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【ウクライナ戦争2年】国際経済秩序が大転換 インフレ長期化の恐れ

 2年前、ロシアがウクライナへの侵攻を始めたのを受けて、日米欧の先進7カ国(G7)を中心とした西側は、グローバルな決済網からの排除を柱とした大規模な対ロ経済制裁に踏み切り、世界経済分断への懸念が一気に高まった。ウクライナ戦争が、第2次大戦後の自由で開かれた国際経済秩序の大きな転換点になったのは間違いない。
 世界経済はウクライナ戦争のほか、コロナ禍や中東情勢の緊迫も相まって、インフレが長引くリスクが増した。エネルギーや食料、半導体といった重要物資の供給に支障を来す公算が大きくなったためだ。
 昨年秋にはイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まり、地政学的リスクは一段と増大した。中東の紛争が拡大すれば、石油や液化天然ガス(LNG)の輸送が滞り、エネルギー価格が上がって、世界的な物価高傾向を抑えるのは難しくなる。
 実際、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海での商船攻撃で、アジアと欧州を結ぶ海上交通の要衝スエズ運河を通る船舶は激減した。各国・地域は物価への警戒を強める必要がある。
 物価が急騰したり重要物資の入手が困難になったりした国・地域は、経済に大きな打撃を受けるだけでなく、大規模なデモや暴動が発生し、社会的混乱に見舞われかねない。こうした事態に陥らないよう、国際社会は前もって対応策を用意しておくべきだが、難しいのが実情だ。
 それは地球規模の問題を協議する場である20カ国・地域(G20)が、深刻な機能不全に陥っているからだ。ウクライナ戦争勃発後、G20は(1)ロシアの侵攻を非難するG7を軸とした西側(2)ロシアと同国の側に立つ中国(3)態度が曖昧なインドなど新興・途上国―の三つの勢力に分かれ、意思統一ができなくなった。
 政策協調の「司令塔」を欠く国際社会は、3勢力がサプライチェーン(供給網)の再編を柱とした対策を個別に策定していくことになろう。経済安全保障を確立する観点から、同じ勢力内の国々が重要物資を相互に融通し、関係を強化するのを止めるすべはない。
 だが、極端な保護主義的措置を講じて経済のブロック化に突き進んではならない。ブロック化による対立の先鋭化が、第2次大戦の一因になった歴史をよくよく振り返ってしかるべきだ。
 ウクライナの戦況は膠着し、戦争の出口は見えない。インフレの長期化懸念に対応し、世界経済の安定を図る上で、金融政策の重要性は一層増す。特に最大の経済大国、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)の責任は格段に重くなったと言える。
 米国自体の物価高は峠を越えたものの、パウエルFRB議長は先に、早期の利下げ転換に否定的な見解を表明した。妥当な判断である。海外のインフレ動向にもしっかり目を配りつつ、くれぐれも適切な政策運営に努めてほしい。(共同通信編集委員 金沢秀聡)

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