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【環境破壊に向き合う】人類が忘れた英知 若者の声と行動がかぎ 霊長類学者 ジェーン・グドール

 気候変動の影響は拡大し、生物の絶滅が深刻化している。地球の生態系は多くの生物が織りなすタペストリーのようなものなのだが、生物の絶滅はその中から、1本、また1本と糸を抜いてゆくようなものだ。最初は影響は見えなくても、やがてタペストリーは壁から崩れ落ちてしまう。

インタビューに答えるジェーン・グドール博士=1月、スイス東部・ダボス(共同)
インタビューに答えるジェーン・グドール博士=1月、スイス東部・ダボス(共同)
霊長類学者のジェーン・グドール博士
霊長類学者のジェーン・グドール博士
チンパンジーとジェーン・グドール博士=ケニア((C)Michael Neugebauer)
チンパンジーとジェーン・グドール博士=ケニア((C)Michael Neugebauer)
インタビューに答えるジェーン・グドール博士=1月、スイス東部・ダボス(共同)
霊長類学者のジェーン・グドール博士
チンパンジーとジェーン・グドール博士=ケニア((C)Michael Neugebauer)

 火星に探査機を送り、ロボットを開発し、人工知能(AI)のような洗練された技術を手に入れた人類は、地球上に現れた生物の中で最も知的な生物となったにもかかわらず、大切な英知を失ってしまった。
 人間も自然の一部であり、食べ物など多くの物を自然に依存していることを忘れてしまった。
 政治家も企業のトップも短期的な利益にのみ注目し、未来のことを考えずにきた。英知とは自分の今日の決断が、将来世代に何をもたらすかを理解する力だ。
 私が最初にタンザニアのゴンベ国立公園でチンパンジーの研究を始めた1960年ごろ、周囲は一面の森だった。だが、80年代にはゴンベの森は農地の真ん中にある島のようになってしまった。人々は生活のために木を切り、農地を広げていった。彼らに、木を切るなといってもだめで、別の生活手段を提供しなければならない。
 環境問題に取り組む非常に多くの人が、さまざまな運動を繰り広げている。正しい行動ではあるが、思うような成果は得られていない。私は人々と議論し、あれをやれ、これをやるなというよりも心に響くようなメッセージやストーリーを届けることが重要だと思っている。人々が心の中から変わらなければならないのだ。
 重要なのは、心に届く若者の声だ。彼らの声には世界を変える力がある。シンガポールで持続可能なビジネスの実現に取り組む企業のトップに会った。彼が自分の企業の方向を変えようと思ったきっかけの一つは8歳の子供に「お父さんの会社は地球を壊したりしないよね」と言われたことだったという。
 環境問題が深刻化し、世界の至る所で、多くの若者が地球環境の将来に不安を抱き、未来に希望を失いかけている。これは重大な問題だ。
 だが、一方で環境問題に関する認識は世界中で高まり、若者の動きも盛んになっている。
 私たちは91年にタンザニアで「ルーツ・アンド・シューツ」という若者による環境保全や貧困廃絶プログラムを始めた。「根っこと新芽」を意味するその運動は今、日本を含めた多くの国に広がっている。ゴンベでも近年、再び森が増え始めている。
 人々が暮らしの中で正しい選択をすれば、変化が生まれる。小さな行動で意味がないと思わないでほしい。小さな行動でも何百万人がそれを行えば、地球に影響を与えられる。しかも自然にはまだ、強靱さがある。
 人類に残された時間は少なく、行動の加速と拡大が急務だ。希望を失ってはいけないし、失う理由もない。日本の若者もそれを忘れないでほしい。(談)
   ×  ×
 Jane・Goodall 1934年、英国生まれ。60年からタンザニアのゴンベ国立公園で野生のチンパンジーの研究に従事、道具の使用など画期的な発見をした。環境保全運動にも熱心で、今でも世界中で講演を続けている。

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