢からすれば遠回りになるが、今春、高校1年生からやり直しをする決断を後押しした。本国を離れ、孤独で不安が強い。自分だけ安全な場所にいることから、時に罪悪感も抱える。彼の夢の実現には、本人の人並み以上の努力はもちろんだが、成長や状況の変化に応じた情報提供、息の長い見守りと支えが必要だ。
 昨年12月から、日本でも「補完的保護」制度が始まった。難民条約上の難民には該当しないものの、保護を必要とする紛争避難民らを守るための仕組みである。帰国の見通しが立たない約2100人のウクライナ避難民も、対象と目されている。
 出入国在留管理庁に補完的保護を申請し、認定されれば、難民と同様、最長5年間の安定した在留資格を得られる。定住支援プログラムとして、原則6カ月の日本語教育(572時間)と生活ガイダンス(120時間)を受けられ、その期間中は宿泊施設や生活費も一部提供される。
 自立を手助けする手厚い仕組みのようにも見えるが、果たしてそうだろうか。やむを得ない事情で他国に逃れて来た人たちが、わずか半年のプログラムで、自立し安定した生活を送ることができるとは到底思えない。
 実際に近年、支援プログラムを受講したアフガニスタン難民も、就労には非常に苦労している。そして、経済的安定だけでなく、住環境や教育、医療、生きがい、文化的生活、コミュニティーでの交友関係といったものからもたらされる安心感が得られなければ、それは「人間らしい生活」とは言えない。
 日本のどこにいても、ウクライナの人々が自分の居場所を得て、そこで生きる目的を見いだせるようになる。そのためには、政府だけでなく、地域の行政、非政府組織(NGO)、各種専門家、市民ボランティアなどがネットワークで緩やかにつながり、一人一人のニーズに応じた支援ができる仕組みを構築していかなければならない。
 人間同士の向き合いの中から、ポジティブな「おせっかい」が自然と生まれる。日本の難民受け入れや多文化共生施策には課題が多いが、ウクライナ避難民の受け入れを機に、風穴をあけていきたい。
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 よこやま・ゆりあ 1969年京都府生まれ。東京女子大卒。93年、公益財団法人日本YMCA同盟に入り、国内外の人道支援を担当、ウクライナ避難民支援プロジェクト責任者を務める。

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