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【経済安保新法案】欧米と足並み、企業商機 対象あいまい、運用懸念

 政府が経済安全保障に関わる機密情報の取り扱いを有資格者に限定する法案を国会に提出した。米中対立が解けず、先端技術分野の情報が軍事、産業の両面で鍵となる中、制度を導入済みの先進7カ国(G7)各国と足並みをそろえ、日本企業の商機拡大も狙う。ただ機密の範囲があいまいで、安保を盾に際限なく広がる恣意的運用の懸念が残る。

経済安保新法案を巡る主な論点
経済安保新法案を巡る主な論点

 ▽布石
 法案の旗振り役の高市早苗経済安保担当相は27日の記者会見で「成立に向けて全力を尽くす」と意気込んだ。自民党本部で開かれた7日の会合では、資格創設を推進してきた大野敬太郎衆院議員が「構想5年、着手2年。ようやくここまで来た」と晴れやかに語った。
 資格ができれば、日本の機密保全に対する欧米からの信頼が高まり、軍事と産業の両方にまたがる宇宙分野の海外入札説明会に、日本企業が参加する機会が増えるといったメリットがある。
 政府は当初、この資格を2022年に成立した経済安保推進法に盛り込むつもりだった。だが犯罪歴などを調べる身辺調査は民間人のプライバシー権侵害だと国民から反発が出るのを警戒し、盛り込むのをやめた。代わりに将来への布石として「必要な措置」を求める付帯決議がまとまった。
 ▽萎縮
 国会審議の論点は多い。まずは機密の範囲で、法案は、流出した場合に重要物資の供給網やインフラを脅かす情報を対象にしているが、具体的にどのような情報を機密に指定するのかは分からない。資格創設を要望してきた経済界にも「議論が十分に尽くせていない」(経済同友会の意見書)との指摘がある。いたずらに機密を拡大すれば国民の知る権利は侵害されかねない。
 政府は民間企業の従業員や研究者を身辺調査した上で資格を付与する。本人の同意が前提になると説明しているが「同意していない家族や同居人らが知らぬ間に調査される恐れがある」(東北大の井原聡名誉教授)と危惧する声は根強い。
 有資格者が萎縮し、情報開示に消極的になることも想定される。法案は「取材の自由に十分に配慮」と明記したが、これで十分なのか疑問の声も出そうだ。
 ▽土産
 同様の法律と言えるのが、特定秘密保護法だ。安保上の政策判断や自衛隊の活動に必要な秘匿性の高い情報の流出を防ぐ目的で、安倍政権下の13年に成立した。賛否を巡り世論は割れ、国会周辺でデモが続いた。
 「特定秘密保護法のときのような偏った世論形成にならないよう注意すべきだ」。推進派の自民党議員は国会審議を前に身構える。「誤解なく必要性を理解してもらう」とも話す。
 一方、共産党や社民党といった野党は「国家権力が暴走する」などと徹底抗戦する構えを見せ、勉強会を開いて論戦に備えている。特定秘密保護法では与党が質疑を打ち切り、採決を強行した。野党幹部は「(法案の衆院通過を)岸田文雄首相が4月に訪米する際の土産にするのでは」と述べ、再び押し切られることに警戒感を示した。

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