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【原発事故時の住民避難】複合災害の懸念、各地に 従来計画「通用せず」

 能登半島地震では北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の事故を想定した避難道路が寸断、集落孤立も相次いだ。各地の原発は半島や離島、人口の多さ、豪雪など、それぞれ懸念材料を抱える。地震や津波と原発事故が重なる複合災害時、住民はどう逃げればよいのか。専門家は「災害が多様化、激甚化し従来の避難計画が通用しなくなっている」と警鐘を鳴らす。

能登半島を南北に縦断する「能越自動車道」に続く道路が土砂崩れで寸断され、下を通る県道に流れ込んだ。能越自動車道と県道は原発事故時、避難経路となる=2日、石川県穴水町(共同通信社ヘリから)
能登半島を南北に縦断する「能越自動車道」に続く道路が土砂崩れで寸断され、下を通る県道に流れ込んだ。能越自動車道と県道は原発事故時、避難経路となる=2日、石川県穴水町(共同通信社ヘリから)
各地の原発事故避難の主な課題
各地の原発事故避難の主な課題
宮城県・女川原発
宮城県・女川原発
愛媛・伊方原発
愛媛・伊方原発
能登半島を南北に縦断する「能越自動車道」に続く道路が土砂崩れで寸断され、下を通る県道に流れ込んだ。能越自動車道と県道は原発事故時、避難経路となる=2日、石川県穴水町(共同通信社ヘリから)
各地の原発事故避難の主な課題
宮城県・女川原発
愛媛・伊方原発

 ▽寸断
 能登半島を縦断する自動車専用道路「能越自動車道」は2日、13区間が通行止めとなった。志賀原発北東約25キロの穴水インターチェンジでは1日、自動車道に接続する道路が土砂崩れで寸断。下を通る県道も使えなくなった。石川県穴水町の住民は、事故時にこの二つの道路などを通って同県珠洲市へ逃れるが、担当者は「どのルートも厳しい」と打ち明ける。
 国の指針では原発事故時、5キロ圏の住民が先に避難し、5~30キロ圏は住宅など屋内に退避、放射線量に応じて避難する。ただ一般家屋は食料の備蓄などの問題がある。原子力規制委員会の伴信彦委員は17日の会合で「屋内退避は2、3日が限界だ」と指摘。規制委は指針見直しを検討するが、能登半島地震では住宅倒壊が相次ぎ、避難も屋内退避も難しい状況だ。
 ▽離島
 「懸念していた問題が現実に起きた」。年内の再稼働を見込む東北電力女川原発2号機(宮城県)の再稼働差し止めを求める訴訟の原告団長を務める原伸雄さん(81)はショックを隠さない。
 女川原発は太平洋に突き出た牡鹿半島に立地。半島と離島に約3千人が暮らす。避難には海路も活用するが、津波や悪天候で船が出せない心配が残る。半島には狭い道も多い。「道路は渋滞しないか。集合場所にバスは来るのか。運転手は確保できるのか」。原さんの不安は尽きない。
 四国電力伊方原発(愛媛県)は、四国最西端の細長い佐田岬半島の付け根にある。傾斜地が多く、南海トラフ巨大地震など大規模災害では、主な避難経路となる国道197号につながる道路が断たれる恐れがある。陸路寸断となれば船で大分県などに逃れる想定だが、自治体担当者は「津波や隆起が起きれば港に船が着けない」と話す。
 ▽もろさ
 激甚化する気象災害も難題だ。東京電力柏崎刈羽原発がある新潟県は2022年12月、記録的な大雪に見舞われ、国道8号などで車が長時間動けなくなる大規模な立ち往生が起きた。北海道電力泊原発(北海道)は暴風雪に加え、スキー場などを訪れる国内外の観光客への情報伝達に課題を抱える。
 30キロ圏内に全国最多の約91万人が住む日本原子力発電東海第2原発(茨城県)は、避難先の調整が付かず、計画は未策定のままで、水戸地裁は21年、運転を認めない判決を言い渡した。全国で唯一県庁所在地に立地する中国電力島根原発2号機(松江市)は、多く暮らす要配慮者の支援が課題だ。広瀬弘忠東京女子大名誉教授(災害リスク学)は「各地の原発は逃げるルートが確立されておらず、計画は非常に脆弱だ」と指摘している。

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