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視標「テレビ70年」 視聴者に便利な方向へ変化 電波の放送は終わる? 法政大教授 藤田真文

 二十数年前、世紀の変わり目のころ、NHK放送技術研究所の研究成果などをもとに「放送局から送られてくる番組をいったん冷凍庫に保管して、好きな番組だけ解凍して見るようになるだろう」との未来予測を書いた。

藤田真文・法政大教授
藤田真文・法政大教授

 いやいやそんなの実現しないよと冷ややかな反応もあったのだが、5年もたたないうちに、地上波全チャンネルを数週間分録画できる「全録」型ハードディスクレコーダーが市販され始めた。
 今ではTVerやNHK+などインターネットによる番組配信サービスの普及で、自宅に冷凍庫(全録レコーダー)を持っている必要もない。徒歩0分のコンビニが冷凍庫がわりというイメージだろうか。自分で録画予約をしなくても、好きな時に好きな番組を見ることができるようになった。
 好きな時に好きな番組をということでは、十数年前の対談で「学生がユーチューブの映像検索に夢中になって徹夜する」という話をした。すると、対談相手の放送局役員から「そんな違法動画は見ないよう、学生に注意してください」との反応が返ってきて、驚いたことがある。
 論点はそこではなかった。放送したら終わりという一方的で刹那的なものではなくて、視聴者側が主体的に番組を探し、発見してくれるようになると言いたかったのだ。
 最近では放送局がユーチューブに公式チャンネルを持って番組を宣伝したり、現在放送している番組に関連した昔の番組を配信サービスで一緒に勧めるようになったりと、時代は変わった。
 テレビドラマの視聴が趣味でもあり研究でもある筆者は、米動画配信サービスのネットフリックスでドラマを見ることが多くなった。見ているのは韓国ドラマであり、台湾、米国、英国などさまざまな国で作られたドラマだ。
 あれっ、とある日気づいた。電波行政のせいで存在していた国境の垣根が、ずいぶん低くなっているではないか。もちろん、これまでも韓流ブームはあった。でも、そのころは放送局が設定した韓流番組枠か、それこそユーチューブに違法にアップされた映像を探すほかなかった。
 だが、ネットフリックスなどでは、韓国ドラマを見終わったら、つぎ米国、つぎ台湾と自分で簡単に国境を越えることができる。
 視聴者の選択肢が広がったことは、制作者から見ればピンチでもありチャンスでもある。日本のドラマは各国のドラマと横並びで比較される。反対に、10話で終わる日本のドラマは短すぎて海外では放送しにくいと言われていたが、配信サービスではすぐに見終わるコンパクトさが有利になるかもしれない。ローカル局が作った番組が全国的人気を得ることもある。
 視聴者もいいことばかりではない。「いつまでも番組あると思うなサブスク(購読型のサービス)」と言った人がいるが、自分の見たい番組がいつの間にか配信から外されているかもしれない。
 テレビの形は、使う側=視聴者に便利な方向へ変わっていくのが常と見ている(けっして放送局に都合の良い方向ではなく)。日本でテレビ放送が始まって2月1日で70年。次の10年で、テレビは電波で送られる放送ではなくなっているんじゃないだろうか(まだ早い?)。
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 ふじた・まふみ 1959年青森県生まれ。慶応大博士課程単位取得満期退学。八戸大、常磐大の専任講師などを経て現職。著書に「ギフト、再配達」、編著に「メディアが震えた」など。

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