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【瀬戸際のヘイリー氏】「正統」保守の地歩喪失 新常態のトランプ政治

 米大統領選の共和党候補指名を争う南部サウスカロライナ州予備選で、州知事を6年務めたヘイリー元国連大使(52)が約20ポイントの差をつけられ、トランプ前大統領(77)に大敗した。

米サウスカロライナ州予備選で敗北したヘイリー元国連大使=24日(ロイター=共同)
米サウスカロライナ州予備選で敗北したヘイリー元国連大使=24日(ロイター=共同)

 予備選まで残った主要候補のうち、ただ1人の「正統」保守派だが、初戦の中西部アイオワ、第2戦の東部ニューハンプシャー、第3戦の西部ネバダ(不参加)の各州に続き、お膝元の南部でも勝てなかった。
 トランプ氏を嫌う大口献金者の援助を得て、巨額の選挙資金を投じながら完敗した事実は「正統」の地歩喪失を物語る。「異端」に救世を託す草の根の民衆に支えられ、トランプ主義が「新常態」となった米政治の一断面を映し出した。
 「ヘイリーという人はなかなかのやり手らしい」。ヘイリー氏がトランプ政権の国連大使を務めていた2017~18年ごろ、外務省や自民党関係者から何度かそうした声を聞いた。
 好意的に受け止められたのも無理はない。「米国第一」の全盛期にあって、日欧の同盟国とスクラムを組みながら「強いアメリカ」を実現した故レーガン元大統領ばりの政治姿勢は、期待の星に見えたろう。
 今回の選挙戦でも、その立場は健在だった。ロシアに侵攻されたウクライナへの断固たる支援を訴え、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に二の足を踏むバイデン政権の消極姿勢を批判した。
 大統領に復帰したら「1日で戦争を終わらせる」と言い放ち、併合地域をロシアに割譲するよう迫ると危惧されたトランプ氏とは対照的だ。ヘイリー氏は「自由を巡る戦いに勝たなければならない」と説き続けた。
 だが、内向きの有権者には響かなかった。予備選が集中する3月5日の「スーパーチューズデー」を待つことなく、トランプ氏の指名獲得が確実視される現状は、ヘイリー氏が体現する「正統」保守への忌避感の表れとも受け取れる。
 反逆の主体は労働者を中心とする低学歴の白人男性だ。国際関与という美名の下、同盟・友好国を気前よく助けてきた結果、いいようにむしり取られ、米国民が犠牲になったと主張するトランプ氏に共感する。
 ロシアの侵攻が3年目に入り、共和党員や支持者の約半数はウクライナ支援を「過剰」と見なす。関心事は生活にのしかかるインフレや、治安を脅かす不法移民の流入であり、世界に対する米国の責任ではない。
 「トランプ氏の強みは(草の根の)被害者意識に寄り添い、大衆の心に『私こそ、あなた方の守護者』として自らを投影する能力にある」と米政治アナリストのブルース・ストークス氏は取材に語る。
 インド系のヘイリー氏は世代交代を強調し、トランプ主義に挑んだが、草の根に渦巻く怨念の淵に沈んだ。選挙戦を続ける粘りに一条の光を見る半面、米政治の苛烈な構造変化にあらがい、のみ込まれた感が強い。(共同通信編集委員 川北省吾)

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