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【PFAS規制】水質目標、維持か強化か 近く議論、海外厳格化も

 発がん性などが疑われる化学物質群の有機フッ素化合物(PFAS)を巡り、政府の有識者会議が近く、飲み水などの目標値を再検討する。前提となる人の摂取許容量は、内閣府食品安全委員会の作業部会が先月、今の暫定値と同じとする結論をまとめた。このため水の目標値も据え置きになるとの見方が広がる。一方、海外では厳格化に踏み出す国も出ている。

水道水の目標値の例(水1リットル当たり)
水道水の目標値の例(水1リットル当たり)

 ▽摂取許容量
 作業部会は人が1日に摂取する許容量を代表物質のPFOAとPFOSの2物質でそれぞれ体重1キロ当たり20ナノグラム(ナノは10億分の1)とした。国内外の研究成果を1年にわたり検討して導いた。
 この数値は、政府が2020年に水道や環境中の水の暫定目標値を算出した際に採用したのと同じ値だ。このため近く行われる目標値の見直しの議論は、現状維持で決着するとの雰囲気が政府内に漂う。現状はPFOAとPFOSの合計で水1リットル当たり50ナノグラムとされている。
 ▽データ不足
 摂取許容量が従来と同じ値になった背景には、PFASの毒性は不確実性が大きいとする作業部会の考え方がある。
 作業部会は、人の摂取と病気の関連を調べたさまざまな疫学研究を検証した。例えば発がん性については、複数の報告があるが「証拠は限定的」などと結論付けた。動物実験の結果も、人間に当てはめられるかどうか判断できないとした。
 結局、摂取許容量の算出に採用されたのは、現行の水の暫定目標値を決めた際の根拠になった動物実験。ラットで子の体重が抑制されたなどとする内容で、米環境保護庁(EPA)が16年、摂取許容量の算出に用いた。
 座長の姫野誠一郎・昭和大客員教授は、結論は「科学的な議論の結果」と強調しつつ、データ不足の中で評価せざるを得なかったと語る。一方、作業部会に参加していない京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「過剰な厳密性を要求した結果、現在の暫定目標値の評価から踏み出せなかった」と指摘する。
 ▽予防原則
 そのEPAは23年、PFOAとPFOSの飲料水の規制値を大幅に厳格化する案を示した。「この程度なら発がんリスクがない」という水準はないと判断。今の技術で検出できる限界の1リットル当たり各4ナノグラムを規制値とした。ドイツも28年に飲料水基準を引き上げ、4種類のPFAS合計で1リットル当たり20ナノグラムとする。
 欧州食品安全機関(EFSA)は20年、摂取許容量として4種類のPFASの合計で、7日間で体重1キロ当たり4・4ナノグラムと示した。ワクチン接種後の免疫反応がPFAS摂取で低下するとの研究結果を根拠にしており、日本より大幅に低い。作業部会も同じ研究を吟味したが「証拠の質や十分さに課題がある」として採用しなかった。
 環境汚染に詳しい熊本学園大の中地重晴教授(環境化学)は、重大な被害の恐れがある場合、因果関係が十分に証明されていなくても対策を講じる「予防原則」を適用すべきだと指摘する。今後の水質目標見直しについては「市民の健康を守るため、国際動向を踏まえ、より厳しい基準を作る必要がある」と強調した。

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