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【グアンタナモ作家ビザ拒否】拷問横行した対テロ戦争 断てるか「憎悪の連鎖」

 日本政府に入国査証(ビザ)発給を拒否された作家モハメドゥ・スラヒさん(53)は、14年余り監禁されたグアンタナモ米海軍基地の収容施設でどんな仕打ちを受け、何を考えたのか。「テロ容疑者」とされた人たちが押し込められたが、大半はテロと無関係。拷問が横行し、米国の対テロ戦争が残した「負の遺産」として指弾された。非人道的扱いは新たな憎しみを生んだ。「憎悪の連鎖」は断ち切れるのか。

国際テロ組織アルカイダの関係者が拘束されているキューバのグアンタナモ米軍基地=2002年1月(ロイター=共同)
国際テロ組織アルカイダの関係者が拘束されているキューバのグアンタナモ米軍基地=2002年1月(ロイター=共同)
キューバ・グアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容施設で、祈りをささげる収容者=2009年9月(共同)
キューバ・グアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容施設で、祈りをささげる収容者=2009年9月(共同)
英議会を訪ね、作家らに囲まれるモハメドゥ・スラヒさん(中央)=2023年6月(本人提供)
英議会を訪ね、作家らに囲まれるモハメドゥ・スラヒさん(中央)=2023年6月(本人提供)
対テロ戦争とスラヒさんの歩み
対テロ戦争とスラヒさんの歩み
国際テロ組織アルカイダの関係者が拘束されているキューバのグアンタナモ米軍基地=2002年1月(ロイター=共同)
キューバ・グアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容施設で、祈りをささげる収容者=2009年9月(共同)
英議会を訪ね、作家らに囲まれるモハメドゥ・スラヒさん(中央)=2023年6月(本人提供)
対テロ戦争とスラヒさんの歩み

 ▽許す
 「(国際テロ組織)アルカイダの勧誘者と認めろ」。アルカイダとの関係を疑われたスラヒさんに、米中央情報局(CIA)らの取調官が激しく迫った。昼夜を問わない尋問が数十日続いた。殴打されたり、低温の部屋に置き去りにされたりした。スラヒさんが信仰するイスラム教を侮辱するような、女性兵士による性的暴行も受けた。
 生きる力を奪われ「指先に血がにじむまで髪を抜いた」。海水を飲ませて殴る拷問や、祖国モーリタニアにいる母を連行するという脅迫に耐えきれず、容疑をいったん認めてしまった時もある。
 2001年の米中枢同時テロの主犯格とされる収容者は一部いるが、多くは非戦闘員。10代の少年から80代の老人がいた。「鎖でつながれ、外部と遮断された日々だった」。ハンストで抵抗する者や自殺した収容者も少なくなかった。
 心的外傷後ストレス障害(PTSD)に今も苦しむスラヒさん。それでも虐待に携わった人や米国を「許す」と言う。「憎しみに支配されるのではなく、許し、和解することで新たな人生を開く」と決意。支えはグアンタナモでの体験だ。「(解放されるまで)私の側に立ってくれた人も、拷問した人もイスラム教やキリスト教などさまざまな宗教を信じる、多様な人だった」
 世界で紛争が絶えない中、欧州各地の講演や交流サイト(SNS)でこの思いを発信している。
 ▽各地で続く
 同時テロを契機に始まった米国の対テロ戦争は大幅に縮小したものの、各地で続く。同時テロ直後のアフガニスタン侵攻を皮切りに、03年にはイラク戦争も仕掛けた。だがイラク開戦の理由だった大量破壊兵器の開発疑惑は虚偽と判明、イラク国内は大混乱し、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許した。
 アルカイダとISのトップはいずれも米軍が殺害。ISはイラクやシリアで重要拠点を失ったがアフリカなどに勢力を広げた。米軍関係者は「過激思想は世界に拡散した」と話す。一方、昨年10月のパレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘以降、中東の米軍基地が親イラン武装勢力による相次ぐ攻撃にさらされ情勢は緊迫している。
 対テロ戦争を分析している米ブラウン大の研究チームは、グアンタナモでの虐待がISなど過激派の宣伝活動に悪用されたり、逆に過激思想を強固にさせたりしたと指摘。母国に戻った元収容者が当局から非人道的扱いを受けている例も挙げた。
 同時テロの犠牲者は約3千人。しかし対テロ戦争の死者は米兵約7千人に対し民間人は推定で41万~43万人。大半はイラクやシリア、アフガンで巻き込まれた人たちだ。(共同通信編集委員 三井潔)

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