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「現在地」言語哲学者の三木那由他さん 根を張るように思考巡らす

 映画の登場人物の会話に、あるいは人気バンドの歌詞に哲学的思考の種を見つけ、そこからぐんぐん根を張るように考えを巡らせていく。言語哲学者の三木那由他さんのエッセー集「言葉の風景、哲学のレンズ」(講談社)は、文芸誌「群像」の連載などをまとめたもので、前作「言葉の展望台」に続くシリーズ2作目だ。
 「哲学の本の多くは、そのアイデアを紹介したり解説したりすることがメインだと思いますが、このシリーズは私が日常で考えたことを哲学の視点から捉えてみよう、というもので、少し変わっているかもしれません」
 さまざまな場所で繰り広げられる言葉のコミュニケーションの成り立ちや仕組みを、哲学の視点を通して考える面白さを感じられる。
 映像作品やゲーム、漫画、音楽などを題材にしているのは「私自身がすごく好きだから。フィクションを研究対象にしたことはなくて、あくまでファンなんです」。
 時に難解そうな概念や聞き慣れない人名も出てくるが、好きなことやその魅力について軽やかに楽しげにつづる三木さんの文章が、読者を哲学の扉の奥へと自然にいざなう。
 「群像」での連載の中で、トランスジェンダーであることを明かした三木さん。本書ではジェンダーを巡る日本の現状について、司法や立法機関が用いる言葉を批判、考察しながら、丁寧にコミュニケーションを始めることの重要性を記した。
 「哲学が得意なのは概念の提案や議論の構築といったこと。言葉にしたいけれどうまく言葉にできないものがあるときに思考の整理や言語化に役立つものを提供できるかな、と思っています」

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