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【環境破壊に向き合う】SDGsを再び軌道に 問題解決は共通の利益 国連開発計画総裁 アヒム・シュタイナー

 深刻化する地球温暖化や自然破壊、貧困や紛争、格差の拡大が世界を不安定にし、将来への希望を失う若い世代が増えている。長い間、環境や開発の問題に取り組んできた経験から「希望を失ってはいけない」と訴える2人の識者の声を聞いた。

インタビューに答えるアヒム・シュタイナー国連開発計画総裁=1月、スイス東部・ダボス(共同)
インタビューに答えるアヒム・シュタイナー国連開発計画総裁=1月、スイス東部・ダボス(共同)
アヒム・シュタイナー国連開発計画総裁
アヒム・シュタイナー国連開発計画総裁
米ニューヨークの国連本部の庭園に設置された持続可能な開発目標(SDGs)推進の展示館=2023年9月(共同)
米ニューヨークの国連本部の庭園に設置された持続可能な開発目標(SDGs)推進の展示館=2023年9月(共同)
インタビューに答えるアヒム・シュタイナー国連開発計画総裁=1月、スイス東部・ダボス(共同)
アヒム・シュタイナー国連開発計画総裁
米ニューヨークの国連本部の庭園に設置された持続可能な開発目標(SDGs)推進の展示館=2023年9月(共同)

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 ここ数年、新型コロナウイルスのパンデミック、戦争や紛争など世界はさまざまなショックを体験した。2023年は人類史上、最も暑い年だった。紛争によって国内で移住を迫られたり、難民となったりした人の数は1945年以降、最も多かった。発展途上国の債務危機も深刻化している。
 国家間でも一国の中でも格差が拡大し、それが政治的な不安定につながっている。各国の政策は内向きとなり、気候変動や貧困など人類共通の課題に取り組む能力が失われた結果、さらに問題が悪化するという悪循環が起こっている。
 こんな状況だからこそ、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた取り組みを、再び、軌道に乗せることが重要なのだ。さらなる後退は許されないし、SDGsを疑い、捨てることは、自分たちの未来を疑い、豊かな未来を捨てることにつながる。
 不公平で持続可能でない社会がいつまでも続けば、人類の将来にとって大きな脅威となる。各国の意見に違いはあるとしても、われわれは互いに依存し合っていて、気候危機や貧困、格差など未来に対する脅威と闘うことは、各国に共通した利益なのだというSDGsの根本精神を再認識すべきだ。
 われわれは技術の進歩から学ぶ必要がある。過去10年間でデジタル技術は急激に進み、今では世界の65%超がインターネットへのアクセスが可能になった。人工知能(AI)もさまざまな変革への大きなポテンシャルを持っている。
 気候変動は深刻だが、人類はそれに対処する技術を既に手にしている。普及を阻んでいるのは、年間7兆ドルともいわれる化石燃料への補助金だ。この資金を発展途上国のエネルギー転換などに向ければ、グリーンな経済への世界の動きは急速に進むだろう。
 国内の分断や不安定化が深刻化する中で、政治家は目先のリスクへの対応を迫られ、気候変動や生物多様性の消失、格差解消といった長期的な課題への対応力をなくしている。だがこれらの課題がなくなるわけではないので、このような姿勢を続けていても問題解決にはつながらない。
 企業が自社の短期的な利益を守るために政治家にロビイングをするだけでは、政治家の取り組みが進むはずがない。
 政治家は長期的なリスクへの対応力を高める必要があるし、企業は自らの社会的責任や社会的な規範に基づいた行動を取ることが求められる。
 日本をはじめとする多くの先進国では財政状況が悪化し、途上国への開発資金援助が減少している。途上国が厳しい状況に置かれ、資金援助がいつにも増して必要な時にこの状況が生まれている。これに大きな懸念を抱いている。
 多くの先進国には、自国内の問題に対処すると同時に、途上国がグリーンな経済への移行を支援するだけの豊かさがまだある。
 途上国援助は善意ではなく、支援する側の国にとっても利益をもたらす。日本の市民もぜひ、その重要性を認識してもらいたい。(談)
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 ACHIM STEINER 1961年ブラジル生まれ。国際自然保護連合(IUCN)や国連環境計画(UNEP)の事務局長などを歴任。2017年から現職。

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