テーマ : 読み応えあり

【福島第1原発の事故対応】費用膨張、懸念拭えず 国や消費者の負担拡大も

 東京電力福島第1原発事故の対応費用が膨張している。政府が昨年末に示した賠償や除染、廃炉費用の試算は、処理水海洋放出に伴う賠償も含め、23兆4千億円に拡大。これとは別に除染の国費負担も増えている。溶融核燃料(デブリ)や除染廃棄物の最終処分の費用は見えておらず、電気料金や税金による負担が一段と増える懸念が拭えない。

福島県大熊町の除染作業=2023年12月
福島県大熊町の除染作業=2023年12月
原発事故の対応費用枠組み
原発事故の対応費用枠組み
福島県大熊町の除染作業=2023年12月
原発事故の対応費用枠組み

 ▽上振れ
 政府が試算を見直したのは、賠償と除染廃棄物の中間貯蔵の費用上振れが要因だ。国の基準改定に伴う被災者への慰謝料増額と、処理水放出で生じた風評被害による損害対応のため、賠償費用を従来の7兆9千億円から9兆2千億円に引き上げた。中間貯蔵は2兆2千億円。帰還困難区域の除染で発生した廃棄物の搬入や処理の本格化を受け、6千億円増額した。除染の4兆円や廃炉の8兆円は従来想定を変更しなかった。
 賠償と除染、中間貯蔵の費用は、必要に応じて現金化できる交付国債を政府が発行し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて東電を資金援助する。東電からの支払いが滞らないよう政府が一時的に立て替える形だ。
 賠償資金は、東電のみが支払う特別負担金と、東電を含む大手電力会社が支払う一般負担金で回収する。一般負担金は電気料金に上乗せされるため、最終的に消費者が負担する。
 除染資金は、機構が保有する東電株の売却益で賄う計画だが、現在の東電の株価は必要な水準に遠く及んでいない。中間貯蔵は、エネルギー対策特別会計から拠出。東電株売却益の余剰分を充てるとしていたが、事実上国費で負担している。
 ▽検証困難
 不確定要素が大きいのは廃炉だ。政府は8兆円の試算を据え置いたが、機構の担当者は「デブリの取り出しに必要な作業が具体的に見通せないと(費用の)検証も難しい」と話す。
 1~3号機にある大量のデブリの取り出しは、廃炉の成否を左右する。ただ2号機で計画する試験的なデブリ採取も3回延期するなど、苦戦している。廃炉費用は東電が機構に積み立てているが、安定的な資金確保には収益改善が課題だ。
 ▽試算外
 取り出したデブリの最終処分地は決まっていない。通常の原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)と異なり、高温で溶けて金属やコンクリートと混ざったデブリを安全に廃棄する技術の確立や費用の見通しは、これからだ。
 福島県で除染後に出た土などは県内の中間貯蔵施設で保管後、2045年3月までに県外で最終処分する計画だが、処分費用は試算されていない。環境省は放射性物質濃度が比較的低い土を公共工事で再利用し、処分量を減らす方針。ただ県外での実証試験計画は住民の反対で難航している。

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞