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民間事業 政治関与鈍く 国民の理解得る議論を【大井川とリニア 第3章 “国策”の舞台裏⑤完】

 リニア中央新幹線の大阪延伸前倒しに向けたJR東海への総額3兆円の財政投融資(財投)投入のため、政府が関連法案を提出した2016年秋の臨時国会。賛否を巡り、与野党の論戦が激しさを増した。

リニアをテーマにする自民党の特別委員会=7月下旬、同党本部
リニアをテーマにする自民党の特別委員会=7月下旬、同党本部

 「国土構造が大きく変革され、国際競争力の向上が図られる」「未来への投資を加速する効果がある」。衆院本会議の代表質問で当時の首相安倍晋三は、財投投入の効果は見込めないとする共産党委員長志位和夫に反論した。
 丁々発止は委員会でも。参院予算委では自民党の西田昌司が「本当にいいことだ」と政府を後押しし、全国の新幹線網拡大を併せて要求。衆院内閣委では民進党=当時=の岡田克也が「うまくいかなければ国民の税負担にもなりかねない」と懸念をぶつけた。
 最終的に法案は可決されたが、財投だけでなくリニアそのものの是非や、工事と環境保全の両立といった課題にも光が当たった。
 だが、過去の国会審議を見るとリニアが集中的なテーマとなった場面は総じて少ない。この時のような与野党の攻防は、むしろまれ。民間事業ゆえに直接的な議決事項が限られ、JRや国土交通省任せだったり、様子見をしたりする雰囲気が続いてきた。
 本県国会議員の動きも鈍い。大井川流量減少問題の浮上した後、常任委員会などの場で取り上げたのは野党の3人にとどまる。与党議員に至ってはゼロだ。
 静岡工区の膠着(こうちゃく)が続く中、自民党の超電導リニア鉄道に関する特別委員会は7月、約半年ぶりに活動を再開した。委員長の古屋圭司は「立法府としても推進に向けて最大限の努力をする責任がある」と積極的な関与を打ち出したものの、予定していた流域市町の首長訪問などは実現していない。参加している国会議員の中からさえも「(特別委として)どう問題を解決させていくのかはっきりしない」との声が漏れる。事態打開の道筋は見えない。
 JRがリニア実現へ具体的に踏み出してから13年半。この間、訴訟に代表される住民の不満の高まりや静岡工区を巡る県とJRの対立など、さまざまな問題が顕在化してきた。
 計画認可取り消しを求めて国を提訴している原告団の団長川村晃生(慶応大名誉教授)は「JRと国が『事業ありき』で来たしっぺ返し。政治の場でも利点と不利益の両面から考えられることがなかった」と手厳しい。コロナ禍や人口減で社会が変わる今の局面は、リニアが時代に合った事業かを含めて「立ち止まって考えるチャンス」とも指摘。“国家的プロジェクト”であるならばこそ、国民の理解を得るための徹底した議論を求める。=敬称略

 ■収支予測、見直し方針明らかにせず
 JR東海は2010年5月10日の国土交通省交通政策審議会小委員会で、リニア中央新幹線の建設に伴う収支の予測を提示した。収入は27年の名古屋開業前まで足元5年間の平均で横ばい、名古屋開業後はリニアと既存の東海道新幹線の合計で10年かけて累計10%増加して一定水準が続き、45年の大阪開業時に再び15%伸びると試算した。JRは「堅めの想定」とし、増収要因としては航空機からのシェア移転などを挙げていた。
 新型コロナウイルス感染症で直近の新幹線の利用状況などは厳しい。金子慎社長は回復が見通せないことを踏まえ、リニアの収支予測の見直しに関する方針は明らかにしていない。

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